COP23に向けてフィジーに広がる気候変動への意識

今年の夏の間、COP23ボン会議の議長国を務めるフィジーに滞在する機会を得た。南太平洋に浮かぶ332の島からなるフィジーは、美しい海の高級リゾートのイメージがあるだろうが、世界で最初に京都議定書とパリ協定を締結した国でもある。滞在中、現地の新聞には毎日のように気候変動関係のニュースが登場していた。また、首都スヴァや国際観光都市ナンディなどで開催される地域のお祭りのテーマに「気候変動」が掲げられるなど、議長国を務めるCOP23をひかえて、気候変動の意識を盛り上げようという意欲が随所で感じられた。

フィジーにおける気候危機の現実

ある日、現地の有力紙”Fiji Times”の一面を、「Relocation(=移転)」という大見出しが躍った。フィジーのカダヴ州にある約10の村が、深刻化する気候変動の影響を踏まえて、村全体を移転するらしい。2014年にも、村の地面や農地に海水がしみ出したため、ヴニドゴロアの村人153人が移住していた。この時の移転者の1人がCOP23に参加し、気候変動の現実についてメッセージを発する予定である。また、2016年2月にカテゴリー5の猛烈なサイクロン・ウィンストンの被害に見舞われたことも記憶に新しい。

私は、「手遅れになる前に」と思って活動してきた。しかし、すでにコミュニティ全体を移転せざるをえない人々がいるのだ。彼らにとって、我々の行動は、すでに、全くもって手遅れだ。

島国フィジーの気候対策

さて、そんな島国フィジーの気候対策の例をいくつか見てみよう。第1には、再生可能エネルギー普及がある。フィジーの総発電量に占める再エネの割合は現在約6割であるが、2030年までに再生可能エネルギー電力100%の実現をめざしている(日本は、2030年までに再エネ電力22-24%が目標)。滞在中も、各国からの支援を受けて、再エネ発電所の建設が行われているニュースを見聞きした。

第2は、「環境気候適応税」という名の、いわゆるレジ袋税である(ちょうど筆者が滞在中の8月1日に施行)。現在はフィジー国内の小売店でレジ袋をもらいたければ、追加で税を支払わなければならない。フィジアンは、「環境を守るためには必要だ」、「経済的に負担だ」、「露天売りのマーケットでの購入には適用されず、不公平だ」などとその意見を新聞紙上で交わしている。

第3は、適応策である。短期的には建築基準の見直しや遵守を促進。今後は、2019年までに全てのコミュニティの脆弱性評価を行うこと、2020年までには海面上昇や嵐、洪水などのハザード・マップを作成すること等を掲げている。前述のように、地域コミュニティの移転もすでに行われている。

日本に帰って

現地にいたとき、フィジー人から「日本は環境対策が進んでいるでしょう?」と聞かれた。どうだろう。確かに、市民の節電意識は高いかもしれない。しかし、対策面で、本当に進んでいるといえるのか?日本よりもずっと早くフィジーは再エネ電力100%を達成するだろう。

一方、日本は逆行している。現在国内で計画されている石炭火力発電所42基が稼動すれば、年間で推計1億1855万トンのCO2が追加的に排出される。そんな日本のことを、気候変動の被害に苦しむフィジーの人々が、「環境対策の進んだ国」と思い、「地球の未来を守るために行動しよう」と声を掛け合っている。こんな残酷で滑稽な現実があるだろうか。「気候正義(クライメート・ジャスティス)」は、日本にこそ、必要であるとあらためて感じている。

伊与田昌慶(気候ネットワーク)

 

*この記事は、気候ネットワーク通信117号に掲載されたものです。