2002年3月13日

このように重要なことを官僚だけで決めて良いのか
~「京都議定書の6%削減の割り振り」は開かれた場で議論して決めるべき~

 

気候ネットワーク
代表 浅岡美恵

本日13日、地球温暖化問題への国内対策に関する関係審議会合同会議(以下「合同会議」)が開催され(非公開)、新たな「地球温暖化対策推進大綱」(以下「新大綱」)の案について、委員からの意見聴取が行われた。
 「新大綱」は来週にも地球温暖化対策推進本部(本部長・小泉首相)で決定される見込みで、政府の今後の温暖化政策の柱となる重要なものと位置付けられている。
 しかしながら、今行われている「新大綱」策定プロセスと伝えられる案の中身には極めて大きな問題がある。以下、問題点を指摘する。

1. 「新大綱」策定プロセスは、省庁だけの密室の不透明なプロセスになっており大問題である
~極めて重要な京都議定書の「6%目標達成の割り振り」を密室で決めるべきではない~

  • 今行われている「新大綱」の策定は、省庁間の協議だけで進められている。
  • 「合同会議」も相当に「儀式的」な存在であり、‘参加’を装う「免罪符」と言わざるを得ない。
  • 1月まで中央環境審議会や産業構造審議会など不十分ながらも開かれた場で議論されてきたが、これらの議論をほとんど反映させることなく、「新大綱」は実質的に官僚がすべて作り上げており、一般市民はもちろん、国会議員の関与もない。
  • 新大綱案に含まれている京都議定書の「6%削減の割り振り」(下表参照)やエネルギー起源の二酸化炭素(CO2)の産業・民生・運輸各部門の削減率(下記2.参照)は極めて重要な日本全体の問題であり、各セクターが参加する開かれた場か国会においてきちんと議論して決めるべきである。
  • このように、実施主体となる市民が関与できない密室での意思決定は、市民に取り組みを促すことに逆行するものである。

2.「6%削減の割り振り」などの「新大綱」案の中身の問題
   ~早期に国内でCO2や代替フロンを削減する政策を強化すべきである~

現在策定中の「新大綱」案の「6%」の割り振りは現大綱のものとほとんど同じであり(下表参照)、中身について以下のような問題がある。

●全体で「±0%」とされているエネルギー起源のCO2については、2010年の削減率(1990年比)として「産業-7%」「民生-2%」「運輸+17%」とする各部門の数字が出されているが、1990年以降現在までに排出量が1割も増えてしまった現行政策の不十分さをきちんと検証した上のものとは到底考えられない。過去の政策をきちんと検証し政策の強化を行うべきである。

  • エネルギー供給では原発の発電量を現在から約3割増加させるとしているが、最近の原発建設の進捗状況からして全く非現実的である。できる見込みがないものを含めるのは問題であり、改めるべき。
  • 風力・太陽光などの自然エネルギーについては、政府が準備しているいわゆる「RPS法」ではこの案に書かれている目標量を到底実現できるとは思えない。RPS法でなく実効性の高いドイツ式の固定価格買取型の法律を導入する必要がある。なお全般に、削減目標量に比べて、その実現をはかるための政策・措置が極めて弱いので、実効性の高い政策・措置を多く追加すべきである。

●「国民各層の更なる活動」では、個人の省エネ行動のメニューを挙げているが、普及啓発だけで実行されるとは考え難く、削減をカウントするのは不適切である。民生への政策として政府が実施すべきなのは、炭素税など適切なインセンティブを付与する政策である。

●HFC等の代替フロン類は限られた分野で使われる物質であり政策による他の物質や技術への誘導によって削減は十分に可能であり、実際に近年排出量は減っている。「+2%」は今後の大幅増を容認するもので、今回見直されないのは極めておかしい。一例として、今まだHCFCが使われている発泡・断熱用途でHFCへシフトしないように誘導する適切な政策をとればかなりの削減が可能である。

●森林吸収は国際的に無条件で「1300万炭素トン=3.9%」が認められた訳ではないにもかかわらず、根拠を示さずに今回の案に「3.9%」と書いているのは問題である。不確かな森林吸収に依存するのは目標達成を危うくするものであり、CO2や代替フロン類の削減を強化すべきである。

●2008年近くになってあわてて削減を強化するのは、経済的にもマイナス影響が大きく好ましくない。環境面から早期削減が必須なのは言うまでもなく、3段階の「ステップ・バイ・ステップのアプローチ」においては、第1ステップから各種の政策を積極的に実施することを明示すべきである。

「6%割り振り」表

区 分

現大綱

新大綱案

エネルギー起源CO2

±0.0%

±0.0%

メタン・一酸化二窒素・エネルギー起源以外CO2

-0.5%

-0.5%

革新的技術開発・国民各層の更なる温暖化防止活動

-2.0%

-2.0%

HFC・PFC・SF6

+2.0%

+2.0%

森林吸収源

-3.7%

-3.9%

京都メカニズム(排出量取引など)(※)

-1.8%

-1.6%

 計

-6.0%

-6.0%

※=上の5つの残りを計算したもので、文章に数字が明記されている訳ではない

 

3.「京都議定書目標達成計画」は開かれたプロセスで策定すべきである

  • 「新大綱」は、改正される「地球温暖化対策の推進に関する法律」(改正地球温暖化対策推進法)に基づいて策定される「京都議定書目標達成計画」(以下「計画」)の基礎とすることが示されている。
  • このことは事実上「計画」の内容を「新大綱」によって事前に決めてしまいかねないもので、法律改正後の「計画」作りを形骸化させるものである。
  • 法律改正後に政府が「計画」を策定するプロセスについては、「新大綱」案では「合同会議」の意見を聴取するとしか書かれていない。「計画」の策定は、仮に「新大綱」を基礎としてもそれに縛られるのではなく、市民が実施主体となるためにも、情報が公開され各セクターが参加したプロセスで十分に議論して練り上げるべきである。

以上

問合せ

特定非営利活動法人 気候ネットワーク
URL:http://www.kikonet.org/