KIKO NETWORK
調査研究・提言 research

ドイツのエネルギーシフト

 気候ネットワークでは、ハインリッヒ・ベル財団と連携し、同財団が創設したウェブサイトGerman Energy Transition(ドイツのエネルギーシフト・英語ページ)の一部を日本語訳して紹介しています。

 このページは、ドイツ国外の人々を対象に、ドイツのエネルギー政策や関連するエネルギー事情について解説するものです。日本でも関心の高いドイツのエネルギーシフトについて知るツールとしてご活用ください。

再生可能エネルギーの未来に関する議論

Arne Jungjohann(ウェブサイト編集者)

 ドイツは、“Energiwende(エネルギーシフト)”と呼ばれる動きで注目を集めている。これは、原発を撤廃し、化石燃料を減らし、再生可能エネルギー中心の経済へ転換することを目的とするものである。しかし、ドイツのエネルギーシフトとは実際どのようなものなのだろうか。そして、どのような動きがあり、どのような困難があるのだろうか。

 ハインリッヒ・ベル財団は、新しいウェブサイトhttp://energytransition.de/を創設した。ここでは、諸外国の人々を対象に、論点を取り上げ、事実を伝え、政策や政治について説明をしている。特に、ドイツの経済、環境、社会におけるEnergiwende(エネルギーシフト)の効果に焦点をあて、最も関心が寄せられている質問への回答も掲載している。



明らかになっている事実(Key findings)
1.ドイツのエネルギーシフトは野心的だ。しかし、実現可能である

 ドイツ国外の多くの人々は、環境派でさえも、(ドイツが本当にエネルギーシフトをやり遂げられるか)疑問を抱いているようである。しかし、疑わしく思っている人たちであっても、ドイツが目指していること、すなわち、化石燃料エネルギーから再生可能エネルギーや省エネにシフトすることによって産業・経済が発展できると証明しようとする目標については、好意的に受け止めていることだろう。ドイツの「やればできる」という姿勢は、過去20年にわたる経験に基づいている。この間に、再生可能エネルギーは、加速度的に成熟し、信頼性も高まり、価格も予想以上に下がっている。ドイツでは、電力における再生可能エネルギーの割合は、たった10年の間に6%から25%にまで増えた。晴れた日や風の強い日には、太陽光パネルと風車が、国内の電力需要の約半分を供給するところまできている。最近の推計によれば、電力に占める再生可能エネルギーの割合は2020年までに40%を超えると言われ、ドイツの再生可能エネルギー目標を上回りそうである。さらに、多くのドイツの研究機関や政府の関連機関が、その数字を分析し、再生可能エネルギー中心の経済のための堅実なシナリオを開発している。


2.ドイツのエネルギーシフトを主導するのは市民やコミュニティ

 ドイツの人々は、クリーンなエネルギーを求めている。そしてその人々の多くは、自分でエネルギーを作りたいと考えている。「再生可能エネルギー法」は、再生可能エネルギーによって発電されたすべての電気を優先してグリッド(送電網)に接続することを保証し、適切に利益を得ることができるよう設計されている。2011年までの再生可能エネルギーへの投資の半分以上は小規模な投資家によるもので、大企業は比較的小さな投資しか行っていない。このように、再生可能エネルギーへの転換は、中小規模のビジネスを強くし、地域コミュニティや市民自身に再生可能エネルギーを作り出す権限を与えるものなのである。このことによって、ドイツ全土にわたって地域のエネルギー革命が起こっており、コミュニティは新規雇用や税収増という利益を得るようになっている。欧州全域における経済危機の後においては、これはとても重要な事実である。


3.エネルギーシフトは、ドイツの戦後最大のインフラ事業である。それがドイツ経済や新規雇用を強化する

 エネルギーシフトの経済的な利益は、現状維持ケース(business as usual)による追加コストをはるかに上回っている。エネルギー効率が高く再生可能エネルギーを中心とした経済へ移行するには、2000億ユーロを上回る規模の投資が必要となる。そのため、再生可能エネルギーは、従来型のエネルギーと比べてコストがかかるように思われるだろう。しかし、再生可能エネルギーのコストが徐々に下がっていくのに対し、従来型のエネルギーは徐々に高くなっていくものである。しかも化石燃料は、高額な補助金で支えられており、その価格には、環境影響のコストが含まれていない。輸入エネルギーを再生可能エネルギーに置き換えていくことで、ドイツの貿易収支は改善し、エネルギー安全保障は強化されるのである。すでに再生可能エネルギー部門で、38万人の雇用が国内で創出されている。これは従来型のエネルギーの雇用をしのぐ規模である。この中には製造業に従事する人もいるが、他の多くは、設置やメンテナンス業に従事している。ドイツはこのようにして、他の諸国よりも経済・財政危機をうまくしのぐことができているのである。



