3月20日、気候ネットワークは、関電エネルギーソリューションと丸紅株式会社による(仮称)秋田港火力発電所建設計画における環境影響評価準備書に対する意見書を提出しました。

 

(仮称)秋田港火力発電所建設計画 環境影響評価準備書に対する意見書

1.石炭を燃料とする問題について

準備書では繰り返し本事業でUSCを用いることが「環境負荷を低減する」と言及している。特に要約書19ページでは石炭火力が「地域社会への環境負荷低減」(要約書p.19 l.18)するとしているが、これは大きな誤りである。そもそも建設予定地には石炭火力発電所はない。そのため石炭火力発電所の稼動によって”地域社会への環境負荷”は増加するだけである。いくら最新技術であっても排出されるCO2の量はLNGの2倍であることには変わりないし、汚染物質も大量に排出し、環境影響上の問題は非常に大きい。計画自体を撤回すべきである。

 

2.石炭を燃料とすることについて

石炭を燃料とする大規模な火力発電所を新たに建設することは時代錯誤である。エネルギー基本計画において石炭がベースロード電源とされていることを挙げて石炭を選択したとしているが、周辺への大気汚染に加え、石炭火力発電はLNGの約2倍のCO2を排出して気候変動に甚大な影響を及ぼし、施設の稼働そのものが著しい環境破壊につながる。本計画は、年間約420万トンもの石炭を利用する計画とされており、採掘、輸送、使用、廃棄に至るまでのすべてのプロセスにおいて、環境汚染上極めて問題が大きい。

日本は天然資源に豊富で、世界が再生可能エネルギー100%を目指す中で、石炭をわざわざ海外から輸入して燃やすことは、日本の国富の流出であり、かつエネルギー自給率を上げることにもつながらない。今後、自然エネルギーのような変動電源を活用する電源システムへと大胆に切り替えていくことが不可欠であり、そのためには石炭のような24時間稼働する電源を増やすことは、再生可能エネルギーの導入の阻害要因にしかならない。

また、火力発電所で石炭のように汚染物質を大気中にばらまく設備を増やすことは環境配慮上、最悪の選択である。

 

3.温室効果ガスの排出源単位

 本事業の排出原単位は0.760kg-CO2/kWhとあり、低炭素社会実行計画の中で目標とされている「2030年度に排出係数0.37kg-CO2/kWh」を2倍以上も上回っている。

準備書の中では、”「電気事業低炭素社会協議会」に参加し・・・「電気事業低炭素社会協議会の低炭素社会実行計画」の目標達成に向け着実に取り組んでいる”ため”国の・・・目標・計画との整合性は確保されていると考える”としているが、合理的、客観的根拠がなく、全く整合性がとれていない。具体的にどのように達成するのかを明らかにすべきである。

 計画における温室効果ガスの排出原単位は非常に大きく、CO2の年間排出量は866万t以上に及ぶと推算される。大量のCO2排出を30年以上も固定化する事業は実施するべきではない。

 

4.省エネ法ベンチマーク指標

省エネ法ベンチマーク指標について、「2030年度の目標達成に向けて計画的に取り組み、確実に遵守する」などと示されているが、具体的にどのようにベンチマークを達成するのか、その具体策が全く示されていない。また、関西電力および丸紅が所有する火力発電所の休廃止や稼働抑制などの全体の見通しも示されておらず、どのようにCO2排出削減を実現するのか、の具体策も全く記載がない。このような杜撰な環境アセスメントの内容で、本計画の実施を到底認めることはできない。

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5.「パリ協定」及び「日本の長期目標」との整合について

 準備書では、本事業を正当化する根拠として、「エネルギー基本計画」や石炭が「重要なベースロード電源として位置づけられており」などと、国の目標に沿った事業であるという点を強調している。しかし、2015年の「パリ合意」起点としてめまぐるしく変化している国際社会の潮流を加味すると、現状の国のエネルギー政策はパリ協定を全く反映していないものである。国の政策だけを判断指針とするのはビジネスとして先見性がないと指摘せざるをえない。

