岡山県西粟倉村の『上質な田舎』を目指した、低炭素モデル社会の創造


1.西粟倉村の概要

 西粟倉村は岡山県の東北端部に位置する人口1,547人の小さな村だ。面積の95%は森林が占め、森林面積の約85%がスギ・ヒノキの人工林である。そのため長期的な間伐等の適切な森林管理が必要である。2004年8月に、近隣地域との合併協議会を住民投票の結果に基づき離脱して以来、村面積の大半を占める森林を軸とした地域活性化を通じて、小規模自治体としての生き残りを模索してきた。

 近年は森林整備と合わせた材の活用やエネルギー利用に取り組み、地域資源を活かした地域づくりに取り組む先進的な自治体として注目を集めている。

2.上質な田舎を目指す百年の森林構想

 2008年、西粟倉村では、樹齢百年の美しい森林に囲まれた「上質な田舎」を実現していくために森林の再生に資源を集中させていくという村の方針を定めたビジョン「百年の森林構想」が策定された。

 百年の森林構想では、森林の保全管理から施工、間伐材の商品化、プロモーション、西粟倉のファンづくりまで、西粟倉村に関わるすべての人が繋がることによって、持続可能な森林経営を行うとともに、村内外に情報を発信し、西粟倉村に関わる人々のネットワークづくりを実現することを目指している。

 具体的には、百年の森林構想に基づく「百年の森林事業」は、「百年の森林創造事業」と「森の学校事業」によって構成されている。

(1)百年の森林創造事業

 同事業は森林整備や植林と言った、いわば川上部分での取り組みである。適切な森林整備のためには森林の除間伐を行うことが必要となる。そのためにはその所有者を特定し間伐をすすめる必要があるが、近年は財産相続などによって全国的に森林所有者の特定が困難な状況になり、それが森林整備の妨げとなっている。

 そこで西粟倉村では、村役場が森林所有者の特定を行い、間伐等の整備が行えない所有者などの個人所有者の山林を村が預かり、森林組合が管理・整備を行う「長期施行管理に関する契約」を、村と森林組合と所有者間で結ぶ取り組みを進めている。

 契約期間は10年間となり、整備にかかる費用は全て村が負担し、森林所有者には一切の費用負担がない。また木材販売にかかる費用を除いたあとの収益については2分の1を森林所有者に還元し、残り2分の1を村が「百年の森林構想」事業を進める財源として使われることになっている。

 長期施工管理に関する契約は、約3,000haの私有林を契約目標としており、現在までにおよそ1,080haと契約を締結している。協定契約者数は450名以上にのぼり、これら私有林における過去4年間の間伐面積は800ha以上、作業道作設延長は37,000m、木材の搬出量は8,000㎥以上になる。

西粟倉村の整備された100年の森林

(2)森の学校事業

 森林の整備・管理とともに村が取り組んでいるのが、森林等の地元資源の活用と顧客の創造のための森の学校事業である。間伐材の販売のみでなく商品価値を持った加工材を販売・流通する林業の6次化を目指し、村は株式会社トビムシと提携し「株式会社西粟倉・森の学校」を2010年に設立した。

 森の学校では、地域材を加工販売するだけでなく、移住や企業の支援にも取り組んでいる。未利用間伐材を活用したワリバシや賃貸住宅などでも敷き詰めることで無垢材のフローリングにできる「ユカハリタイル」などの開発・販売や、住宅部材の供給も行っている。

 また、これらに関連して地域材を利用して家具を作る「木工房ようび」や「木薫」などの起業も行われており、関連産業の活性化と新たな雇用の創出にもつながっている。

3.温室効果ガスの大幅削減を目指す環境モデル都市としての取り組み

(1)環境モデル都市としての目標

 西粟倉村ではこのような森林の利活用を中心とした現在の取り組みに基づきつつ、大幅な二酸化炭素の削減と、魅力的な中山間地の将来像を提示することを目指して、2013年3月には環境モデル都市に応募・選定されている。

 西粟倉村の環境モデル都市行動計画では、百年の森林事業を通じた温室効果ガスの吸収量拡大に取り組み、森林による二酸化炭素の現状レベルの吸収量を維持しながら、再生可能エネルギー・電気自動車導入等による低炭素モデルコミュニティの構築などに取り組むことで2020~2030 年にかけて二酸化炭素の排出量を約25%削減、2050年には40%削減を達成することを目標としている。

