6月5日、気候ネットワークは、原子力委員会 が公表した「原子力利用に関する基本的考え方(案) 」に対する意見書を提出いたしました。

「原子力利用に関する基本的考え方(案)」に対する意見」

2017年6月5日
NPO法人 気候ネットワーク
 代表 浅岡 美恵

以下の通り、「原子力利用に関する基本的考え方(案)」に対しての意見を提出いたします。

「原子力利用に関する基本的考え方(案)の方向性

該当箇所:全体 
意見及び理由:2011年3月11日の東日本大震災による東京電力福島第一原子力発電所の事故により、福島やその周辺は放射能に汚染され、多くの人々が故郷を追われ、家族やコミュニティが分断された。原子力発電による事故は、広範かつ長期にわたる環境的、経済的、精神的被害をもたらし、人々の生命や暮らしを脅かしている。この事故の反省から、ドイツが福島事故直後に「脱原発」の方針を示したのに続き、様々な国が原発からの脱却を宣言した。本来、日本こそが、原発事故の悲惨な経験に真摯に向き合い、真っ先に原子力からの撤退方針を示すべきである。
また、この案の中では原子力発電が地球温暖化対策のために必要であるという文書が各所に盛り込まれているが、この考え方も、日本でも2014年度に原発利用率ゼロにもかかわらずCO2削減が実現したという事実を踏まえない、時代錯誤な考え方で全く同意できない。むしろ原子力から脱却し、これからは再生可能エネルギーを中心としたクリーンな電源に切り替え、将来的には再生可能エネルギー100%の社会を目指すことこそ、地球温暖化対策の柱に据えるべきである。

2. 原子力を取り巻く環境変化

該当箇所:P3 2.1  東電福島原発事故による影響
意見及び理由:日本でも原子力利用を止める決断をするべきである。東電福島原発事故によって高まった社会的な原子力への不信や不安は、原子力利用を推進する限りはなくならない。

該当箇所:P4 1行目
『温室効果ガスを長期的に更に大幅削減するためには、現状の取組の延長線上では達成が困難であり、イノベーションによる解決を最大限に追求することなどが必要と言われている。』
意見及び理由:案が示すとおり、温室効果ガスを長期的に大幅削減するためには、現状の取り組みの延長線上では達成困難であるが、「イノベーションによる解決」が必要であるという部分をもって「原子力の利用」に結び付けるべきではない。現状のエネルギーシステムである原発や石炭などの大規模集中型電源依存から脱却し、省エネルギーを大胆に進め、再生可能エネルギーを中心としたエネルギーの大転換に向かうことが必要であることを明記すべきである。

該当箇所P4 6行目
『G7伊勢志摩サミットの首脳宣言(平成28年5月)において、原子力は、将来の温室効果ガス排出削減に大いに貢献し、ベースロード電源として機能するとされている。』
意見及び理由:伊勢志摩サミットの首脳宣言の本文では、この文章の後に「原子力の利用を選択する国にあっては、(略)原子力政策に対する社会的理解を高めるために、科学的知見に基づく対話と透明性の向上もまた極めて重要である。我々は原子力の利用を選択する全ての国に対し、独立した効果的な規制当局を含め、安全性、セキュリティ及び不拡散において世界最高レベルの水準を確保し、その専門的な知見や経験を交換することを求める」と続くので、それも含めて記載するべきである。
 日本は、東電福島原発事故後、原子力の安全神話が崩れ、原子力行政や原子力業界の情報開示の問題が明らかになり、人々の安全が確保されない状況下での原発再稼働をめぐる強引な進め方にも国民の不信感が高まっている。こうした状況下で原子力を推進することはサミットの首脳宣言の主旨からも逸脱するものである。
 G7伊勢志摩サミットの首脳宣言では、「エネルギー効率及び水力発電を含む再生可能エネルギー並びにその他の国産資源の活用に関する強化された取り組みを支持する」としており、むしろその部分を強調するべきである。日本も省エネ・再エネのエネルギー政策を強化すべきである。

4. 原子力利用の基本目標について

該当箇所:P6 (2)地球温暖化問題や国民生活・経済への影響を踏まえた原子力エネルギー利用を目指す
意見及び理由:地球温暖化対策を推進する上で、原子力発電は有力な選択肢ではない。原発は、一度でも事故があったら全電源を停止させなければならず、大規模な電源喪失につながる極めて不安定な電源である。原発事故のたびに、バックアップ電源である火力発電を焚き増ししてきた結果、CO2の排出が増加する傾向があった。いわゆる「ベースロード電源」として24時間フル稼働させる電源は、再生可能エネルギーを中心とする新しいエネルギーシステムにはそぐわない。むしろ、地球温暖化問題に対処するのであれば、徹底した省エネを進めるとともに、再生可能エネルギーを中心とし、調整電源で柔軟に対応し、原発や石炭などから脱却したエネルギーシステムに切り替えていくべきである。
 また長期的に見れば、原子力から脱却する方が安定供給の点でも、国民生活の安全性の確保の観点でも、経済性の観点でも優位である。

5. 重点的取組とその方向性

該当箇所:P11  5.2.2. 地球温暖化問題や国民生活・経済への影響を踏まえた原子力エネルギー利用の在り方 (2)国民生活・経済への影響と地球温暖化問題を踏まえた総合的な判断に基づく対応
意見及び理由:地球温暖化問題への対応については、「2030年度の削減目標は、エネルギーミックスを実現することで、達成される」とあるが、そもそも2030年のエネルギーミックスで石炭を26%、原発も20~22%とするという非現実的な想定をしていることに問題がある。世界の先進国は「脱石炭」に向かい、2020年代に既存の石炭火力発電所をも廃止するとともに、原子力も脱却もしくは低減するのが潮流になっている。
 日本は、地球温暖化対策として本来真っ先にやるべき石炭からの脱却を放棄し、むしろ新たな石炭火力発電所の建設を容認していることこそが問題である。また、石炭火力発電の温室効果ガスの排出係数を原発の稼働によって相殺しようというのは、ただ「目先の経済性」のみが優先されているからにすぎない。これまで原子力に依存してきたことが今の負債になっているように、今後、石炭や原発依存し続け、将来世代にさらなる負債としてツケを残さないようにするためにも、早期脱却の方針を示した上で、再エネ中心としたエネルギーシステムの大転換を進めるべきである。

以 上

意見書

「原子力利用に関する基本的考え方(案)」に対する意見書