共同プレスリリース
2009年3月24日

「エネルギー供給構造高度化法案」は抜本修正が不可欠
将来に禍根を残さない再生可能エネルギー拡大の法律を「国会主導」で

 

飯田哲也(環境エネルギー政策研究所 所長)
気候ネットワーク代表 浅岡 美恵

1 将来に禍根を残さない再生可能エネルギー拡大の政策の導入を

環境エネルギー政策研究所(ISEP)及び気候ネットワークは、気候保護法の制定を求め、その中で、再生可能エネルギーの固定価格買取制度の導入及び石炭から天然ガスへの燃料転換などを求めているところである。
 2月24日、二階経済産業大臣の閣議後記者会見で突如、太陽光発電電力の「日本型買取制度」について言及し、3月10日にはその根拠となる法律とされる「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用および化石エネルギー原料の利用の促進に関する法案(エネルギー供給構造高度化法案)」が慌ただしく閣議決定された。この法案は、再生可能エネルギーの利用だけでなく、原子力をあわせ「非化石エネルギー」としてその利用についてと、化石燃料の有効な利用を促進するための措置を構ずることを目的とするものである。また、今回の経済産業省による「日本型買取制度」提案は、上記法案に直接の法的根拠は何らなく、経済産業大臣の判断に委ねるとするものにすぎず、国民・消費者がその費用を負担していく問題について情報提供も議論も不十分である。
 以下にその問題点を指摘し、国会において抜本的修正を求める。

 

2 「エネルギー供給構造高度化法案」の問題

第1に、この法案は、あくまでエネルギー供給事業者の自主的取組を基本とし、これに対して経済産業大臣が措置を講じる(第1条)ことによって、「エネルギー供給事業の持続的かつ健全な発展を通じたエネルギーの安定的かつ適切な供給の確保を図」ることを目的とするものである。エネルギー供給事業の発展はあっても、再生可能エネルギーの供給拡大の法案ではない。また、余剰電力であれ、電力事業者に太陽光発電電力の買取義務を課そうとする法案でもない。エネルギー供給事業者の本法案における責務は努力義務である(第4条)。

第2に、この法案は、再生可能エネルギーについても、特定エネルギー供給事業者(政令委任)が自主的に定める「目標及び費用の負担の方法その他の円滑な利用の実効の確保に関する事項の判断基準」を経済産業大臣が定めるとするだけのものである。その判断基準の内容も経済産業大臣に決定を委ねており(第5条)、この判断基準に著しく不十分という場合に勧告・命令ができる(第8条)というあいまいなものである。本法案は電力供給事業者に、いかなる再生可能エネルギーの買取を義務付けるものではない。

第3に、本法案は、エネルギー源の利用の基本方針は経済産業大臣がエネルギー需給の長期見通しや現状にもとづき、「環境保全に留意しつつ」、定めるとするもので、地球温暖化対策としてのCO2排出削減を目的とするものではない(第3条第2項)。 また、経済産業大臣が環境大臣と協議すべきとされているのは非化石燃料の利用の促進に関する事項についてだけであって(第3条3項)、環境大臣と化石エネルギー燃料の利用について協議する必要はない。

第4に、本法案は、石炭など化石エネルギー燃料の有効な利用の促進を図るとする法案であり、石炭から天然ガスへの燃料転換を図る目的ではない。その判断基準は経済産業大臣のみが定める(第9条)ものである。

以上のとおり、本法案は、マスコミ等で宣伝されているような太陽光発電電力の固定価格での買取を義務づけるための独立した法案とは言い難い。また、経済産業大臣に原子力と火力発電所についての裁量行政を許し、国民も国会もその意思決定に関与できない法案となっている。

 

3 「日本型買取制度」の問題

このように、本法案では何ら明らかにされていないが、経済産業大臣の閣議後記者会見等によれば、法案による措置として、家庭用の太陽光発電設備による発電電力のうち自家消費にかかる電力を除く余剰電量について現在の2倍程度の価格で(但し、既設設備も対象とし、買取価格は将来にわたって逓減)10年間買取ることである。このスキームは、

第1に、買取の対象が家庭用の太陽光発電電力のみであり、風力やバイオマスなどその他の再生可能エネルギーによる発電は含まれていない。
 第2に、家庭用の太陽光発電についても、自家消費分を除いた余剰電力のみである。
 第3に、その結果、家庭用太陽光発電についても、10年の買取期間では投資回収はできず、自治体による補助がある場合でも15年を要することになる。
 第4に、世帯当たり50円~100円の価格転嫁とされているが、既設者への買取りを含めた負担であり、将来的な設置拡大による負担額との区分を明らかにする必要がある。

 

4 将来の発展性のある再生可能エネルギー買取制度が必要

現段階で経済産業省が本法案成立後に予定している「再生可能エネルギーの利用に関する判断基準」の骨格は、再生可能エネルギー利用の飛躍的拡大を促すような魅力的な制度とは言い難い。
 ちなみに、ドイツの再生可能エネルギー買取法では、法律で再生可能エネルギーの種類ごとの買取価格、期間を定めている。英国エネルギー法においても再生可能エネルギーの種類を明記し、固定価格買取義務を定めている。その詳細は国務大臣が定めるとしているが、当該国務大臣は温暖化政策を推進するエネルギー気候変動大臣であって、日本のように電力行政を所管する経済産業大臣にゆだねるものではない。

よって、本法案は、以下のとおり修正されるべきである。

  • (1)法の目的に、再生可能エネルギーの拡大を明記すること
  • (2)再生可能エネルギーの種類と対象を明記して、電力供給事業者の買取義務を明記すること
  • (3)買取条件についての細部についての決定は、設置者及び電力消費者の権利義務の内容にかかるものであり、国民的な議論の上に、国会の承認を要するものとすること
  • (4)太陽光発電電力については、余剰電力ではなく全発電量とし、買取価格を現状の2倍程度として、20年買い取るとすること
  • (5)化石燃料の利用においては、国際的削減義務と整合し、石炭から天然ガスへの燃料転換を含むCO2排出削減を基本とするものであること
  • (6)化石燃料及び再生可能エネルギー、原子力の利用についての政策については環境大臣と経済産業大臣の共管とすること

以上

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