産業構造審議会環境部会地球環境小委員会 中間とりまとめ(案)
「気候変動に関する将来の枠組みの構築に向けた視点と行動」への意見

2003年6月16日

1.氏名
 気候ネットワーク

2.連絡先
・住所 〒604-8142 京都市中京区高倉通四条上ル 高倉ビル305
・電話番号 075-254-1011
・FAX番号 075-254-1012
・電子メールアドレス kyoto@kikonet.org

3.職業(会社名、団体名、役職等)
 環境NGO

4.意見
(※本意見は、団体としての意見です)

<全体についての意見>
 本中間とりまとめ案では、京都議定書を批准しこれから実施していこうとする国のものとは到底思えないような、極めて消極的、後ろ向きの主張が貫かれている。内容は、京都会議(COP3)議長国でありながら京都議定書そのものを否定し、これまでの国連のプロセスをも否定するかのような、問題の多いものになっている。また、本来の出発点である地球温暖化問題の解決に、責任のある先進国の一つとして真剣に取り組み更に前に進もうとした姿勢が微塵も見られない。また、削減を率先して行うことは損との思い込みが蔓延しており、早期対策が環境ビジネスを育て日本の産業を活性化させるという視点は全くみられない。

 このように「環境後進国」をさらけ出した内容を英語にまでして発表することについて、京都会議前から地球温暖化問題に取り組んできたNGOとして、我々は極めて残念であり、憤りを感じている。

 我々は本中間とりまとめ(案)の内容のほとんどを全く支持しないことを強調し、下記に個別の意見を申し上げる。今後の議論においては、このような偏った意見だけをまとめたことを反省し、多くの国民の意見を吸い上げるプロセスで、改めて議論をスタートさせることを求める。【P1. はじめに、下から1~2行】

 本中間とりまとめ(案)は、2013年以降の枠組みのあり方について視点を提示し、議論の活発化に資することが目的とされているが、パブリックコメントを経た今後の議論は、委員の大半が業界団体という偏ったメンバー構成の同小委員会ではなく、より広い主体が参加する横断的な場で、環境NGOや他の意見を有する有識者を交えて議論を継続するべきである。

【第1章 地球温暖化問題の特質】
・P3~5. IPCCの予測から、今後地球温暖化が急激なスピードで進行するため、大幅な排出削減が緊急に必要であることは周知の事実であり、将来の国際的枠組みを考えるに当たっては、次のステップではさらに大きな削減が必要であることを共通の認識として確認することが極めて重要である。これを「地球温暖化問題の特質」の冒頭に記すべきである。

・地球温暖化問題の解決には、気候変動枠組条約の「究極の目的」にも掲げられている危険でないレベルで大気中の濃度を安定化させなければならないということを明示すべきである。

・P5 IPCCの予測について、不確実性が残されていることが殊更強調されているが、IPCCについては、不確実性以前に、IPCCが提示する内容、特に温暖化予測による被害について紹介すべきである。

・地球温暖化のメカニズムについて不確実性を完全に払拭することは難しく、対策はそれに先んじて実行しなくてはならないため、地球温暖化問題は「予防原則」に基づいて対処すべき問題であることを明示すべきである。

【第2章 気候変動枠組条約・京都議定書に関する国際交渉の経緯】
・P7 下から1~3行「1.科学的知見の蓄積と条約・議定書の交渉とが同時に進行」
 IPCCの科学的知見については、シナリオの温度上昇の程度の幅の問題より、いかなるレベルでも気温上昇はこれまでに比べて急激で大きいこと、またそれによる影響が極めて甚大であることこそが今後の枠組みを考える上で重要であり、それを特筆すべきである。

・P8「2.枠組条約から法的拘束力のある議定書への流れ」の2段落目
 気候変動枠組条約において最も重要な「究極の目的(2条)」について全く触れていないことは問題である。今後の枠組みを考える上で目指すべき柱となる要素であるため、「気候変動枠組条約は、第2条に『気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガスの濃度を安定化させることを究極的な目的とする』と定めている」ことを記述すべきである。

・さらに、気候変動問題への対処のアプローチとして、南北間の公平性確保のために「共通だが差異ある責任」の原則を定めていることを明記すべきである。

・P9「3.算出根拠を持たない形で合意された数値目標」下から1~5行
 京都会議前のポジションについて、EUだけ説明しているのは不適切である。AOSISが2005年20%削減を主張したこと、日本が2.5%削減、アメリカが0%安定化を主張したこと、なども併せて紹介すべきである。

