2012年1月30日

経済産業省の省エネ法“改悪”改正案の撤回を
~事業者のエネルギー使用実態把握を簡素化するのは、改悪だ~

気候ネットワーク代表 浅岡美恵

 1月27日に開催された、総合資源エネルギー調査会第16回省エネルギー部会において、資源エネルギー庁が、省エネ法の改正案を準備していることがわかった。エネルギーの使用量の多い事業所に対して、1994年以来、事業所ごとにエネルギーの種類別使用量(電気の使用量と、石炭や石油などの燃料の使用量)などの毎年の報告を義務付けていたものについて、電気を含む、エネルギーの個別の使用量報告等 を廃止し、事業者全体(事業所ごとではない)のエネルギーの総量や効率の改善率のみの報告を求めるものに簡略化する方針だ。

 昨年の震災・原発事故を受けて、電力をはじめとしたエネルギーの「省エネ」の重要性は今まで以上に高まっている。しかし、この改正案は、以下の点で大きな問題があり、「省エネ」を抜本的に強化するものから程遠いばかりか、むしろ、大きく後退する内容を含んでいる。直ちに撤回すべきである。

1.高まる省エネ要請から、エネルギーの使用実態把握は検証可能な方法で強化すべきである。把握の簡略化は時代の逆行、改悪である。

 エネルギー消費削減の可能性を追求するために、各大規模消費事業所での使用実態を適切に把握することは、対策の基礎中の基礎である。国際的な温暖化対策においても、「MRV」と称して、先進国・途上国共に、実態の計測(Measure)、報告(Report)、検証(Verify)を進めて、行動の可視化を図ることで対策を進める流れにある。今回の資源エネルギー庁の方針は、この逆行である。

2.自家発電の利用増加等の実態把握に必要なデータが把握できなくなる。

電力供給の安定的な確保のために、震災後、事業者は自家発電設備の増強を図っている。これにより、CO2排出係数が天然ガスの約2倍の石炭や約1.5倍の石油の使用量の増加と、それによるCO2排出増加が予想される。今後、自家発電の利用はどのようにどの程度増えたのかという実態を把握し、エネルギー消費削減とCO2削減の両立の可能性を探ることが重要になってくるが、今回の簡素化で、その基礎となるデータが把握されないことになる。

3.検証不可能な、国と事業者との闇の調整の要因となる。

 資源エネルギー庁は、事業者に根拠データの「記録・保存」を求め、必要に応じ、コミュニケーションを取りながら必要な実態を把握するとしている。これでは、行政の対応が適切かどうかの判断は一般にはできない。たとえば、2012年7月から施行される再生可能エネルギー固定価格買取制度では、電気の使用原単位が平均の8倍を超える事業者にサーチャージを8割以上減免できるとの例外規定が設けられた。そうした制度の適切な運用や例外規定の妥当性を検証するためにも、電気の使用量把握は、むしろ強化した上で公開する必要がある。今回の案では事業者全体の電気の使用量の報告義務もないことになる。これらを国と当該事業者間だけのやりとりに任せることは、第三者の検証を不可能にする。

4.事業者の作業の負担は軽減されない。

 今回の法改正案の理由に、「細かい項目について一つずつ報告を求める方式を改める」ことで事業者の定常的な作業量を減少するよう配慮するとあるが、いずれにしても事業者には記録・保存が求められること、また、個別に国とのコミュニケーションを取らなくてはならないことから、実質的な負担は軽減されることはなく、むしろ、不透明なプロセスでのコンプライアンスリスクを高めることにもなりかねない。

5.温暖化対策の推進を妨げる。

 今回簡素化されようとしている定期報告は、気候ネットワークが、温暖化対策を適切に講じるために重要な情報であるとして2003年から情報開示請求を行ってきたものそのものである。これまで、情報開示請求を通じて、約9割近い事業所のデータを把握し、事業所のさらなる削減余地や、適切な政策導入の可能性を見出すことができてきた。また、この情報の全面公開が必要だとして、一部の事業所の情報を非開示決定した国に対して訴訟を提起し、争ってきた。2011年10月の最高裁判決では、納得しがたい理由で開示請求が認められなかったが、引き続き情報開示の必要性を訴えていたところである。今回の改正案は、情報開示法に基づく請求を回避するために、いっそデータの報告自体をやめてしまおうという、本末転倒の対応だと見て取れる。

 CO2の排出削減には、省エネを進めるとともに、石炭から天然ガスへの燃料転換などを図ることが重要であり、定期報告情報は、そうした削減可能性を把握する重要なものである。改正案は、1994年来の定期報告情報の活用を放棄し、今後検討が必要なキャップ&トレード制度や温暖化対策税などの温暖化対策の推進をするための基礎データを失うことになる。

 定期報告義務にあるデータの把握は、引き続き必要である。国は、この簡略化の方針を撤回するべきである。あるいは、仮に国が簡略化しようとするなら、その定期報告に関する権限を、そっくり地方自治体に移譲すべきである。実態把握を緩めることになってはならない。

発表資料

プレスリリース本文「経済産業省の省エネ法“改悪”改正案の撤回を ~事業者のエネルギー使用実態把握を簡素化するのは、改悪だ~ 」(PDF:360KB)

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