東京事務所の桃井です。リニューアル版ブログの初投稿となります。みなさま、新ブログもどうぞよろしくお願いします。

さて、初回の話題としては少し長目の話で恐縮ですが、先般、気候ネットワークでは、共同声明「家庭用ヒートポンプ給湯器は自然冷媒が主流自然冷媒からフロン(HFC32)への逆行にブレーキを」と補足ペーパー「なぜヒートポンプ給湯器の冷媒にフロン(HFC32)を使ってはならないか」を発表しました。この声明は、すでに自然冷媒が主流になっているヒートポンプ給湯器で、ダイキン工業がフロン(HFC32)を冷媒とする給湯器を開発したという話を受けて発表したものです。

この記事では、その後の話をさせていただきたいと思います。

ダイキン工業のCSR担当の方と意見交換

声明発表の後、ダイキン工業のCSR担当の方からご連絡をいただき、ダイキン工業常務取締役の岡田慎也さんら3名の方と5月22日に意見交換の場を持つことができました。意見交換の主旨は、“ダイキン工業としての考え方を説明した上で様々な立場の方からの意見を伺いながら、今後の方向性や事業をすすめていくため” とのことでした。そして、これが最初で最後ではなく、引き続き意見交換の場は持っていきたいとのことでした。

3時間にもわたってじっくりと意見交換をすることができ、持続可能な社会を目指して行くという目的の共有もできましたし、非常に有意義な会合となりました。このような形で、企業が環境団体や消費者団体と直接積極的にコミュニケーションをとり、事業活動にフィードバックしようとする姿勢は高く評価したいと思います。

R32ヒートポンプ給湯器

 給湯2 さて、全体の話の中で、私たちが問題にした”R32ヒートポンプ給湯器”のことについても時間をかけて議論しましたので、ここで報告しておきたいと思います。

まず、なぜ「R32給湯器」なのかについて、次のようなご説明をいただきました。

「京都議定書目標達成計画では、CO2冷媒ヒートポンプ給湯器(エコキュート)520万台普及の目標をかかげていたが、大幅な未達となった。その理由は(1)エコキュートは4人以上の世帯では受入れられるが3人以下の世帯では経済合理性が成り立たず普及しない、(2)CO2は高圧対応設計のためイニシャルコスト低減に制約がある」ということでした。普及が鈍化したのは、福島の原発事故前からだそうです。

「R32給湯器」はこれらの課題を解決する位置づけだとのことです。その理由説明は次のとおりです。

  1. 1~3人世帯を対象としたR32給湯器はエコキュートよりも若干ライフサイクルコストを低減できる(使用湯量の多い4人世帯以上はエコキュートの方がライフサイクルコストが安い)。
  2. R32を使ったルームエアコンとも部品が共通化できるから合理化され、コスト削減できる。
  3. 従来のガス給湯器に比べると、一台あたり年間0.198~0.266トン削減できる。
  4. 今後原発が再稼働すれば、夜間電力の活用によってピークシフトと電力平準化に貢献できる。また電力会社との契約によっては、導入した家庭では電気代を安くできる。
  5. 冷媒の管理(冷媒漏洩防止・回収・再利用)をしながら利用する。

つまり、R32ヒートポンプ給湯器を世の中に出せば、消費者は安く”高効率給湯器”を購入することができるからこれまで普及しなかった層での普及が期待でき、温暖化対策に貢献する、というお話でした。

R32給湯器が温暖化対策になる?

R32ヒートポンプ給湯器に対しての私たちの反論は、「なぜヒートポンプ給湯器の冷媒にフロン(HFC32)を使ってはならないか」に書いたとおりです。つまり、地球温暖化係数(GWP)の高い冷媒からの転換ならまだしも、GWPが1のCO2冷媒から、よりGWPの高いフロンに転換するということは、そもそもフロンを削減するという方向性からは明らかに逆行ではないかという点です。この旨、こちらからも説明をさせていただきました。

また、R32給湯器に対してご説明いただいた点についても、以下のような疑問が残ります。

まず、エコキュートの販売の伸び悩みの理由は、大きな貯湯タンクを置く場所がないスペースの問題や、オール電化に対する疑念なども要因として大きいでしょう。とりわけ、設置スペースの問題に関しては、R32給湯器も貯湯タンクを必要とするので、設置スペースの問題が解決できているとは言えません。

さらに、ガス給湯器との比較でCO2削減効果が高いというのも、いただいたデータが原発事故前のものだったので本当にそうなのか疑問が残りました。私の方で、電力の排出係数を原発事故後の2012年で計算しなおしてみると高効率ガス給湯器の方がCO2排出量が低くなります。そもそもヒートポンプにおけるAPFとかCOPとか効率を表す数字はあくまでも一定の条件下で測定した値であり、実際には地域特性や外気温の条件、使い方によって表示どおりの性能が出ていないケースをよく聞きます。

結局、エコキュートよりもイニシャルコストの安いR32給湯器を世の中に出せば、従来の石油給湯器、ガス給湯器、電気温水器の分野で普及させたいという思惑とは逆に、エコキュート市場を食いつぶしていくことになるのではないか、CO2排出量全体でみても温暖化対策に逆行することになるのではないか。いや、そもそも本当に売れるのか。などなど疑問が残りました。

フロンの回収システムを構築するという話も、現状では回収体制が何もなく、エアコンの回収ですら3割程度と低迷状態ですから、これも机上の空論ではないでしょうか。実際に回収費用をだれがどのように負担するのか、回収の費用をトータルコストに織り込んでもいないようです。

期待を込めて

今回、3時間にわたる意見交換会の中では、冷凍冷蔵空調分野での自然冷媒へのチャレンジしてきた経緯なども伺いました。CO2ヒートポンプ給湯器もラインナップしており、今後も大事にしていきたいという話でした。持続可能な社会を目指すという方向性も私たちと同じだとのことでした。

もし、そうであれば、R32ヒートポンプ給湯器の販売は、目指す方向からは明らかに逆行しているように思います。お話を伺った上でもなお、やっぱりR32ヒートポンプ給湯器は世の中に出すべきではないという感想を持っています。

最後に、このような意見交換の場を設けてくださいったダイキン工業の岡田慎也さん、藤本悟さん、杉本栄さんには改めてお礼申し上げます。そして、ぜひ「R32給湯器は出さない」と結論を出していただきたい。そう期待しています。

意見交換の概要

日時/場所

2014年5月22日/気候ネットワーク東京事務所

意見交換メンバー

  • 岡田慎也さん(ダイキン工業株式会社 常務執行役員・地球環境担当)
  • 藤本悟さん(ダイキン工業株式会社 CSR地球環境センター(兼)東京渉外室室長)
  • 杉本栄さん(ダイキン工業株式会社 技術渉外担当課長)
  • 野口陽さん(ストップ・フロン全国連絡会理事/滋賀県電気商業組合環境アドバイザー)
  • 山田佳代子さん(ストップ・フロン全国連絡会理事)
  • 山岸尚之さん(WWFジャパン気候変動・エネルギーグループ リーダー)
  • 西島和さん(日本環境法律家連盟/弁護士)
  • 桃井貴子(気候ネットワーク)

*「R32」の「R」は冷媒を意味します。「HFC32」と同じフロンのことを指しています。