・P12「途上国の参加問題」

・3~4行 「途上国の意味ある参加を得ることに合意することはこれまでのところ実現できていない」というのは事実に反する。途上国は、気候変動枠組条約にも議定書にも多数署名・批准しており、自主的な削減も進められている。また、途上国が対策を取っていくための基金やCDMなどの仕組みを通じて、意味ある参加が図られているところであり、この表現は不適切である。

・11~13行 「途上国と先進国との責任には自ずと差があり、まずは先進国が率先して排出削減に取り組むべきである」という主張は、「共通だが差異ある責任」の原則の下で締約国全体で確認され、合意された概念であり、先進国の多くも主張している。いかにも途上国だけが一方的に主張しているような言い方は事実と異なる。

・23~25行 ベルリン・マンデートについて「途上国への新たな義務を課すことができなくなる決定的な要因となった」とあるが、これは第1約束期間についてであることを書き添える必要がある。また、ベルリン・マンデートは日本も参加した国際合意なので、「課すことができなくなった」という表現は不適切であり、「第1約束期間においては途上国へは削減数値目標義務を課さないことが決まった」と正確に記すべきである。

・26~29行 「ベルリン・マンデートを論拠とする途上国の強い反発により…」とあるが、国際合意であるベルリン・マンデートを覆そうとしたのはむしろ米国の方であり、ベルリン・マンデートに忠実な途上国の主張を「反発」というのは不適切である。

・「5.米国の離脱表明とマラケシュ合意」
P13 3~11行 米国は、ベルリン・マンデートに合意し京都議定書にも署名した上で離脱表明したのであり、政策方針の一貫性を欠く身勝手な行動である。それについては日本政府も強い抗議をしてきたことを記述する必要がある。また、「バード・へーゲル決議」の紹介の箇所をアンダーラインで強調する必要性は何もないため、アンダーラインを削除すべきである。

・24~26行 森林吸収源の日本の主張の記述は正しくないので下記のように改めるべきである。「追加的でない自然の吸収も含む日本の全森林の吸収を対象にしないと批准はできないと強硬に主張した我が国等との間で交渉が難航した。」

・「6.2013年以降の枠組みに関する議論」
P14 2~4行 途上国の義務の議論を反対する理由については、「京都議定書が発効しておらず、先進国の排出が増加し続けている現状の中では、反対」ということを明記すべきである。

【第3章 京都議定書の特徴】
<全般について>
・特徴とあるが、実質的には意図的に「欠点」を強調した極めて偏った見方となっており、全体にわたって大きな問題がある。本章の整理の仕方は全く支持できない。

P16 5行目 「1.京都議定書がカバーしているのは現状では世界の排出量のうち3分の1」
 このタイトルは、京都議定書の特徴ではなく、京都議定書を巡る動向のことを指しており、不適切だ。議定書の最大の特徴は、8~9行目のアンダーライン箇所にある通り、「先進国に法的拘束力のある削減数値目標を設定」したことであり、これをタイトルにするべきである。

P16・13行~P18・9行 京都議定書を巡る動向としては、米豪の不参加と途上国の削減義務がないことは、「合意に反した身勝手な行動」と「制度上の決まり事」との大きな違いがあるので、別個に扱うべきである。また米・豪の不参加は京都議定書そのものの特徴ではなく、議定書を巡る動向のことなのでここで一緒に扱うべきではなく、削除すべきである

P18 13~15行 「2.国別排出総量が義務の対象」
「総量を一定範囲内に抑制するといういことは、本来政府がコントロールできる範囲を超えている。」、24行「政府がコントロールできる範囲(ガバメント・リーチ)を超えている」とし、その代替としてセクターごとのアプローチを取ることを提案しているが、これは、日本政府が京都議定書の数値目標の達成はできないと国の責任を放棄しようとしていることに他ならず、極めて問題がある。温暖化問題は、自由経済を前提とし何も政策がない中では企業等が排出削減するのは難しいからこそ、政府が環境面から政策介入する余地があるのであり、これを難しいとの論旨で特徴に挙げるのは全くおかしい。

P18~19 「3.数値目標をめぐる諸要素」
 削減目標の達成の難易度は各国がどのような省エネ水準を達成しているかに大きく左右されるとしているが、日本は他の先進国に比べてエネ効率が特段跳び抜けて高水準なわけではない。また、日本社会は全体としてはエネルギー多消費社会であり、社会的に省エネ水準を高めていく必要性がある。そのポテンシャルは大きく、対策の多くは費用効果的に実施できることが複数の研究から明らかになっているので、極度に日本の省エネ水準が高いと強調することは誤っている。