クリックで画像を拡大


4.ドイツは、エネルギーシフトを通じて、グリーンな未来に合った産業基盤を維持する

 ドイツの気候・エネルギー政策は、国内の製造基盤を維持するように設計されている。産業界には、エネルギー効率を改善することが促されているが、その負担を軽減する、規制除外措置の恩恵を受けている(ただし、そのうちのいくつかは寛大すぎるとも言える)。よく思い違いされることとは裏腹に、再生可能エネルギーの推進によって、ドイツは、国内のエネルギー多消費産業にとってより魅力的な場所となっているのである。2012年、風力、太陽エネルギーの価格は、卸売電力市場において10%以上低下している。安い電力は、企業の経営支出を抑制することを意味する。鉄鋼や窯業、セメントなどの産業は、この安いエネルギー価格の便益を享受しているのである。そしてエネルギーシフトの便益は、今後さらに拡大すると考えられる。太陽光パネル、風車、バイオマス、水力発電、蓄電システム、スマートグリッド設備、エネルギー効率化技術などへの需要は、高まり続けている。ドイツは、率先実行する者としての利益を得、高付加価値のエンジニアリング技術を“Made In Germany(ドイツ製)”として開発したいと考えている。再生可能エネルギーと省エネへ焦点をあてることは、企業投資に対する将来志向型アプローチの一部である。世界が再生可能エネルギーへ転換するときには、ドイツ法人は、その市場において質の高い技術、熟練、サービスを提供する位置を占めていることだろう。


5.規制と開かれた市場は、投資の確実性を確保し、小規模ビジネスが大企業と競争できる環境を作る

 ドイツのエネルギー政策は、市場メカニズムと規制の組み合わせである。「再生可能エネルギー法」の下では、再生可能エネルギー電力は、投資の確実性を確保するためにグリッド(送電網)への接続が保障されており、家族経営のビジネスや小規模法人が大企業と競争できる環境を作っている。この政策によって、グリーンな電気の発電事業者は、固定価格で送電網へ電気を販売することができる。また、その価格は、徐々に低下し、将来価格は下がっていく。石炭や原発による電力と異なり、再生可能エネルギーのコストには隠れたコストもなく、将来世代にツケを回すものでもなく、透明で、今すぐに支払われるものである。政府には、目標設定や政策作りにその役割がある。市場は、再生可能エネルギーにどの程度投資し、電力価格はどのように決定されるかを決める。また、消費者には、電力供給会社を選ぶ自由があり、安い電力を購入するという選択もできるし、100%再生可能エネルギーでまかなう電力供給会社へシフトすることもできる。


6.ドイツは、気候変動対策と脱原発が表裏一体のものとして取り組めることを実践している

 多くの国が、気候変動の目標の達成に苦心しているが、ドイツは、気候目標を順調に達成する見込みだ。2011年の春に8つの原発を停止した後でさえも、ドイツは、前年比で2%の温室効果ガス排出量を削減した。暖冬ということもあったが、GDP成長と、結果的に隣国へ電力を輸出したという事実を踏まえれば、この結果は驚くべきものである。電力供給は、記録的なレベルで安定していた。閉鎖された原発設備は、さらなる再生可能エネルギーや、従来型のバックアップ電源、そして、エネルギー効率向上によって置き換えられたのである。再生可能エネルギーは、年間約1億3000万トンのドイツの温室効果ガス排出削減に貢献している。ドイツは、2012年までに21%削減(1990年比)という京都議定書の目標を大きく上回る削減をしている。2011年末では、温室効果ガス排出量は27%削減となっており、2020年40%削減目標を達成する方向で進んでいる。


