12月2日、気候ネットワークは、株式会社JERAが計画している「(仮称)横須賀火力発電所新1・2号機建設計画」に対する意見書を提出しました。

(仮称)横須賀火力発電所新1・2号機建設計画 環境影響評価方法書に対する意見書

1. 配慮書に対する経済産業大臣の意見及び事業者の見解について(第5章関係)
① 業界の自主目標との関係
 二酸化炭素に関する事業者見解では「小売段階が調達する電力を通じて発電段階での低炭素化が確保されるよう、高度化法では小売段階において低炭素化の遵守が求められていることを理解するとともに、自主的枠組み参加事業者に電力を供給するよう努め、その旨を準備書において明確にします」とあります。しかし、現時点では石炭火力発電所の建設計画が膨大で、事業者が目標として示している原単位目標0.37kg/kWhの達成は非常に困難な状況とみられています。一方で、東京電力の柏崎刈羽原発も問題が多すぎて再稼働すべきではなく、非化石電源として排出源単位を下げることが期待できる状況にはありません。こうした状況下では、例えBATを満たしているとしても、0.760kg/kWhもの排出源単位を持つ本計画は目標達成をより危うくするものではないでしょうか。業界の自主目標を達成する手段をより明確に示すべきです。

② CCSおよび長期的な二酸化炭素削減対策について
 CCSに対して事業者見解では「現時点において発電事業者が個別発電所の技術オプションとして選択することは不可能である」と回答していますが、「パリ協定」で求められる「1.5~2℃未満」の目標達成には、2050年に人為的な温室効果ガス排出をゼロにすることが求められます。本事業が稼働し40年動き続ければ、「パリ協定」の達成を危うくし、気候変動を加速化します。事業者として長期的な温室効果ガスの削減に向け具体的かつ明確な対応策を示すべきです。

2. 調査予測及び評価の手法(温室効果ガス等)について(第6章関係)
① 「予測対象時期等」について(第6.3-7表)
 「発電所の運転が定常状態となる時期」とありますが、予測時期は「運転開始から運転を終了するまでの時期」とした上で、トータルの平均値として排出原単位を算定するべきです。運転開始から定常状態になるまでは効率も悪く、二酸化炭素の排出係数も高くなることが想定されますが、その分を除いて算定するべきではないと考えます。

②「評価の手法」について(第6.3-7表)
 評価の手法として「『東京電力の火力電源入札に関する関係局長会議取りまとめ』との整合が図られているかどうか」と評価手法が示されていますが、これは「パリ協定」が採択される前のもので不十分です。「地球の平均気温を1.5~2℃未満にする」との目標と、21世紀後半には温室効果ガスの排出をゼロにすることを決めた『パリ協定』が2016年11月4日に発効し、同年11月8日に日本も批准の手続きを完了しております。これとの整合が図られているかどうかを評価手法に加えるべきです。

③既存の発電所との比較について
 石油火力のうち最近まで動いていた2基の2013年実績でCO2排出総量は140万tCO/年 ですが、新規計画で石炭火力発電所2基が稼働した場合には、612万tCO2/年となり、CO2排出量は4倍以上に増加することが想定されます。3-8号の6基稼働については、需給検証の場で、ただちに再稼働は不可能と東京電力自身が回答しているので、この稼働を見込むべきではない。CO2排出総量の増加とそれに伴う影響を評価するべきです。

3. 神奈川県知事等意見への事業者の回答について(第7章関係)
① 業界の自主目標との関係(第7.1-1表)
 神奈川県知事は燃料として石炭を選定していることについて電力業界の目標達成に向けた取り組みを明らかにするよう指摘しています。また住民の意見でも同様の意見があがる中で、それに対する事業者の見解として「BATの導入、省エネ法のベンチマーク指標の達成、熱効率の維持を通じて自主的枠組みの目標達成に貢献する」との回答が散見されます。しかし、ここに挙げられたことを遵守したとしても0.760kg/kWhもの排出源単位を持つ本計画は目標達成に貢献するどころか、目標を危うくさせるものです。一事業者として自主目標を達成する手段をより明確に示すべきです。

② 石炭燃料の選定について(第7.1-3表)
 住民の意見に対する事業者の見解の中で、「石炭についてはコスト・供給安定性の面で優れたエネルギー源であるとともに、国のエネルギー基本計画において安定供給性や経済性に優れた重要なベースロード電源の燃料として再評価され、競争が激化する事業環境において経済性・環境性・エネルギーセキュリティの観点」から石炭を選定したことが述べられています。世界的に気候変動リスクとパリ協定遵守に向けて「脱石炭」の流れが加速化する中で、安定した燃料であるとは言えないと思いますが、こうしたリスクへの評価を方法書の中でも示すべきだと考えます。

4.調査予測及び評価の手法(大気汚染物質等)について

 環境影響評価の手法として具体的な実測に基づく評価がほとんどないため、実測に基づく影響評価を求めます。

  • 石炭の種類を公開すること。
  • 5の排出に伴う影響調査をすること。
  • 大気、水銀の実測をし、排出に伴う周辺への影響調査をすること。
  • 周辺地域の病院、学校、児童施設、福祉施設などの局地気象を把握すること
  • 東京湾岸沿いで建設計画がある他の石炭火力発電所(千葉県袖ケ浦市、市原市、千葉市)と、その他火力発電所等による大気汚染物質との複合的な汚染についての評価を行うこと

5.意見に対する事業者見解や情報公開について
 環境アセスメント手続きでのアセス図書の縦覧について、「環境影響評価法等に基づき、定められた期間実施しております」との事業者の見解が示されていますが、そもそも法律では縦覧期間後の情報提供や開示を禁じているわけではなく、むしろ事業者が住民とのコミュニケーションを積極的にとることが環境アセスメントの目的です。「事業者のノウハウが含まれているためアセス図書の印刷は制限を設けている」とのことで、「あらまし」のみ閲覧可能としているとのことですが、「あらまし」では十分な情報は得られません。期間終了後にも全ての情報をネットで開示し続けることについてはどのような問題があるのでしょうか。

意見書

(仮称)横須賀火力発電所新1・2号機建設計画 環境影響評価方法書に対する意見書

関連書

「(仮称)横須賀火力発電所新1・2号機建設計画 環境影響評価方法書」の届出・送付および縦覧・説明会の開催について