P20~21 (2)基準年
 他の先進国の1990年の基準年の意味を例示しているが、日本における意味も書くべきである。日本では1990年はバブル絶頂期にあり、90年を境にエネルギー多消費の素材生産など製造業の生産量は減少しているので、1990年は日本にとっては都合の良い有利な基準年である。

P22 (3)EUの共同達成
 EUが主張した共同達成は京都議定書で認められた制度であり、EUに限らず日本でも望めば実施できる。それゆえ、有利な材料を獲得するのはEUだけでなく、それを実現しようとする先進国であればどこでも平等にその機会が与えられるものなので、将来の枠組みにおいてEUだけが有利な材料を獲得すると見るのは誤っている。

P23 (4)不遵守の場合の罰則
7~10行(アンダーライン部分) 京都議定書は議定書締約国の目標達成のための遵守制度を決めているのであり、非締約国に対する措置がないのは、他の国際法においても同様であり、京都議定書特有の特徴ではない。そのため、アンダーライン部分は削除すべきである。

11行~最終行 
・しっかりした遵守制度は、目標を守るインセンティブを与えるものとして極めて重要である。達成できるように支援する仕組みと、達成しない場合の措置との両面から効果を発揮すべきであり、「性悪説」「性善説」のいずれに立つべきという性格のものでもない。・京都議定書で定められた京都メカニズムは、しっかりした遵守措置がなければ機能しないものであり、日本を除く大多数の国が不遵守の場合の措置に法的拘束力を持たせることを主張している。途上国も同様に法的拘束力のある措置を求めていることから、厳しい遵守措置が途上国の参加の障害になる理由とはならない。

・これらの記述は、日本が目標達成出来ない可能性があることの口実にすぎないと考えるため、7行~最終行の記述は全て削除すべきである。

【第4章 世界のエネルギー需給構造を中心とした温室効果ガスの排出動向】
P26 「図8 主要先進各国における最終エネルギー消費の対GDP原単位」
・GDP比という指標が意味を持ちにくい業務、家庭、運輸を一緒にして比較していたり、日本が特別に円高であった1995年を基準にした為替比較をしており、恣意的な指標となっている。購買力平価での比較とし、セクターごとの内訳も図にすべきである。

P27
・10~14行 原子力発電は温暖化対策にはならない。むしろ大規模発電所は温室効果ガスの削減に寄与する太陽光や風力発電の普及を阻んでいる。そのため、「原子力発電の果たす役割が大変重要である」というのは問題がある。また、長年の交渉を経てマラケシュ合意でJIとCDMにおいて原子力事業を控えるという合意に至ったことについて今さら白紙に戻そうとしているのは問題である。原子力については、「現在、過度に依存しているが、国際的にはマラケシュ合意で原子力事業を控えるという内容が盛り込まれた」という趣旨に改めるべきである。

P32 下から2~3行
・「途上国では省エネ投資により大きな効果を得られる余地が大きい」ことについて、先進国の支援が極めて重要な鍵となることも付け加えるべきである。

P42 【第5章 将来の枠組みの構築に向けた視点】
1.地球温暖化問題に関する4つの課題
<全体>
課題には以下の要素も追加すべきである。
・排出削減と大気中濃度の安定化にはタイムラグがあり、すぐに対策を取っても安定化は遅れてやってくることから、早期の対策が必要であること。
・濃度の安定化には、大幅な温室効果ガスの削減が必要であり、抜本的な社会システムの変革が求められること。

・13行
(1)技術的ブレークスルーが必要とされていること
 温暖化を解決するために、いつ実現するかわからない革新的な技術開発・普及に頼るということは危うい。それ以前に、既にある技術でもそれを導入・普及していくことや、すぐに実現できるはずの対策を実施することにより大幅な削減が可能であるにもかかわらず、それが進んでいないことが問題を大きくしている。技術開発も継続して必要であるが、今すぐ必要なのは技術的ブレークスルーよりもむしろ、効果的な政策・措置を実施するための「政治的ブレークスルー」である。

・19行
(2)国・地域・セクターごとの課題が多様であること
 下から3~4行 「政府によって直接管理しうる範囲を超えた要素が多いという点を軸として考える必要がある」という記述があるが、政府が責任を放棄しようとしているかのようであり問題である。直接管理できなくとも、政府が政策介入することで削減の促進は実現できるはずである。

