2012年11月7日

東京電力の“石炭”を想定した電源入札に問題あり
~石炭火力発電所増設で、長期の温室効果ガス削減に深刻な悪影響~
気候ネットワーク
WWFジャパン

 

 東京電力は11月5日、設備投資負担を抑制するため、火力電源の新規開発・リプレースにあたっては入札を行うこととし、今般、2019年6月から2021年6月までに供給開始するベース電源260万kWを一括して募集すると発表した。そして、今回の入札では、契約供給期間を原則15年間(10年~30年の範囲で選択可能)、上限価格を9.53円/kWhとしている。

 

 今回の入札条件とされた上限価格9.53円/kWhとの設定は、石炭発電のコストを想定して設定されている。しかし、石炭火力発電は、天然ガス火力発電の約2倍ものCO2を排出する。この先、2020年頃から運転する新たな石炭火力発電を国内で増やせば、2050年以降まで大気中に大量のCO2を放出し続けることになり、気候変動問題や新しいエネルギー政策からの明らかな逆行である。今回の東京電力のケースが認められれば、他の石炭火力発電の計画も誘発し、政府の2050年80%削減の目標も危うくする。そもそも、現在の状況はもとより、今後は再生可能エネルギーの導入が進み、省エネも進むはずであり、2020年に石炭火力発電を新増設するほどに電力がひっ迫しているかも疑わしい。

 

 気候変動対策として、世界では気温上昇を2℃未満にとどめることが目指されている。先進国は2020年に25~40%削減が必要とされているが、政府の「革新的エネルギー・環境戦略」では、わずか5~9%の削減しか見込まれていない。このままでは世界から認められる内容ではない。しかしそれでも、石炭の発電量は2030年に向かってわずかに減少していく方向が示されている。さらに石炭の利用を減らしていくことを考えていく必要があるときに、今回、東京電力の石炭火力発電の入札を認めることは、「革新的エネルギー・環境戦略」にすら矛盾することになりかねない。

 

 これから日本では、原発ゼロを目指すのと同時に、グローバルな気候変動問題へも長期的な視点での対応していかなければならず、脱化石燃料依存も同時に進めていくことが求められている。石炭火力発電のような旧来型の大規模電源に依存するのではなく、新しい地域分散型のエネルギーシステムへの舵切りこそ、今求められていることである。

 

 2009年5月、小名浜の火力発電所の建設計画において、環境省が環境影響評価を行い、実行可能なCO2排出削減対策が行われていないことなどを理由に計画の変更を求め、事業者が事業の採算が見込めず建設計画が実質止められた経緯がある。その理由は現在も当てはまる。

 3.11を受け、現在、発電所の環境影響評価を見直す方向で連絡会議(※)が設けられ、年末までに火力発電所の新増設における環境アセスメントの迅速化も検討されているが、今後、新規建設の火力発電で実施される環境影響評価では、CO2排出量の多い石炭火力発電所の建設が認められることのないよう厳しく行われることが求められる。

 

以上

(※) 経済産業省・環境省「発電所設置の際の環境アセスメントの迅速化等に関する連絡会議」

 

プレスリリース・声明本文

東京電力の“石炭”を想定した電源入札に問題あり~石炭火力発電所増設で、長期の温室効果ガス削減に深刻な悪影響~

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