2000年8月2日

吸収源のデータ報告についての意見書

京都会議後3年目も半ばを過ぎたが、京都議定書はいまだ批准のための準備交渉を 続けている。現在の当面する課題は2002年発効に向けて本年11月のCOP6においてその準備を終えることである。うち吸収源(森林の吸収分を全体の排出から差し引くとい うもの)の数値目標へのカウント手法については数値目標を実質的に弱めるものであり、共同実施やクリーン開発メカニズム(CDM)における吸収源問題にも影響を与え ることから、最大の問題となっている。
とりわけ日本は議長国であるにも関わらず、京都会議直後に、議定書採択に至る議 論の経過を無視し、科学的根拠もないままに、議定書3条3項及び4項による吸収源として日本の森林全体の吸収分をカウントできるものとして、削減目標である6%の うち3.7%も見込めるとの当面の方針を掲げて、その実現になりふりかまわず邁進してきた。これは京都議定書の地球環境保全の意義を大きく減殺するものとして、内外 のNGOの強い批判を受けてきた。

【今回のデータ提出の遅れについて】

今年6月の補助機関会合での決定を受けて、8月1日までに条約事務局に提出すべ きとされた京都議定書3条3項、4項に関するデータの提出は、今後の吸収源に関する交渉における日本政府の考え方や立場を明らかにするものであり、また京都議定書 を温暖化防止への歴史的展開点として発効させることへの日本の意欲を窺わせるものとして関心を持って見守ってきた。
しかしながら、8月1日の提出期限を徒過した上、なお関係省庁間の交渉が難航している。今回のデータ提出をめぐる省庁内での調整の難航は、各省庁の合意によって決定された「地球温暖化対策推進大綱」の内訳(下表)を変更することを許さない官 僚機構の硬直化と、削減の内訳を各省に割り振り、さらに各省内で細部の割り振りを行うという縦割り行政が引き起こした日本の行政の意思決定における無責任体制が原 因である。

【今回のデータ提出について】

吸収源については、

  • (1)IPCCの用語の定義を採用すること
  • (2)3条4項の追加的活動は第1約束期間に入れないこと
  • (3)CDMに吸収源プロジェクトを加えないこと

 を大原則とすべきである。

さらに、以下の点に留意の上、速やかに科学的裏付けのあるデータを提出すべきである。

(1) 6月の補助機関会合での決定でIPCCから提起された4つの方式について日本の吸収源の実態を報告することが求められているところ、最近のワークショップでの対応にてらせば、日本にとって最も有利な方式である「FAOの活動ベース方式」によってのみ報告しようとの姿勢が窺われるが、全ての方式によってデータを提出すべきである。
 全ての方式について科学的に根拠のある十分なデータを提出することが、COP6を目前に控えている3条3項及び4項で適用される人為的活動の定義をめぐる国際交渉に混乱を持ち込まないための前提条件である。

(2) 3.7%という数字は97年の京都会議の際に今回の算定方式とは別の方式で出したものであり、もし、今回それと全く別の方式によって3.7%が積み上げられるならば、その根拠の危うさを示すことになる。

(3) FAOのランドベース2と活動ベース方式は、IPCCで科学的に一貫性(大気中の濃度 変化を表わしている)がないとされたもので、大気中の温室効果ガスの濃度を安定化 させるために排出削減を行うという京都議定書の本旨と目的に最も反するものであ り、これが採用されれば、原生林を皆伐して植林を促進し、森林破壊につながるであろう。第1約束期間における吸収源拡大のためにこのような方式を採用するならば、 IPCCが2年間行った科学的な知見や公平性を無視することになる。

(4) 吸収源を目標達成のための柔軟性措置としてとらえることは京都での合意を無意味に する。吸収源の仕組みは勝手に各国が好きに選んでよいものではない。

吸収源についての日本政府の姿勢は京都会議中に大転回し、ご都合主義を世界に印象づけた。ここにおいても、根拠のない3.7%獲得方針を固持して国際交渉における信頼を失なうことは厳に戒められるべきである。FAO活動ベースの方式の採用や3条4項による吸収源の拡大によって第1約束期間に3.7%もの吸収源を確保しようとする姿勢を直ちに改め、6%削減の当面の方針を見直し、国内制度の構築に着手すべきである。

 

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