2014年12月1日~14日まで、ペルーの首都リマにて国連気候変動枠組条約第20回締約国会議(COP20/CMP10)が開催され、2015年末までの実現がめざされている温暖化防止の国際枠組みの構築に向けて交渉が行われました。このページでは、交渉や日本政府のポジションなどの関連情報をまとめています。

 

COP20-eyecatch

 

リマ会議に期待されていたこと

2015年末にフランスのパリで開催されるCOP21/CMP11で新たな国際枠組み合意を実現することが目指されています。今回のリマ会議では、この合意の要素(温室効果ガス排出削減、気候変動への適応、温暖化対策の資金、技術開発・移転、能力構築など)について検討が進められました。また、温室効果ガス排出削減等の国別目標案とこれに付する情報等について検討し、合意することが期待されていました。

 

COP20リマ会議閉幕にあたって:気候ネットワークプレスリリース

プレスリリース「COP20リマ会議閉幕にあたって 2015年パリ合意へ向け、国別目標案の提出方法を決定」

 

ペーパー「リマ会議(COP20/CMP10)の結果と評価」(2015/2/13)

ペーパー「リマ会議(COP20/CMP10)の結果と評価」全文(PDF)

ペーパー「リマ会議(COP20/CMP10)の結果と評価」(2015/2/13)

会議の概要(抜粋)

2014年12月1日(月)から12月14日(日)にかけて、ペルーのリマにて、国連気候変動枠組条約第20回締約国会議(リマ会議)が開催されました。リマでは、次の5つの会議体で並行して交渉が行われました。

▼2つの締約国会議

  • 気候変動枠組条約第20回締約国会議(COP20)
  • 京都議定書第10回締約国会合(CMP10)

▼1つの特別作業部会

  • 行動強化のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会第2回会合第7部(ADP2-7)

▼2つの補助機関会合

  • 実施に関する補助機関第41回会合(SBI41)
  • 科学上及び技術上の助言に関する補助機関第41回会合(SBSTA41)

リマ会議は、2015年末に予定されているパリ会議(COP21/CMP11)での合意実現に向けて、その道筋をつくるための重要な会議でした。厳しい交渉の中、辛うじて決裂は回避して合意に達し、パリ会議への道筋をつけました。しかし、依然として各国間の立場の差は大きく、成果は最小限のものとなりました。

今回のADPでは、パリ会議に先立って提出が求められている2020年以降の国別目標案[1]や、2020年までの排出削減努力の強化、2020年以降の新しい法的枠組みに関する2015年パリ合意の要素について交渉が行われました。リマ会議で合意が求められていた国別目標案については、目標案の内容が2015年合意のあり方や先進国と途上国の差異化とも関わることから、利害が錯綜し交渉は難航しましたが、目標案として提出する情報の内容に合意するとともに、2015年3月が提出期限であることを再確認しました。また、パリ会議に先立つ11月1日までに、国連気候変動枠組条約事務局が、各国がそれまでに提出した目標案を足し合わせ、気候変動防止の効果についてまとめた統合報告書を準備することになりました。しかし、目標案を提出した後に国際的に協議する公式なプロセスには合意することができませんでした。一方、2015年合意の要素についての交渉は、十分な時間が割けず、あまり進めることができませんでした。

リマ会議の後、2015年2月にスイスのジュネーブでADP2-8が、6月にドイツのボンで補助機関会合が開催され、パリ会議は11月30日~12月11日の日程で開催される予定です。

日本政府は、2015年3月までに提出が求められている2020年以降の国別目標案の検討を加速させ、様々な温室効果ガス排出量の削減可能性を掘り起こし、原発再稼働に頼ることなく、意欲的な目標案を3月までに提出することが求められています。…

*全文はペーパー「リマ会議(COP20/CMP10)の結果と評価」(2015/2/13)のリンクよりご覧ください。

 

会議場通信"Kiko"

温暖化問題の国際交渉の状況を伝えるための会期内、会場からの通信です。

COP20/CMP10通信 Kiko No.1(2014年12月4日発行)

  • リマ会議、開幕~高まる国際社会の気運~
  • 日本政府、「本日の化石賞」受賞~気候資金で石炭支援ですか?~
  • 汚いエネルギーに資金を出すな!
  • IPCCの科学が示す、「2050年純排出ゼロ」の道
  • 化石燃料への補助金:もう逃げることも、隠すことも出来ない
  • COP会議場の暑さ!寒さ!

