「2013年比20%削減」=「1990年比で約10%削減」
”温暖化対策の放棄”を世界に発信?
基準年ずらしの見せかけのかさ上げは、国際的信頼を失うだけ

2015年4月10日
認定NPO法人 気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵

 

昨日4月9日の日本経済新聞で、「温暖化ガス、20%削減 30年目標に政府調整13年比で」と報道されました。記事によれば、「政府は2030年までの温暖化ガス排出量を、13年比で20%前後削減する新たな目標を打ち出す方向で調整に入った」とされています。官房長官はこの情報について否定していますが、もしこのような削減目標を日本の国別目標案(約束草案)として提出すれば、日本は温暖化対策を放棄したと世界から見なされ、国際社会からの信頼を失い、パリでの新たな国際枠組み合意の成立を危うくさせかねません。日本政府は、こうしたごまかしの数字で国際交渉に臨むのではなく、世界に恥ずかしくない目標案を示すべきです。

 

  • 基準年ずらしのトリックは許容されない

今回「基準年」とされた2013年の温室効果ガス排出量は、近年のうちで最大の13億9,500万トン-CO2(速報値)であり、京都議定書の基準年である1990年の排出量12億6,100万トン-CO2から約10%増えています。つまり、2013年比20%削減は、京都議定書の基準年の1990年比では約10%削減にしかなりません。報道された目標案は、基準年を1990年から2013年に変更することによって削減量を10%かさ上げし、「20%削減」に見せようとしているに過ぎません。本質的な排出削減努力ではなく、見かけ上の排出削減を大きく見せようとするトリックは許されません。

 

  • 低すぎる削減目標はパリ合意の成立を危うくする

2013年のCOP19において、日本政府は従前の「2020年25%削減」に代わって、「2020年に2005年比3.8%削減(1990年比3.1%増加)」という暫定目標を提示しました。これに対し、世界各国からは、削減目標を後退させるのではなく、パリ合意の貢献のために深掘りすることが求められていました。今回の報道で示されたような「2030年に1990年比10%削減」という水準は、世界の要請を全く無視した数字といえます。

 

  • 「地球平均気温上昇2℃未満」目標達成に向けた経路としても不十分

IPCC第5次評価報告書で指摘されているように、大気中の温室効果ガスの累積排出量を減らすためには、長期目標に加え、そこに至る排出削減の経路が重要です。かつて閣議決定した長期目標「2050年に80%削減」に直線的に向かう経路からは、「2013年比で2030年20%削減」は不十分です。2030年の排出量を大きく見積もることは、将来世代への負担を残すことになり、決して適切とは言えません。

 

  • 世界に恥じない数値目標へ見直しを

現在、EUや米国、ロシア、メキシコなど計34カ国がすでに国別目標案(約束草案)を提出していますが、日本は3月末の提出期限に間に合わず、遅れをとっています。「2020年以降の目標」を設定するにあたって、国際社会や将来世代にも恥じない目標を打ち出し、2050年までに世界で温室効果ガスを半減するという人類共通の課題に正面から立ち向かい、真に野心的な目標へと引き上げることを強く望みます。気候ネットワークも参加する日本の気候変動NGOのネットワークCAN-Japanは「1990年比で2030年までに40~50%削減」が可能であり、この目標を掲げるべきであると提言しています。

 

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プレスリリース本文(PDF)

「2013年比20%削減」=「1990年比で約10%削減」 ”温暖化対策の放棄”を世界に発信? 基準年ずらしの見せかけのかさ上げは、国際的信頼を失うだけ(2015/4/10)

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