<プレスリリース>

2020年12月25日

「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の発表に対するコメント

NPO法人気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵

 本日、内閣官房に設置される成長戦略会議(議長:加藤勝信 内閣官房長官)は、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(以下、戦略)」を発表した。

2050年排出実質ゼロは、気温上昇を1.5度に止めるために必ず達成すべき目標である。その実現に向けて本腰を入れて脱炭素化を進めていくために政府として戦略を策定することは重要である。戦略は、気候変動への対応を成長の機会ととらえ、産業界のビジネスモデルや戦略を根本的に変えていく必要性があることなどを認識し、2050年実質ゼロの目標を定めており、それ自体は歓迎したい。しかし、その内容は、気候危機に立ち向かう観点からあるべき道筋から大きく外れ、2050年の豊かな日本の社会を作り上げるビジョンも欠落している。以下、コメントする。

1.1.5度の気温目標達成のための排出制約を無視し、気候危機の回避に向き合っていない

2050年実質ゼロの目標が求められるのは、気温上昇を1.5度に抑制するために必要な水準であるからであり、累積排出量の制約から今後排出できる量(カーボンバジェット)には限りがある。1.5度目標の達成には、2030年に世界全体で排出を半減する必要がある。すなわち、重点を置くべきは、2030年までの短期間に排出を半減させるための行動をいかに実現していくかであり、2050年のネットゼロはその延長上に描く必要がある。しかし、戦略では1.5度目標について全く触れられていない。

2.将来の不確かなイノベーションに過度に依存しており危険である

戦略は、全ての電力需要を100%再エネで賄うことは困難とし、CO2回収を前提とした火力や水素、アンモニアの混焼などの技術の導入拡大を前提にした技術革新偏重型となっている。また2050年実質ゼロへの寄与はほぼ期待できない原子力技術のイノベーションも大きく位置付けられている。火力の前提としているCCSを含む多くの技術は不確かな上、経済合理性もなく、2030年までの排出削減にはおよそ期待できない。パリ協定に整合させるには2030年には石炭火力をゼロにする必要があるため、本来、石炭火力へのアンモニア混焼やCCSという技術は必要ないはずである。にもかかわらず、これらを前提として、2050年に向けても「火力の利用を最大限追及していく」としたことは、火力利用を延命させようとするものに他ならない。これでは、気候危機への緊急性に対応しないだけでなく、産業・経済の発展にも不安定要素となる。

3.経済社会への移行、持続的な産業への構造転換と労働の公正な移行の視点が欠如している
本戦略は、現行の企業を中心とするイノベーション戦略とそこへの投資に終始している。2050年排出実質ゼロの実現は、化石燃料依存の経済社会から、脱炭素の経済社会への転換を推し進める大胆な改革の実践である。その実践は、今日限界に達してきている資源浪費型の経済システムや、都市のあり方、人々の暮らし方などに変革をもたらし、気候の危機が回避され、誰も取り残さない豊かな持続可能社会を実現することを意味する。実質ゼロへの移行においては、特に高炭素の職業の労働者や社会的弱者、地域社会が置き去りにされず、公正に脱炭素型の労働への移行が行われるために、新しい雇用機会を創出し、産業育成や技術支援、教育訓練、移行に伴う補償などの計画的支援が必要である。

以上の通り、戦略は、その道筋と技術選択、政府支援の振り向け方において重要な視点を欠き、結果として気候変動に真に向き合わず現行システムを前提にした既得権益の保護を色濃く出したものである。

政府は今後複数のシナリオ分析し、議論を深めるとしている。政府には十分な市民参加の機会の確保を求めるとともに、気候ネットワークとして1.5度目標と整合する再エネ100%社会、2030年石炭火力フェーズアウトを含む計画策定に向け、幅広い選択肢の議論を喚起して行きたい。

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「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」の発表に対するコメント(2020年12月25日)

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