 

COP20/CMP10通信 Kiko No.2(2014年12月8日発行)Kiko_COP20_No2_f_ページ_1

  • リマ会議、前半終了~共同議長の新しいテキスト、発表。さあ、次は?~
  • 改めて確認しよう!リマで合意すべきこと
  • 国内のINDCsの議論~約束草案ワーキンググループ~
  • 今こそ、科学に基づく「衡平性のレビュー」を!
  • “約束期間5年”でGo!
  • 7日、フィリピンを巨大台風が襲う

 

COP20/CMP10通信 Kiko No.3(2014年12月10日発行)

  • 望月大臣、ようこそリマへ!~閣僚級会合、始まる~
  • 大臣のみなさん!!合意を成功に導くのはあなたです(12/9 eco抄訳)
  • さあ、適応策も真剣に!(12/9 eco抄訳)
  • COP20 お助け用語集

 

COP20/CMP10通信 Kiko No.4(2014年12月12日発行)

  • 会議は最終日:決定文書案の交渉はこれからはじまる!?
  • [Kikoの目]望月環境大臣の演説
  • 祝!?日本政府が「あと一歩で宝石賞」を受賞
  • "技術評価"で守りきれ!(12/8 eco抄訳)
  • 2020年までの排出削減の強化:さあ、今すぐはじめよう。(12/11 eco抄訳)

 

 

COP20/CMP10リマ会議 交渉の現場から

交渉の現場から、COP20/CMP10リマ会議に関するトピックを紹介します。

国際社会が批判する、日本政府の石炭火力発電所の推進姿勢

日本政府、「本日の化石賞」受賞(2014年12月2日)

「本日の化石賞」のトロフィー

?COP20/CMP10開始2日目である12月2日(現地時間)、日本政府は「本日の化石賞」を受賞しました。「本日の化石賞(Fossil of the Day Award)」とは、日々の交渉で後ろ向きな国の政府を批判するために贈る、不名誉な賞のことです。

今回の受賞理由は、途上国における化石燃料の火力発電所を日本政府が資金支援しているというもの。とりわけ、日本政府が「気候資金(climate finance)」と銘打った資金が、逆にCO2の大排出源である石炭火力発電所の支援に使われていることに厳しい批判が集まっています。たとえ「高効率」であっても、石炭火力発電所を建設すれば、長期間にわたって莫大なCO2を排出します。化石燃料ではなく、再生可能エネルギー支援へ方針転換すべきです。

石炭火力発電所の問題や、世界の脱石炭の潮流についてはウェブサイト「Don't Go Back to the 石炭!」をご覧ください。

 

COP20/CMP10リマ会議報告会~2015年パリ合意への道~(2015/1/21)

2015年1月21日、東京・日比谷図書文化館にて、COP20/CMP10リマ会議報告会を開催しました(主催:CAN-Japan)。報告会では、実際にCOP20に参加したNGOのメンバーが、これまでの国際交渉の経緯や、リマ会議での論点とその結果、日本の政策課題などについて報告しました。

会場には平日の昼にも関わらず、一般市民、NGO/NPO、マスメディア関係者、事業者や学生など約170名もの方に参加いただき、気候変動交渉への注目が高まっていることが印象づけられました。

YouTubeより、報告会のようすを視聴いただけます!