・P43 16行
(4)科学的な不確実性が残されていること
 不確実性があることは事実であるが、将来の枠組みへの視点としての課題は、むしろその不確実性に対する研究を進めつつ、不確実性のある中でいかに行動を取り対策を進めていくかである。そこにおいては気候変動枠組条約にも明記されている「予防原則」に基づいて、確実に行動を取って対策を進めていくことが必要である。

P44 2.持続可能な枠組みのための4つの基本的方向
<全体について>
 基本的方向性として下記を提案する。
・気候変動枠組条約の究極の目的を想起し、危険でない気候変動の水準について検討すること。
・IPCCが示す温暖化予測を重視し、2℃未満の気温上昇をピークに排出量を大幅に減らすこと。
・途上国参加を実現するために、先進国がより大きな削減をすること
・次のステップでは、先進国は京都議定書よりも大幅な削減を実現すること

P44 
・6行
(1)技術を通じた解決の重視
 技術開発は重要な要素であるが、予測に含めることは難しい面があることから過度に頼ることは問題がある。また、それらの技術を活用・普及させる需要側の社会システムの転換も大変重要であり、技術だけに着目するのは不十分である。社会的に総需要を抑えることも同様に重要であるため、基本的な方向には技術面の重視はあえて含める必要がないと考える。

・18行
(2)実効性・効率性・衡平性の同時達成
①世界の排出量の大部分をカバーすること
 世界全体の取り組みが重要なことは言うまでもないが、何が(削減義務なのか参加国なのか?)世界の排出量の大部分をカバーするのか不明確なので、「世界全体が参加する仕組みとすること」とすべきである。

P45 
・5行
③合理的な根拠
 各国間の公平性の確保は重要であり、その指標となる分析は多く出されるのが望ましいが、同時に気候変動を防止することに対しての合理性も分析・議論することが必要である。

・20行
(3)経済と環境の両立
 「経済の発展」と言うとき、化石燃料起源のエネルギーの大量消費を前提とした経済発展ではなく、持続可能な新しい経済発展を志向することが必要である。これまでの経済発展の延長を模索することは、地球温暖化防止を始めとする環境問題と両立するどころか、環境破壊を継続することに他ならないため、どのような「経済」の発展との両立かを明示すべきである。

P45~46
(4)多元的参加
・26行
①政府、産業界、NGO、個人の多元的参加
 様々な主体が様々な次元で取り組みを行うべきことに異存はないが、「政府による直接的コントロールの範囲(ガバメントリーチ)を越える要素が多い」とし、国別目標を否定し、あたかも国としての責任を放棄しようとした主張は問題であり、撤回すべきである。また、国際的枠組みについて議論する際は、論点が拡散する恐れがあるため、国レベルでの対応とそれ以外の複数のアプローチは分けて議論すべきである。国レベル以外の場所で行われるべき多元的参加は、ここでは取り上げると混乱するため、本記述は削除すべきである。

P46
14行
②コミットメントの多様な形態
 温暖化防止のためには、絶対量での排出削減が不可欠であるという問題の性格から、コミットメントは絶対量における目標であるべきだ。それを複数の指標、基準を選べる方法にしては、全体での到達レベルを把握できないため、共通のわかりやすい指標を目指すべきである。また、気候変動枠組条約が努力目標であり、その結果日本の2000年度の排出が増加してきたことからすれば明白であり、コミットメントは当然拘束力のあるものであるべきである。
P48 「3.将来の枠組みの構築に向けた行動」

・下から7行
(1)複層的アプローチ
 各主体がそれぞれの場面で対策を取る必要があることは言うまでもないが、ここで検討する国際的枠組みについては、国レベルの取り組みとそれ以外と分けて議論し、提案すべきである。ここで様々なタイプの交渉や取り組みを併せて提案すれば、議論のベースがずれ混乱を招く恐れがある。複層的アプローチは、国レベルの目標設定を持った上で行うべきであり、代替アプローチにはなりえない。ここでは本記述は取り下げるべきである。

P49・23行
(2)主要排出国間の議論による先導
 気候変動枠組条約・京都議定書は、186カ国が参加する国連のプロセスで進められ、各国に平等な参加が保たれてきた。ここでの主張は、その長年の交渉の重みを無視し、その成果を否定し、WTOのような一部の関係国だけで極めて不公平に世界全体の問題の解決を先導しようとしており、極めて問題である。地球温暖化問題の被害は、途上国により大きく降りかかってくる問題であり、今後も国連のプロセスで継続して議論を行っていくべきである。

以 上

問合せ

特定非営利活動法人 気候ネットワーク
URL:http://www.kikonet.org/