京都事務所の伊与田です。

2017年1月18日、2016年の地球平均気温が観測史上最高を更新したと発表されました。そんな2016年の気候変動10大ニュースを、グローバルからローカルまで、独断と偏見で振り返ってみたいと思います(各ニュースに順位はありません)。

1. 世界平均気温、2016年も過去最高記録を更新

世界気象機関(WMO)がNASAなど様々な研究機関による観測データをもとに、2016年の地球平均気温が観測史上最高だったと発表しました。記録更新は、2014、2015年に続いて3年連続のことで、産業革命前より約1.1℃も上昇しています(日本の平均気温も観測史上最高)。

日本の台風、フィジーの巨大サイクロン、ハイチのハリケーン、アフリカの干ばつなどの気候関連災害も枚挙に暇がありません。グレートバリアリーフのサンゴが壊滅的被害を受けたり、トナカイが絶滅危惧種になったり、自然生態系の深刻な影響も話題になりました。

 

2. 世界の温室効果ガス排出量を実質ゼロにするパリ協定、発効

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フランスのパリCOP21会場にて、パリ協定を採択した瞬間。 (c)Masayoshi Iyoda

パリ協定は、米国、中国、インド、EUなどの締結によって要件を満たし、2016年11月4日に発効しました。採択から1年足らずの発効というスピードは異例のことです(発効日には間に合いませんでしたが、日本も11月8日に締結済みです)。

発効したパリ協定の下、世界各国は、地球の気温上昇を1.5℃未満にとどめるため、今世紀後半(早ければ2050年頃)に世界の温室効果ガス排出を実質ゼロにすることになりました(1月18日現在、パリ協定を締結済みなのは124ヶ国)。

 

3. 再生可能エネルギー100%目標を掲げる国・地域・企業がひろがる

2016年11月、気候変動の影響に脆弱な約50の途上国からなる「気候脆弱国連合(CVF)」が2030~2050年に再エネ100%をめざすことを宣言しました。また、これまでに世界の300以上の自治体・州・地域、90近くの大企業も再エネ100%をめざす宣言をしており、再エネ普及は勢いを増しています(上の動画はCOP22のサイドイベント「1.5℃未満のための再エネ100%」で上映されたもの)。

 

4. 化石燃料への投融資をやめる「ダイベストメント」、約573兆円もの規模に

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「よくないこと」に対して行っていた投融資をとりやめることをダイベストメントといいます(投資=インベストメントの反対です)。2016年12月、国際NGOの350.orgは、化石燃料のダイベストメントへの世界的なコミットメントは、76か国の688機関に達し、その運用資産総額は5兆ドル(約573兆円)にまで拡大したと発表しました。「お金の流れをクリーンにする」アクションが加速した1年でした。

 

5. CO2排出と経済のデカップリング(切り離し)の傾向を維持

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出典:IEA, 2016

2016年3月の国際エネルギー機関(IEA)の発表によれば、2015年は、2014年に続いて、世界経済が成長したにもかかわらず、エネルギー起源CO2排出量が横ばいでした(もちろん、パリ協定のためには、「横ばい」ではなく、早急に減らさなければなりません!)。

翌4月には世界資源研究所(WRI)が、2000年から2014年にかけて、21ヶ国がCO2を減らしながらGDPを伸ばす「デカップリング(切り離し)」を実現と発表したことも話題になりました(日本は含まれていません)。「CO2を減らすと経済が悪化する」とは必ずしも言えない時代になっています。

 

6. 日本の温室効果ガス排出量、2年連続で減少

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2016年12 月に発表されたデータによれば、2015 年度の日本の温室効果ガス総排出量は、2014 年度に続いて減少しました(前年比3%減、2005年比5.2%減)。これは節電・省エネ、再エネの伸びなどによるものとされています。

このデータから、日本の2020 年目標(2005 年比3.8%以上削減)は、吸収源等を含めずとも、すでに5年前倒しで達成したことがわかります。

この目標ができた当時、政府は「最大限の努力によって実現を目指す野心的な目標」と説明していました。同様に政府が「野心的」と説明している2030年目標も、省エネ・再エネ・脱化石燃料の対策を強化すればもっと引き上げられると考えています。

 

7. 電力小売全面自由化で、電力会社の切り替え始まる

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2016年4月より、電力小売全面自由化が始まり、一般家庭でも電気の購入先を選べるようになりました。発電は最もCO2を出す部門です。電力会社選びを通じて再エネ普及と脱原発を後押しできるようになったのは良い変化です。新電力への切り替え件数は2016年12月31日までに257万件を超えています。

 

8. 石炭火力発電所建設を懸念する住民運動広がる

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CO2の大排出源である石炭火力発電の撤退が国際的に広がる中、日本各地には48基にものぼる石炭発電所の新増設計画があります

2016年は、各地で石炭への懸念から、住民運動が広がった年でした。例えば、宮城県の仙台パワーステーション。環境への悪影響をチェックする「環境アセスメント」が行われず、低効率の旧式技術で大気汚染物質の排出の数値も高いのに、地元への説明会を開かないまま工事を進めているため、住民運動が活発になっています。この件には、環境大臣も「非常に憤慨」と発言しています。

 

9. 日本の原子力発電、ますます「崖っぷち」に

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2016年は、原発がいわば「崖っぷち」の状況にあることを示すニュースが噴出しました。

福島第一原発事故をめぐる東電の旧経営陣の強制起訴。大津地裁による高浜原発運転差し止め。ベトナムとリトアニアの原発計画撤退。高速増殖炉もんじゅの廃炉決定。原発立地自治体での脱原発首長の当選。福島第一原発事故の廃炉等費用試算21.5兆円~。東芝の米国原発事業関連の巨額損失。

さらに、2016年のNHK世論調査では、原発再稼働に反対する国民が一貫してマジョリティであり、しかも少しずつ増えているそうです。CO2削減は、原発ではなく、省エネ・再エネによって成し遂げるべきですし、もはやそうするしかない状況になってきていると考えます。

 

10. 米国大統領選挙、共和党候補トランプ氏の勝利

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2016年11月8日に行われた米国大統領選挙で、気候変動対策に消極的な共和党候補ドナルド・トランプ氏が民主党候補のヒラリー・クリントン氏に勝利しました。

選挙後、国連気候変動会議(COP22)では、「パリ協定は発効済みだ。我が国は引き続き対策に取り組むし、米国もそうすべきだ」という発言が各国政府から相次ぎました。私もオブザーバーとしてCOP22に参加していましたが、会議はスムーズに進んでいました。新政権が今後どうするかは予断できませんが、パリ協定のもと国際社会が行動を強化する流れは変わっていないと考えています。

なお、米国内では、多くの有力企業・投資家や各州政府、市民はパリ協定の実施を求めていますし、再エネが急成長する一方、市場競争の中で石炭は苦境に立たされています(2016年には米国の石炭最大手のピーボディ・エナジーが破綻)。

 


 

【番外編】レオナルド・ディカプリオ氏、アカデミー賞受賞式で気候変動の危機を訴える

レオナルド・ディカプリオ氏が念願のアカデミー賞の受賞式で気候変動の危機を強く訴えたこと、さらに気候変動の問題を訴える映画「地球が壊れる前に(Before the Flood)」を制作したことも2016年の話題でした。