報告「これまでの国際交渉 リマ会議までの経緯」
土田道代さん:地球環境市民会議(CASA)

まず、地球環境市民会議(CASA)の土田道代さんより、リマ会議に至る国際交渉の流れについて報告がありました(資料はこちら)。

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2011年のCOP19ダーバン会議で設立されたADP(ダーバン・プラットフォーム特別作業部会)では、2つの交渉テーマのもとで議論が行われています。第1に、2020年以降の新しい法的枠組みです。先進国、途上国の両方を含む全ての国が参加することになっており、2015年までに合意することがめざされています。第2に、2020年までの温室効果ガス排出削減レベルの引き上げです。

また、「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」によって最新の科学的知見がまとめられた第5次評価報告書から、国際交渉に関連するポイントも紹介されました。世界がこのままのペースで温室効果ガス排出を続ければ、あと30年足らずで世界がめざす「2℃未満」を達成するために残されている排出枠を使いきってしまいます。長期的な観点からすれば、向こう15年間で実施する対策が、将来世代が生きる世界にきわめて大きな影響を及ぼすことになるため、2015年パリ合意が決定的に重要である、ということでした。

報告「各国の国別目標案に盛り込むべき内容と事前協議 2020年までの削減努力の引き上げ」
小西雅子さん:WWFジャパン

次に、WWFジャパンの小西雅子さんより、リマ会議の注目点であるADP交渉での決定内容や対立点、交渉における各国の立場や議論の変遷について報告がありました(資料はこちら)。

Exif_JPEG_PICTURECOP20リマ会議で決まったことで、特に重要なのは、2020年以降の新しい温暖化対策の国別目標案についてです。(用意できる国は)2015年3月までに目標案を提出するということはすでにワルシャワ会議で決まっていました。リマのポイントは、どんな情報を目標案として各国が提出するのかという点と、各国の目標案についてパリ合意より前に協議して引き上げるプロセス(事前協議)に合意できるかどうかでした。結果として、目標案に含める情報について決まりました。特に、自国の目標案が国際的に公平か、科学的に見て妥当かどうかについての情報も入れようということになったのは重要です。事前協議については合意ができませんでしたが、非公式にお互いの目標案をチェックすることはできるようになりました。

気候変動交渉は、以前は「先進国対途上国」という意味単純な対立がありましたが、リマでは、COP20ホスト国ペルーなどのラテンアメリカ諸国の先進国と途上国の間をとりもとうという姿勢が目立ちました。例えば、途上国への資金支援のための緑の気候基金(GCF)に、ペルーやコロンビアも拠出表明をしています。合意の成果は会議の最後の最後になって弱められてはしまいましたが、パリのCOP21に向けて最低限の道筋はつけられました。

報告「2015年合意の「要素」(elements)に関する議論」
山岸尚之さん:WWFジャパン

WWFジャパンの山岸尚之さんからは、リマ会議における2015年パリ合意の「要素」(elements)に関する交渉について報告がありました(資料はこちら)。

Exif_JPEG_PICTUREこの「要素」は、2015年パリ会議で合意する内容の「下書き」に相当するため、極めて重要ではありますが、今回のリマ会議で最終決定しなくてもいいとも言えるテーマでした。リマ会議では、COP決定文書の附属書として、要素に関する約40ページのペーパーがつけられました。要素のペーパーには、緩和(排出削減)、適応・損失と被害などといったテーマ毎に、各国の意見が選択肢として並べてまとめられています。

重要な論点としては、緩和の長期目標(世界全体で排出量を2050年までに何%削減、2100年までにCO2純排出をゼロにする等)があります。世界全体の長期目標は、それ自体は漠然としたところもありますが、これが決まると、各国の温室効果ガス排出量の削減目標への影響もあります。また、次の目標期間の長さ(5年か10年か?その先をどうするのか?)についても議論されていますし、どの国がどの程度の資金支援をすべきか、ということも重要な論点です。

今年の交渉では、要素についての議論が主役になります。また、パリ合意がどんな法的性質をもつのかも重要です。どんな内容が議定書のような法的位置づけのある合意文書に入るのか、何がその他のCOP決定と言われる一段低い位置づけになるのか、排出削減目標の扱いとも絡んで注目されます。

