11月30日、気候ネットワークは「武豊火力発電所リプレース計画 環境影響評価方法書」に対する意見書を提出しました。

「武豊火力発電所リプレース計画 環境影響評価方法書」に対する意見書

◯意見
環境大臣は今年8月14日、本石炭火力発電所の計画段階環境配慮書に対する意見を公表し、「是認することはできない」という立場を表明した。7月2日に電気事業連合会と新電力(特定規模電気事業者)等23社が2030年度の排出係数を0.37kg-CO2/kWh程度を目指すとする「電気事業における低炭素社会実行計画」や自主的枠組みを発表したが、この業界団体の自主目標の実効性を疑問視し、具体的な仕組みやルール作りが必要不可欠だとしてその再考を促したのである。環境大臣の見解に賛同する社会の声は強く、これを無視する本事業の実施には反対である。

1.石炭火力発電所の建設の問題について

① 気候変動問題の緊急性
 昨今、早急な気候変動対策が求められており、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書では、とりわけ石炭について、エネルギーインフラ投資の在り方を変えていく必要性が強調されているところである。2015年6月にドイツで開催されたG7サミットでも、気候変動が最重要課題の一つと位置づけられ、「脱炭素化(decarbonization)」をめざすことが首脳宣言に盛り込まれた。そのような状況の中、天然ガス(LNG)発電の約2倍のCO2を排出する石炭火力を新設することは、将来の気候変動へ甚大な環境影響を及ぼすことになる。よって、そのことを無視した本事業の実施には反対する。

②温室効果ガス排出量について
 本方法書ではUSC(超々臨界圧)を採用し、BAT(Best Available Technology)の参考表において「(A)経済性・信頼性において問題なく商用プラントとして既に運転を開始している最新鋭の発電技術」以上に該当するUSC発電設備の導入により、発電電力量当たりの二酸化炭素排出量は約0.74kg-CO2/kWh、総排出量は年間約600万 t-CO2としている。しかし、従来からの効率を向上しても、最新のLNG火力の約2倍にも及ぶCO2排出量であり、拡大によって追加的に排出される膨大なCO2による影響への配慮が全く見られないことは問題である。このような計画は看過できない。また、対岸にある碧南火力発電所からも膨大なCO2が排出されており、中部電力の電力排出係数の悪化をもたらす可能性が高い。最新型のLNG火力発電と比較し、超過する分の排出削減を具体的にどのように実現させるのかについても検討する必要がある。

③エネルギー需要の予測について
 今後、省エネ・再生可能エネルギーが普及していくことや、本発電所が稼動する2021年度以降には人口は減少に転じることが予測されている。こうした影響を受けて、エネルギー需要がさらに減少することを考えると、このような大幅な設備増加は必要であるとは考えにくい。

④石炭火力発電の技術的限界
 今後建設される発電所は、少なくともLNG火力が達成している約350g-CO2/kWhというCO2排出原単位を実現できる水準を満たすべきである。この観点からすると、石炭火力発電はいかなる高効率技術を用いてもこのレベルには到達しがたい。再生可能エネルギーや高効率のLNG火力発電など様々な発電方法がある中で、あえて最悪の石炭火力発電所を新たに建設するという判断自体が環境への配慮を著しく欠いていると言わざるを得ない。

⑤国の2050年長期目標との整合性について
 日本政府は、第四次環境基本計画(2012年4月27日閣議決定)において、2050年に温室効果ガス排出量を80%削減させる目標を掲げている。しかし、本計画が実行されれば、排出は減らず、むしろ増えることになる。本事業が少なくとも30年程度稼働することを考えると、こうした国の目標と整合せず、本事業の正当性は認められない。

⑥第四次エネルギー基本計画との整合性について
 エネルギー基本計画における記述をもとに、石炭は経済性に優れるとしているが、為替動向の変化や、途上国を中心とする石炭需要の変化などの石炭価格への影響は予測がつかない上、国際的なCO2規制強化による炭素価格の上昇によって、石炭火力発電の経済性は低下する可能性が高い。

2.CO2排出に関する取り扱いと「東京電力の火力電源入札に関する関係局長級会議取りまとめ」との整合性について

 IPCC第5次評価報告書において示されたように、CO2は気候変動の主因であり、地球環境に多大な 影響を及ぼすことは明白である。BATを採用する場合でも、事業によって引き起こされるCO2の総排出量の影響を検討し、対応を実施することは、事業者の社会的責任として不可避である。
 また、環境大臣から経産大臣への意見書では、「東京電力の火力電源入札に関する関係局長級会議 取りまとめ」をふまえて環境対策を行うことを求めており、経産大臣意見でもその旨が明記されている。さらに2015年6月12 日、環境大臣は西沖の山発電所(仮称)の計画段階環境配慮書に対する意見として、電力業界全体が温室効果ガス削減に取り組む枠組みが未構築であること、環境対策が明らかにされていないことを問題視している。
 2015年7月17日には電力業界の自主的枠組みが構築されたが、その実効性は疑問が持たれており、これまでに環境大臣は本件を含む合計5件の計画に対して「是認できない」と意見を表明している。電力業界の自主的枠組みに参加する事業者は、取りまとめを踏まえて具体的にいつまでにどのような対応を行うのか、スケジュールを含めて明確にする責任がある。こうした現状を踏まえず、事業を進めることは無責任と言わざるをえない。

3.CO2排出による環境影響に関する具体的情報について

 CO2排出原単位や総排出量、設備利用率、石炭種は示されているが、使用石炭種を変える場合、あるいは、その可能性があるのであれば、主要産、炭地毎の評価を実施すべきである。今後、低品位炭を使用して発電効率が低下した場合、環境影響評価を改めて実施するなどの対応策は事前に示されるべきである。これらは事業実施の是非や、周辺 環境への影響にも深く関わる情報であると考えられるため、事業者はこれを早急に開示、取り決めをするべきである。

4.CO2排出量の予測、評価手法について

 評価の手法として、「二酸化炭素に係る環境影響が、実行可能な範囲内で回避又は低減されている かを検討し、環境保全についての配慮が適正になされているかを検討する」とされている。CO2を大量に排出する石炭火力を選択すること自体が、環境負荷を回避・低減できていないといわざるを得ないが、「実行可能な範囲」で環境負荷が「回避又は低減」されているかをどのように判断するのか、基準を示すべきである。また同様に、東京電力の火力電源入札に関する関係局長級会議取りまとめとの整合性についても、判断基準を示すべきである

5.大気への影響について

・粉じん等について
 石炭の粉塵については、「石炭は屋内式貯炭設備に貯蔵し、石炭粉じんの飛散防止を図ることから、評価項目として選定しない。」とあるが、石炭搬入の際は開口部などが完全密閉にはならないので、飛散の評価を実施すべきである。石炭の種類によっては、低品位炭使用などがあれば高濃度になる可能性があるので、主要石炭種類毎に評価を実施すべき。

6.情報公開について

 環境アセスメントにおいて公開される方法書などの資料は、縦覧期間が終了しても閲覧できるようにするべきである。また、期間中においても、印刷が可能にするなど利便性を高めるよう求める。

 

意見書(ダウンロードはこちらから)

「武豊火力発電所リプレース計画 環境影響評価方法書」に対する意見書(PDF)

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