消えてゆく海の幸


 江戸時代から続く漁協権をもつという、千葉県木更津市の金田漁業協力組合。ノリやアサリをはじめ、東京湾の豊かな海の幸を長年に渡って人々の食卓に提供し続けています。しかし実は、開発による水質の変化や温暖化の影響によって、厳しい状況に置かれているのです。ニュースレター「気候ネットワーク通信」7月号の「気候の危機シリーズ」にも掲載した今回のインタビューについて、動画も交えて報告します。

 

天恵の海 盤洲の干潟

 金田漁協組合の事務所に到着すると、まず立派な記念碑が目に飛び込んできます。そこには、「天恵の海 盤洲の干潟は潮満ちて魚介類来遊し潮干して貝類現われ晩秋に至れば海苔の香り満ち満ちる如く…」という言葉から始まり、金田の漁師さんたちの思いが綴られています。

平成二年に組合の竣工を記念して建てられた碑

 今回インタビューにご協力してくださった武内秀雄組合長も、かつての海の様子を語ってくださいました。大きくて70-80cmもの小魚が獲られたこと、カニやカキ、ハマグリなどの貝類も海水浴にやってきた人々が手づかみできたことなど、まさに「天恵」に溢れた海だったことがわかります。特にノリは、質がよく高価で取引できたため、地元の漁師さんたちにとって欠かせないものでした。昔は、地元の人から「東京湾銀行」と呼ばれていたことからもわかるように、人々の生活を支える重要な収入源だったのです。

 

自然の美しさの一つ一つを失ってきた

 記念碑には、盤洲干潟の恵みを讃えた後に、続きがあります。そこでは「…昭和三十年代以降豊潤の海東京湾は各浦で多くの海面が埋め立てられ、かつまた各種の産業活動と人々の生活から生ずる排水により汚濁され自然の美しさの一つ一つを失ってきた。…」とあります。東京湾の開発がすすみ、海底が穴だらけになってしまったことにより、その水質は大きく変化していったのです。

 日本全体の広い地域で、ノリの質を保つことが難しくなっていると問題になっています。金田漁協も少なからずその影響をうけています。もともと水温の変化に敏感なノリは、温暖化による海水温の上昇による影響を多大に受けています。さらには、開発によって穴をあけられた海底に溜まったプランクトンの死骸が、水質を変えてしまったのです。このダブルパンチによって近年、収穫量が減ってしまったり、質を保つことが難しくなったりしているのです。

 また、事務所に到着した時に、不思議な臭いがしました。港の周辺を歩いていてもその臭いは消えることがなく、「海の臭いってこんなだっけ」と思っていました。組合長にお話を伺うと、いつもはこんな臭いではない、と言います。実は、例年とは比にならない量のアオサが港に漂着し、それが腐敗して発している臭いだったのです。海流や風向き、湾内の別の港の構造の変化など、その原因は複合的で特定することができないということでした。

アオサが漂着してしまった場所

 そんな状況の中、若い人々に「跡継ぎを」と頼むこともできなくなっています。かつては1,000人程もいた組合員の数は、半分の500人ほどに減少、その多くが60~70代です。組合長は、「この状況で若い人たちに”あとに続け”というのは無理がある。」と語りました。中には70代あたりの組合員の孫世代である30~40代の人も数名いるそうです。しかし組合長は、「なんで孫を海におろしたかなぁ」とつぶやいていらっしゃいました。

 

インタビューの様子

 

 すでに環境が破壊されてしまった中で、もはや漁業での生活は成り立っていない、と言います。かつては探さなくても獲ることができたアサリも、いまでは成長しきることさえ難しい。人間による開発によって、そして人間によって引き起こされている温暖化によって生じているこの変化は、組合長の言うとおり「天災ではなく、人災」であるといえます。「むごい」と一言言い放った武内組合長の言葉が胸に刺さります。

 


詳しくは気候ネットワーク通信7月号「気候の危機シリーズ」を御覧ください。