(2)再生可能エネルギー利用の取り組み

 環境モデル都市行動計画の中では、再生可能エネルギーの導入等を通じた低炭素社会の構築にも力を入れている。

 具体的な取り組みとして、1966年に設立されこれまで稼働してきた小水力発電所280kWの設備更新である。発電開始から48年を経過し、老朽化が進行しているため、発電設備や水路などを対象に大規模な改修工事を行い、2014年7月から290kWになった小水力発電が発電を開始している。固定価格買取制度の適用を受けたことで、売電収入はこれまでの1,600万円・年から7,000万円・年になった。この小水力発電からの収益については、村の再エネ普及の原資として使って行く予定だ。

西粟倉村のリプレースされた小水力発電

 また、村内では毎年6,000㎥の林地残材が発生していることから、これらのエネルギー利用として、村内温泉施設「黄金湯」のボイラーをはじめとして化石燃料から木質燃料(丸太ボイラー)に改修するとともに、それらの木質エネルギー利用施設に供給する薪の供給を民間と協力して進めている。

 この薪を供給する「村楽エナジー株式会社」はIターン者が起業したローカルベンチャーであり、若者4名が働いている。同社はバイオマス事業として間伐材を調達して薪に加工し、薪ボイラーを設置した温泉施設への販売・供給を行っている。同社は薪を6,000円/トンで購入し、ボイラー管理費も含めて13,000円/トンで販売する。

 温泉施設では年間を通じて熱の利用があり、これまでは灯油ボイラーで賄っていた。この大半を薪で代替し供給することで灯油の消費量を削減するとともに、燃料費自体の削減にもつながる事業になっている。温泉施設への薪ボイラーとその周辺設備の導入費用には5,600万円ほどかかったが、年間の燃料代が1,200円から500万円まで削減される見通しだ。また、設備導入にあたっては2/3を国からの助成金でまかなうことができたため、温泉施設では数年で投資回収ができる見通しだ。

 このほか村楽エナジーが間伐材を集めるにあたっては、西粟倉村と協働して「鬼の搬出プロジェクト」を運営している。このプロジェクトでは、山林所有者等が収集場所に自ら搬出した林地残材を持ち込めば、地域通貨「オニ券」で対価を支払ってくれる。地域通貨は地域の商店で利用できるようになっている。

 このほか村楽エナジーでは宿泊・観光事業にも取り組んでおり、西粟倉村が所有している宿泊施設「元湯」の運営主体となり、宿泊事業を手掛けている。この施設にも薪ボイラーが導入されている。

村楽エナジーで生産している薪

 

西粟倉村の温泉施設・黄金湯に導入された薪ボイラー

 太陽光発電については、「おかやまエネルギーの未来を考える会(エネミラ)」との協働で、村の公共施設コンベンションホールに約50kWの市民共同発電所を2014年3月に設置している。

 事業費は1560万円で、この内490万円を建設協力金(借入金)として村民28人から、1000万円を地元金融機関からの融資で、さらには70万円の寄付金によって拠出している。エネミラでは、地域貢献として発電収入の一部を使って地域での環境教育を実施している。

 この他、家庭向けには太陽光発電や太陽熱利用推進への補助金を出し、交通対策としては電気自動車の急速充電器の整備を進めるなど、災害時には避難所への電力供給体制を整えていく予定である。

 

エネミラと西粟倉村の協働で設置した市民共同発電所

4.おわりに

 西粟倉におけるこうした地域資源を活かした取組の成果として、近年目に見える形で現れているのがIターンを中心とする移住者と雇用の増加である。森林組合や森の学校、森林関係のローカルベンチャーを中心に、2007年以降Iターン者約50名を含む60名以上の雇用が村では生まれている。

 人口増加率については、出生数よりも高齢化に伴う死亡者数の方が多いため人口は減少に向かっているものの、近年ではIターン者の受け入れの増加もあって、わずかながら転出者を転入者が上回る社会増となっている。また、転入者の増加によって家族が増え、子どもの人数がやや増加しており、園児・児童・生徒数の推移では回復傾向にある。

 このように市町村合併の拒否から独自の道を歩み始めた西粟倉村では、百年の森林構想に基づく取り組みの中で、地域資源の活用と活用のための外部との連携をすすめることで移住者数や児童数の増加など、目に見える成果を上げることに繋がった。こうした成果を下に西粟倉村の取り組みが今後どのようにここから発展していくのか、またどのような成果を上げていくのかに注目していきたい。