2月6日、気候ネットワークは、中国電力株式会社並びにJFEスチール株式会社が計画している「(仮称)蘇我火力発電所建設計画」に対する意見書を提出しました。

(仮称)蘇我火力発電所建設計画 計画段階環境配慮書に対する意見書

1.石炭火力発電所建設への反対
 燃料を石炭にすることは、周辺への大気汚染だけではなく、CO2の大量排出によって地球温暖化に甚大な影響を及ぼすものだが、その気候変動への影響の項目すら配慮事項に含めていない本計画については環境保全の見地から建設自体に反対する。
 そもそも東京電力管内では、東日本大震災直後に計画停電を経験した市民・事業者による節電意識の向上や省エネ対策の強化によって、電力需要は着実に減っている。原発が稼働していない現在も電力は現状ですでに充分足りている状況である。また、2016年4月から開始した電力小売全面自由化によって、東京電力から新電力への契約変更数も増えており、一般の市民は再生可能エネルギーへのシフトを強く望んでいる現状もある。
 また、石炭火力発電は今後気候変動対策の強化や市場動向の変化、再生可能エネルギーなどの他の電源との競争によって採算が取れなくなり、座礁資産となる可能性が指摘されている。最近では、
関西電力が気候変動対策等を理由に兵庫県赤穂市の火力発電所の燃料を石炭に転換する計画を断念したことを受け、環境大臣がその決定を歓迎し、「石炭火力は将来性に乏しい」として他事業者にも石炭火力発電所建設の再考を促している。
 こうした状況からも、時代錯誤な石炭を燃料とする火力発電所を新たに建設することは認められない。本計画では運転開始時期を2024年としているが、2050年を超えてCO2排出を固定化させかねない本計画は撤回し、再生可能エネルギーへのシフトを求める。

2.二酸化炭素を配慮事項にしない点について
 本配慮書では、USCを導入することを理由に二酸化炭素を配慮事項として選定していない。使用される技術が最新鋭であっても、事業によって引き起こされるCO2の総排出量の影響を検討し、対応を実施することは、事業者の社会的責任として不可避である。「計画段階配慮手続に係る技術ガイド」によれば、事業によって「重大な影響を受けるおそれのある環境要素の区分を明らかにすべき」(p23)とあり、CO2排出量の程度が著しい事業は 「重大な環境影響」を持つとみなされる(p26)。回避・低減が可能、影響が可逆的、短期間 であるなどの特性を持つ影響は、方法書以降で扱うことができるとされている(p24)が、本事業を通じて大量に排出されるCO2による気候変動への影響は回避できるものでなく、またその影響が不可逆的であり、長期間にわたる。事業の計画段階において検討されるべき事項であることは論を待たず、この点を欠く本配慮書は、十分に環境保全について検討しているとみなすことはできない。

3.CO2排出が及ぼす影響に関する具体的データについて
 本配慮書においてはCO2に関する詳細データが提示されていない。CO2排出量や発電端効率、送電端効率は環境保全の見地から検討するにあたって重要な情報であり、使用石炭種の主要産炭地毎の評価を実施すべきである。今後、低品位炭を使用して発電効率が低下した場合、環境影響評価を改めて実施するなどの対応策は事前に示されるべきである。これらは事業実施の是非や、周辺環境への影響にも深く関わる情報であると考えられるため、事業者はこれを早急に開示、取り決めをするべきである。

4.「パリ協定」及び「日本の長期目標」との整合について
 2016年11月、地球の気温上昇を1.5~2℃未満にすることを目標とし、今世紀後半にはCO2排出を実質ゼロにすることとしたパリ協定が発効した。研究機関Climate Analyticsによるレポートでは、パリ協定の達成のためには、日本は2030年までに石炭火力発電所を無くする必要があるとされている。
 また日本政府は、第四次環境基本計画(2012年4月27日閣議決定)において、2050年に温室効果ガス排出量を80%削減させる目標を掲げている。しかし、本計画が実行されれば、排出は減らず、むしろ増えることになる。
 本事業が少なくとも30年~40年程度稼働することを考えると、「パリ協定」の合意に反し、国の目標とも整合しないため、本事業の正当性は認められない。

5.自主枠組みにおける目標との整合について
 2016年に発足した「電気事業低炭素社会協議会」は、排出係数0.37kg-CO2/kWhを目標に掲げているが、石炭火力発電はいかなる最新の高効率技術を用いてもこのレベルには到達しがたい。協議会で設定した目標も十分とはいえないが、少なくとも現状で再生可能エネルギーや高効率のLNG火力発電など様々な発電方法がある中で、あえて最悪の石炭火力発電所を新たに建設するという判断自体が環境への配慮を著しく欠いていると言わざるを得ない。

6.大気質について
 事業実施想定区域周辺から約1kmの範囲に、保育所や小学校、病院があることから、大気環境への影響は慎重に考慮する必要がある。しかしながら、現場の大気状況を見てみると、環境基準の短期評価において、二酸化硫黄は29局中1局、SPMは53局3局、PM2.5は23局中15局で適合しておらず、長期評価においては、PM2.5が23局中3局で適合していない。光化学オキシダントにおいては全ての測定局で環境基準に適合していない。二酸化窒素は一般局43局中1局、自排局3局で千葉県目標値、千葉市目標値を下回っている。さらに降下ばいじんは、すべての地点で千葉県環境目標値を下回っている。
 本事業が実施されれば、二酸化硫黄やPM2.5などの大気汚染物質が排出されることから周辺地域の大気環境の悪化を招き、健康被害を引き起こす可能性がある。環境NGO気候ネットワークおよびGREENPEACEが発表したレポートによれば、東京から200km圏内で計画されている本事業を含む10件(計750万kW)の石炭火力発電所から排出される大気汚染物質によって、早期死亡者が260人/年、低出生体重児が30人/年増加すると推定されている。発電所の稼働年数である40年間では早期死亡者が6,000~15,000人、低出生体重児が1,200人に上る可能性があり、このような甚大な影響は看過できるものではない。
 このことから、本事業においては個別の事業における排出量や影響のみではなく、他事業を含めた累積的な影響を鑑みたうえで長期的な健康影響を評価するべきであり、事業の見直しをすることが妥当である。

7.情報公開について
 環境アセスメントにおいて公開される方法書などの資料は、縦覧期間が終了しても閲覧できるよう にするべきである。また、期間中においても、印刷が可能にするなど利便性を高めるよう求める。

以 上

意見書

(仮称)蘇我火力発電所建設計画 計画段階配慮書に対する意見書

関連書

(仮称)蘇我火力発電所建設計画 計画段階配慮書