7.ドイツのエネルギーシフトは、単に再生可能エネルギー電力についてだけでなく、交通部門や家庭部門などの幅広いエネルギー利用についても議論されている

 ドイツのエネルギーシフトは、電力部門において原発や石炭から再生可能エネルギーに転換することだけではない。電力は、ドイツのエネルギー需要のわずか20%を占めるにとどまり、40%は熱利用、残る40%は交通部門が占める。一般に、電力部門における脱原発から風力や太陽光への転換に関心が寄せられがちだが、実際、ドイツは、家庭に熱を多く取り入れるシステムである「パッシブ住宅」の先駆けでもある。しかし、パッシブ住宅によって大きな省エネを実現するには、改修のスピードはまだ遅い。また、ドイツでは、発電所の排熱を利用した地域熱供給のネットワーク構築は、隣国のオーストリアやデンマークほどの速さではまだ進んでいない。そして、おそらく、最も難しいのは、交通部門の対策だろう。電気自動車やハイブリッドなどのさまざまなオプションが世界中で探られている。ドイツはそれらの技術開発の先駆的な存在ではない。しかし、旅客部門で最も大きな省エネは、自家用車から公共交通機関へシフトすること、大型車から小型車や電気自転車などの小さな乗り物にシフトすることによって得られるものである。


クリックで画像を拡大


8.ドイツのエネルギーシフトは定着している

 ドイツが方針転換をすることはまずないだろう。原発からのシフトについては、長い時間をかけて決定されてきたものである。もちろん、かつては4大電力会社(E.ON、RWE、Vattenfall、EnBW)も、再生可能エネルギーへの転換を遅らせることによって既得権益を守ろうと躍起になって反対していた。しかし、EonとRWEは、国際的に原子力発電所の建設を止めると公式に発表したし、EnBWは現在、緑の党出身者が知事を務めているバーデン・ヴュルテンベルク州に所有されていることから、さらに原発を進めるとは考えにくい。多国籍企業であるシーメンスもまた、国際事業において原発から手を引き、風力と水力に力を入れようとしている。国民は、卸売電力価格が上昇することに照らしても、再生可能エネルギーを拡大することを強く支持している。ドイツの人々は、政治のリーダーに、エネルギーシフトに挑戦するよう求めているのである。どのような戦略が最善であるのかという政治的な手法については見解の違いがあるものの、ドイツの全ての政党がエネルギーシフトを支持している。それはとりもなおさず、それを支持する圧倒的な世論があるからである。


9.エネルギーシフトは、ドイツにとって経済的に手頃なものである。他の国々にとっては、もっと手頃なものにさえなるだろう

 ドイツは、デンマークやその他の先駆的な国々と同様に、再生可能エネルギーの促進で国際的なリーダーシップを発揮することによって経済的な利益を享受してきた。ドイツは、世界最大の国内の太陽光発電市場を創出している。ドイツの明確な方針と、中国の大規模生産が、世界中の再生可能エネルギーのコスト低下を誘発してきている。ドイツでは、太陽光パネルの設置システム価格は、2006年から2012年中旬までの間に66%も急落した。このコスト低下により、これから再生可能エネルギーに投資を始める他の国々にとっては、もっと手頃になっているだろう。その上、他の多くの国は、ドイツよりも太陽エネルギー源がもっと豊富にある。日照条件の良い国では、同じ太陽光パネルでドイツの2倍以上の発電ができるところもあるだろう。


Craig Morris, Martin Pehnt 執筆
ハインリッヒ・ベル財団 2012年11月28日発表
(日本語訳:気候ネットワーク)
原文ウェブサイト ・ 原文PDF

>>このページのTopへもどる


ウェブサイト「German Energy Transition」について

 原文ホームページでは、「明らかになっている事実(Key findings)」の他に、以下のような内容が提供されています。

1.Why the Energiewende? 〜 なぜ”Energiewende”?
2.Technology as a key issue 〜主要議題としての技術
3.Politics for clean energy 〜クリーンエネルギーのための政策
4.History of the Energiewende  〜Energiewendeの歴史
5.International perspectives  〜国際的な見解
6.Question and Answers 〜Q&A



>>このページのTopへもどる



HOME >> 調査研究 >> ドイツのエネルギーシフト 

Copyright 2006 KIKO NETWORK. All Right Reserved.