「エネルギー基本計画」に対しての意見

2013年12月19日
認定NPO法人気候ネットワーク

 今月13日、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会にて「エネルギー基本計画に対する意見」がまとめられた。その内容は、原子力を「エネルギー需給構造の安定性を支える基盤となる重要なベース電源」と位置づけ、石炭を「優れたベース電源の燃料」と、原子力と石炭に重点を置き、私たちが今直面している原発リスクや気候変動問題などに真摯に向き合う姿勢のない、まるで安全神話に基づいた原発依存のエネルギー政策の推進し始めた50年前にでも遡ったかのような時代錯誤な内容であると指摘せざるをえない。

 新しい「エネルギー基本計画」の策定にあたっては、現行のエネルギー基本計画を全面的に見直し、ひとたび原発事故が起きた場合の壊滅的な被害を二度と繰り返さないためにも、「原発ゼロ」を前提とすること、さらに、地球規模で人類が危機にさらされている気候変動問題にも向き合い、化石燃料の依存からも 脱却することを柱とした新しいエネルギー計画が今求められている。

1.「原発ゼロ」を前提とすること

 東京電力福島第一原子力発電所の事故は、あってはならない非常に深刻な被害をもたらした。今、福島県内では既に30人近くの子どもが甲状腺ガンと診断されている。事故の原因や施設内の状況は2年半以上経った今でも多くが究明されず、放射能汚染水の海洋への垂れ流しも全くコントロールされていない。

 現行のエネルギー基本計画で、原子力発電を地球温暖化対策の柱とし、増強する計画の中で福島の事故は起きた。この過酷事故によって、今は全ての原発が停止し、その分をバックアップ電源である火力発電に置き換え、結果的にCO2の排出を増やした。原発に依存せず省エネや再エネを温暖化対策の柱とするような政策を実効してこなかった結果である。逆に温暖化対策を原発にのみ依存し、原子力発電で事故やトラブルが起きて原発が止まればその代替で火力を動かすという両者のバランスをとりながらエネルギー政策を進めてきた結果、CO2の排出を増やしてきたのである。原子力発電は温暖化対策の柱にはなり得ないこと は、これまでの歴史が証明している。

 また、原発の発電コストについて、かつて燃料費の比較で安価な電源とされてきたが、むしろコスト等検証委員会で最低でも8.9円とされ、これに損 害賠償費用や放射性廃棄物の処理費用を考慮すればさらに大幅に上乗せされることも明らかになっている。原発の経済性、過酷事故のリスク、最終処分問題など 踏まえれば、原子力を「重要なベース電源」とすることは明らかに間違いである。新しいエネルギー政策では、「原発ゼロ」とすることを大前提とすべきである。

2.温室効果ガスの大幅削減を目指すこと

 政府は今年11月、温室効果ガスの排出削減目標を「2005年比3.8%減」とする暫定目標を掲げ、世界から大きく非難をあびた。これは1990年 比3.1%増に相当するもので、到底受け入れられるものではない。気候変動問題は、今年9月に発行されたIPCC第五次評価報告書でも明らかになったとお り、世界全体での温室効果ガスの大幅な削減をしなければ人類の生存を脅かすような非常に深刻な事態を招きかねない。それにも関わらず、排出量が世界5番位 の日本が、京都議定書の削減義務も負わず、2020年に25%削減という国際約束を取り下げ、逆に温室効果ガスの排出量を増やすような目標を掲げたため、 国内外にマイナスのメッセージを発信し、国際交渉に甚大な悪影響を与えることとなった。

 新興国を含めた世界全体のCO2排出量が増加する中で、日本がとるべき道は、まず自ら野心的な削減目標をかかげ、その実効のための政策を実施し、省エネの向上や燃料転換や再生可能エネルギー増加などによる新しいエネルギーシステムを構築し、世界に好事例として示し、世界全体の排出削減を目指すことである。 科学に基づき、2050年に80%削減するという国内目標に向け、せめて直線的な削減経路をたどれるような2020年、2030年の道筋を描くべきである。そして、それは石炭燃料からの脱却、省エネや高効率化の徹底、再エネの大幅導入によって可能である。

3.石炭依存からの脱却をめざすこと

 基本政策分科会では、石炭火発をベース電源として位置づけ、「老朽火力発電所のリプレースや新増設による利用可能な最新技術の導入を促進する」としている。また、こうした高効率火力発電を国内だけではなく「海外でも導入を推進」するとしている。

