パリ協定の目標と現実~社会体系から読み解く~


はじめまして。気候ネットワーク東京事務所、インターンの大槻と申します。11月21日(月)に東京大学伊藤国際学術センター伊藤謝恩ホールにて行われた、シンポジウムに参加してきましたのでご報告させていただきます。

 このシンポジウムは環境研究総合推進費戦略的研究プロジェクト(以下ICA-RUSプロジェクト)の研究発表という形で、パリ協定の長期目標である1.5℃、2℃目標をどのように捉えるかという議論がなされました。まず四人の方から講演をいただき、その後パネルディスカッションという形がとられました。一人目の講演はICA-RUSプロジェクトの概略、二人目の講演はティッピングポイントの意味とその具体例について、三人目の講演は各種大規模緩和策とそのシミュレーションの概略について、そして最後の講演は社会の気候変動に対するアクトをどのように促していくかというものでした。

講演内容

 全体を通して、気候変動とその対策により起こりうる変化の分析と、社会が温室効果ガス排出量削減に向かうための社会体系や個人への情報提供など社会の在り方の分析のお話でした。以下で具体的なポイントについて少しだけ触れます。

ティッピングポイント

 ティッピングポイントとはそれまで小さく変化していた物事が、突然急激に変化する点のことです。ことわざでいえば、「覆水盆に返らず」という言葉がよく表しています。もう少し具体的に言えば、グリーンランドの氷床の融解について、ティッピングポイントを迎えると、「氷床融解の増加→氷床の減少→氷床の標高低下→融解の増大」というようにどんどん変化の割合が大きくなる方向に変化自身が助長するというものです。仮に2℃目標のシナリオ通り進んだとしても、2100年にグリーンランド氷床のティッピングポイントを超える確率が32%もあります(何もしなければ84%)。一度ティッピングポイントを迎えてしまったら基本的には元に戻ることは難しいとされています。グリーンランド氷床の場合も、全融解すれば7m海面が上昇することになります。このような事態を迎えるのに時間の猶予がないということにとても衝撃を受け、より一層早期対策の必要を感じました。

大規模緩和策

 2℃目標を達成するには今世紀前半から急激な排出削減すなわち、大規模な緩和策が求められています。具体的な方法としては、まず従来行われてきた二酸化炭素を排出しない発電方法をメインストリームにすることが挙げられます。他には、火力発電などの設備に付与する炭素回収隔離や、大気中からの直接二酸化炭素回収、エアロゾルの散布による太陽エネルギー放射強制力の直接制御、大規模植林などがあります。一見これらは暴力的策に思えたのですが、そのような策が必要なほどにパリ協定の目標は厳しいものであるのだと再確認しました。

パネルディスカッション

 ここから、講演者の方々に加え日本経済新聞社の方をお招きして行われました。大筋の流れは、社会が分断化しているという現状があって、それをいかにみんなで未来を共有して、対策を進めていくかという観点の下、個人への情報提供や個人の意識等に対する意見が交わされました。このなかで興味深かったのは、持続可能性についてです。持続可能性を議論するときには、この要素が欠落したら持続可能でなくなるといった消極的論理構造をとらざるを得ず、その点で弱い問題は切り捨てられかねないので、分断化につながるというお話はなるほどと思いました。

まとめ

 全体を通してパリ協定での目標達成の厳しさと同時に目標達成の必要性を再確認させられました。また、パリ協定はただの約束ではなく、世界が未来を共有するうえで国家間としてはとても大きな意義を持つだけに、国家レベルと国民レベルでの温度差は感じずにはいられません。

 気候問題は責任の所属があいまいでありながら、影響の地域差が大きく、また日本においてはその被害を大きく受ける人は少ないためその緊急性に実感がわかないものです。そもそも気候問題に対する人類の責任や、対策によるデメリットなど、気候変動をどのように捉えるかさえ統一されていない現状ではあります。捉え方を統一するのはなかなかに難しい、というよりむしろ不可能とは思いますが、気候変動について事実を知り考えを持っているという前提が成り立たない人が多いのは大変問題であるので、少しでも多くの周りを巻き込んで、このことについてこれからも考えていきたいです。

 

参考URL:http://www.nies.go.jp/ica-rus/