2008年6月9日
福田ビジョンへのコメント
低い中期目標を示唆。G8議長国日本の責任と役割への気概がみえず
「日本型」セクター別積み上げ方式・排出量取引から脱却を
気候ネットワーク 代表 浅岡美恵
G8洞爺湖サミットを目前に控えて、福田首相は、本日、福田ビジョンを明らかにした。危険な気候変動の悪影響を防止するために、気温の上昇を工業化の前から2℃未満に止める必要がある。世界は既に、気候の安定に向けて動きだしている。残された時間は少ない。
しかしながら、本日発表された福田ビジョンは、これまでの20年余にわたる世界の地球温暖化問題に対する国際社会の取組を尊重する姿勢を欠き、気候の安定に向けた世界の取組をリードする目的も気概も窺われず、これまでの日本の経済界や経済産業省の取組や主張を正当化するものであって、失望を禁じ得ない。
<長期目標〜世界の要請に応えるには不十分>
長期目標については、2050年に60〜80%削減を目標としたものの、どのレベルで安定化させるのかを明らかにせず、90年比6〜7%増加(6ガス)している現状を基準年とするもので、危険な気候変動を防止するために「先進国が途上国以上の貢献をすべき」との世界の要請に応えるものというには不十分である。
<中期目標〜具体的な数値を欠き、低い目標設定を示唆>
また、中期目標については、来年の然るべき時期に日本の国別総量目標を発表するとして、具体的な目標数値の言明を避けた上、国民的議論も検証もされていない経済産業省の長期エネルギー需給見通しの報告を、セクター別アプローチを緻密に適用し積み上げたものとした上、吸収源を加えて2005年比14%減(6ガス)とするものである。京都議定書の目標年から現状(2005年)で13%増加しているCO2については、実質的には90年比で−3%に過ぎない。他方、EUは90年以降削減し、2009年合意において、世界の協力のもとに温室効果ガスを90年比30%削減することを言明している。
また、福田ビジョンでは、国別目標の設定に当たって、今後とも、このようなセクター別積み上げ方式について強調していく姿勢を明らかにした。この考え方は、バリでの先進国全体で90年比で25〜40%の削減が必要との合意を踏まえるものとはいえず、先のG8環境大臣会合での日本のセクター別積み上げ方式は中期目標設定に代替するものではないとの鴨下大臣の説明との整合性も問われるであろう。
<政策措置〜「日本型」セクター別積み上げ方式・排出量取引でいいのか>
CO2に価格をつけ、市場メカニズムを活用する手法の一つとして、排出量取引制度の提案をする姿勢に転ずべきとし、取引制度の導入に一歩踏み込んではいるが、日本の特色を生かせる制度設計のために、今年の秋には試行的実施を開始するとしている。長期的に大幅排出削減のためには、国民全体の意欲とともに、日本の排出量の約7割を占める大口排出源に対するキャップ&トレード型排出量取引制度の導入など排出削減にインセンティブを与える仕組みが必要である。福田ビジョンによる取引制度は、確実に削減する理念を欠いたまま、「試行」の名のもとに、自主行動計画の目標指標や目標数値の選択・設定を事業者に委ねる仕組みを今後も延長したいとする経済界の目論見が透けて見えている。
洞爺湖サミットは、昨年7月の2050年に世界で半減するとの目標を示したハイリゲンダム・サミットでの成果をさらに前進させ、2009年末のCOP15で危険な気候変動を防止する2013年以降の枠組みについての包括合意に至るための重要なステップである。議長国である日本は、包括合意に向けて確実に交渉を前進させる重い責任を負っており、またその役割が国際社会から期待されている。福田首相は、国際社会における日本の責務を思い起こし、日本の経済社会のためにも真に新たな時代を築くために、洞爺湖サミットまでに、バリ合意に沿った中期目標を掲げ、削減を確実にするキャップ&トレード型取引制度の導入等を明言することを強く求める。
発表資料については、下のPDFファイルをご覧ください。
以上
発表資料
<プレスリリース>福田ビジョンへのコメント(PDF20KB)