 しかし、石炭の最大の問題はCO2排出量が大きいことである。今後、開発を進めるとされた次世代高効率石炭火力発電ですらCO2排出量はせいぜい石油の火力発電所程度であり、LNGの約2倍の排出がある。今、世界銀行をはじめとし、先進各国の金融機関が石炭火力への融資などを止める決定をしており、 基本政策分科会での計画案は、こうした世界の気候変動政策の流れに逆行するものだ。 日本では、石炭の利用増加がCO2排出量を押し上げてきた経緯がある。今後、高効率の天然ガスへの転換を進め、再生可能エネルギーへとシフトさせていくことが不可欠だ。

4.省エネの可能性を深掘りし、実現の政策導入を

 省エネ法では、主要業種のベンチマーク基準を設定しており、これを達成すれば素材系4業種だけでも2800万トンの削減量になる。

 また日本では、石油ショックの頃に省エネ対策を進めてきたため、これ以上の省エネは困難であることが強調されがちである。その間、省エネ技術は大き く進歩してきたものの、90年以降省エネがほとんど進んでこなかった。一部の工場など高い省エネ技術が導入されても、社会全体を底上げするしくみをつくっ てこなかったため、大きな省エネ・高効率化のポテンシャルがある。省エネ対策のメニューの羅列ではなく、排出量取引制度や炭素税などの実効を上げるための 政策を伴う計画とすべきである。

5.再エネ導入目標をかかげ大幅な導入を目指すこと

 原発にも依存せず、化石燃料からも脱却を目指す中で、再生可能エネルギーは将来的には日本の基幹エネルギーとするべきである。

 2012年7月からスタートした再生可能エネルギーの固定価格買取制度で、日本でもようやく再生可能エネルギーが増える兆しが見え始めたものの、現時点の再エネの割合は電力の2%未満、一次エネルギーの4%程度と非常に低い。今後、再エネを拡大するにあたり、2020年、2030年の導入目標を設定 し、政策的に後押しをすることで、再生可能エネルギーを大幅に増やす必要がある。

 今回示された計画案では、「今後3年程度、再生可能エネルギーの導入を最大限加速していく」と3年程度に限定しているが、このように期限だけのスケジュールを定めるべきではない。むしろ、電力システム改革が進んでいない中では、電力会社による接続拒否などが頻発しており、こうした課題を克服することの方が先決であろう。導入拡大の期間を3年と限定するのではなく、発送電分離や電力の小売自由化など電力システム改革を進め、将来にわたって再エネを大幅に増やしていくべきである。

6.国民的議論をふまえること

 昨年、エネルギー基本計画の策定のために設置された基本問題委員会の委員のうち、原発ゼロの意見だった委員の大部分が基本政策分科会の委員から外された。そして、基本政策分科会の委員会の構成は、利害関係者や経済界を代弁する人たちが大半を占めていた。その結果、今回とりまとめられた計画案は明らかに原発推進で化石燃料依存という過去にタイムスリップしたような内容である。

 エネルギー政策は、私たち一人ひとりの生活に関わる重要なテーマであり、3.11後の経験から多くの人たちがエネルギー政策を誰かに委ねてはならないことを実感しているのである。昨夏、エネルギーと環境に関する「国民的議論」では、約9万件のパブコメが集まり、そのうち8割以上は原発ゼロを求める声だった。今回のとりまとめは、こうした国民の感覚からは大きくズレ、去年の議論がほとんど反映されていない。最終的に「エネルギー基本計画」をとりまとめるにあたっては、パブコメを形式的なもので終わらせず、意見を反映し、さらには様々な形で国民的議論の場を設けて、あらゆるセクターからの意見をふまえた 上で計画をつくるべきである。

以上


PDFファイル

「エネルギー基本計画」に対しての意見(2013年12月19日 PDF)

 

関連リンク

・新しい「エネルギー基本計画」策定に向けた御意見の募集について

 政府のウェブサイトです。こちらから今回の意見募集の内容を閲覧したり、自分の意見をインターネット上で送信したりすることができます。意見募集の〆切は2014年1月6日です。ぜひ政府に意見を出しましょう!

・総合資源エネルギー調査会 基本政策分科会

 今回のエネルギー基本計画に対する意見をとりまとめた政府の審議会のページです。過去の会議の配布資料や議事録等を閲覧することができます。

 

本件についてのお問合せ

特定非営利活動法人気候ネットワーク 東京事務所
〒102-0082 千代田区一番町9-7一番町村上ビル6F
TEL:03-3263-9210 FAX:03-3263-9463
E-mail:tokyo@kikonet.org (担当:桃井)