報告「REDD+について」
西川敦子さん:コンサベーション・インターナショナル・ジャパン

次に、コンサベーション・インターナショナル・ジャパンの西川敦子さんより、気候変動交渉における森林減少等の課題について報告がありました(資料はこちら)。

Exif_JPEG_PICTURE森林減少対策は、気候変動対策の観点からも重要です。IPCCの最新報告によれば、世界の人為的な全温室効果ガス排出量のうち、「農業、森林、その他の土地利用」による排出は24%を占めています。気候変動交渉では、REDD+(”レッドプラス”。途上国における森林減少・森林劣化からの排出削減等)と呼ばれるテーマのもとで議論が行われています。これまでも森林保護のプロジェクトは行われていましたが、気候変動の緩和という視点が入ることによって、炭素の定量化やクレジット移転などによってプロジェクトの拡大を後押しする影響があります。

2013年にポーランドのワルシャワで開催されたCOP19では、「REDD+のためのワルシャワ枠組み」に合意し、基本的なルールに合意することができていました。今回のリマ会議では、積み残しの議題について議論を行いましたが、合意に至らず、引き続き交渉を継続することになりました。2015年の交渉では、2020年以降の新しい枠組みにおけるREDD+の位置づけを明確にすることが期待されます。また、今急がなければ永久に失われてしまうような森林や生物多様性などを守るために、より一層の対策強化が必要です。

報告「日本政府へのメッセージ」
平田仁子さん:気候ネットワーク

最後に、気候ネットワークの平田仁子さんから、国内外の温暖化対策の動向を踏まえ、日本政府と日本のみなさんへのメッセージということで報告がありました(資料はこちら別紙1別紙2)。

Exif_JPEG_PICTURE今回のリマ会議で日本政府が注目されたのは、日本政府による、石炭火力発電の海外融資についてです。気候資金と呼ばれる温暖化対策のための資金支援のリストの中に、インドネシアの石炭火力発電事業への支援があることが現地で大きな問題になりました。また、気候資金には含まれませんが、石炭事業への融資の例が他にも多数あり、石炭発電を輸出していこうという姿勢も批判にさらされています。

日本の目標案(約束草案)については、2014年10月に約束草案検討ワーキンググループが設立され、一応議論が始まりました。しかし、提出時期も削減水準も不明で、リマでは他国から「いつ出すのか」とプレッシャーもありました。原発再稼働の議論もありますが、今後日本が数十%という排出削減が必要な中、再稼働による実際の排出削減効果はあったとしても微々たるものです。石炭火力発電の計画が増えているのも深刻な問題です。

日本は今後、早く、高い目標案を十分な説明をもって、提出する準備を全力で進める必要があります。また、全ての途上国を対象とする新しい枠組みをめざす交渉において、資金支援や損失と損害といったテーマにも積極的な貢献が求められます。さらに、国内では現在のところ、気候変動とエネルギーの政策が別々に検討されていますが、統合的に議論することが必要です。

「日本の温暖化対策は生ぬるい!」
~たくさんのご質問・コメントも頂きました~

報告の後には会場からたくさんのご質問をお受けしました。中国や、米国の交渉ポジションについてや、日本政府の温暖化対策が「生ぬるい」、「一般市民の温暖化問題への関心も高くない、どのように関心を高めていけるのか?」と、さらなる対策強化を求める声も多く聞かれました。NGOとしても、もっと社会的な関心を高めて政策を良い方向に変えられるよう、努力をしなければと思います。

2015年は大切な1年~リマからパリへ!~

リマ会議では限られた成果しか得られませんでしたが、各国は2015年パリ合意の実現をめざして交渉を続けています。各地ですでに悪影響が発生しており、今後ますます深刻化するとされる気候変動。報告会で山岸さんはパリ会議の成否は、「地球にとって、人類にとって、”運命の分かれ目”になるかもしれない」と指摘されていましたが、本当にその通りだと思います。2015年はとても大切な1年である、ということを社会的なコンセンサスにしていきたいと思います。

(まとめ:伊与田昌慶)