現在、世界の主要国、そして経済界は石炭利用から手を引いている。英国は2025年、フランスは2022年までに石炭火力の廃止を決め、依存率が高いドイツも廃止を進める方針である。中国でも新増設の抑制や建設計画の取り消しが起きており、クリーンエネルギー税も導入された。経済界ではダイベストメントの動きが急速に拡散している。すなわち、今後は低炭素だけでなく脱炭素社会に向けて急速に進んでいくことが考えられる。本事業は運転開始時期を2023年と2024年としており、稼動年数を約30~40年とすると、本事業は2050年を超えてCO2の排出を固定化することを意味する。よって本事業は気候変動対策の面からもビジネス面からも、国際的なトレンドに逆行した動きであるといえる。以上のような環境への配慮に欠けビジネス判断の甘さを包含している本事業の実行は、グローバル展開している貴社の社会的評価に甚大な傷を付けることとなるだろう。?

 

6.CCS(二酸化炭素回収・貯留)について

CCSに関して、準備書では本事業の建設予定地を「CCSのポテンシャルが高い地点」と記載しているが、現時点では「国から提供される検討結果や技術開発状況等を踏まえ、必要な検討を行なっていく」などと導入の見通しのないあいまいな表現にとどまり、全く導入を前提にしていない。「秋田沖は地層構造等についは不確定要素はある」と示されているように、不確実性が高く、失敗した場合のCO2排出増加も懸念され、そもそもCCSは実用化に向けた障壁が山積しているが、もし石炭火力発電所の計画を進めるならばこうした不確定要素をクリアして確実に導入することを前提とした上で、本事業を進めるべきである。

 

7.発電所の立地と大気汚染について

 準備書によれば、発電所の建設地周辺には、保育園・幼稚園、小中学校、医療施設や高齢者福祉施設など、環境保全に特に配慮が必要な施設が多数存在する。しかし、こうした施設に集まる子どもやお年寄りなどに対する健康影響やPM2.5によるリスクは高まるが、そのような影響評価はなされていない。石炭の燃焼による汚染に脆弱な子どもや病人が恒常的に集合している施設もあることを考慮すると、適切に調査・評価すべきである。

 また、2009年に稼働を開始した磯子火力発電所新2号機の大気汚染物質排出濃度は本計画を下回り、本計画において最善の大気汚染対策が取られたとは考えにくく、水銀などの重金属の年間総排出量の記載がない点も問題である。排煙処理を行ったとしても石炭に含まれる水銀の3割程度は大気中に放出されるため、計画段階から評価することが必要である。

 

8.石炭灰について

 本計画による石炭灰の量は年間62.2万トンとされており、莫大な量である。準備書ではこれら全量をセメント原料などに利用する計画とされているが、石炭灰は現在でも処理先がなくなっている状態で、本計画の発電所が稼働する2023年以降のセメント需要はさらに不透明である。また石炭灰に混ざった水銀など有害物質は、そのままセメント原料にするとの?明があり、水銀の移動や拡散につながりかねず大変問題である。

 

9. 情報公開のあり方について

 環境アセスメントにおいて公開される準備書は、縦覧期間が終了しても閲覧できるようにするべきである。そもそも環境アセスメントは住民とのコミュニケーションツールであり、できるかぎり住民に開かれたものであるべきである。縦覧期間後の閲覧を可能にするほか、縦覧期間中もコピーや印刷を可能にするなど利便性を高めるよう求める。「無断複製等の著作権に関する問題が生じないよう留意する」ことは、ダウンロードや印刷を禁じる理由とはならない。

 

 

意見書

(仮称)秋田港火力発電所建設計画環境影響評価準備書に対する意見書(2018.03.20)

 

関連サイト

関電エネルギーソリューション 秋田港火力発電所(仮称)建設計画に係る環境影響評価準備書の届出・送付及び縦覧について