<プレスリリース>

政府の「長期低排出発展戦略」案

イノベーション頼みの現状維持・先延ばしでしかない

2019年4月23日

特定非営利活動法人気候ネットワーク

代表 浅岡美恵

 

23日、政府は、4月2日に発表された懇談会提言を踏まえ、政府としての気候変動に関する「長期低排出発展戦略」案をとりまめ、審議会に提示した。しかしその内容は、これまでどおり、未来の技術のイノベーションに過大な期待を寄せたものであり、今すぐとるべき行動や対策の強化には踏み込まず、「現状維持」と「先延ばし」を容認するものにとどまった。

昨年10月に発表されたIPCCの1.5度特別報告書では、早ければ2030年にも気温上昇が1.5度に達してしまうと指摘され、今後約10年が、気温上昇を1.5℃に抑制することができるかどうかを左右する極めて重要な時期となっている。同報告の発表後、世界各国で、対策を大幅に強化する必要性が共有され、2019年9月の国連事務総長による気候サミットで各国に行動の引き上げを発表するよう要請されているところでもある。

しかし、今回の政府の長期戦略案は、このような深刻な事態に対する緊急性の認識を大きく欠き、対策強化に向けて日本として具体的な一歩を踏み出すことへの意欲は見られない。このような内容の長期戦略は、G20大阪サミット前に日本としてのリーダーシップを示すものとはなりえず、世界から失望と失笑を買うだけだろう。

 

イノベーション依存・現状容認 ~古びたビジョンの塗り直しは止めるべき

日本の環境政策には、「環境の経済の両立」という旗を掲げながら、経済発展を犠牲にしない範囲の小手先対応に止めてきたという歴史があるが、今回の案もまた、ビジネス主導の技術対策・イノベーションに大きく依存した経済優先が明白である。技術の例には、CCS(CO2回収貯留技術)・CCU(CO2回収利用技術)、次世代蓄電池、水素製造・貯蔵・利活用、宇宙太陽光、次世代地熱、次世代原子力、海流発電、高度化した風力発電などが挙げられいるが、これらの技術革新依存は、経済産業省や経団連が長年好んできた化石燃料・原発利用の継続を前提とした現状容認の古びたアプローチでしかない。早ければあと10年程度で気温上昇が1.5℃に達するかもしれないという状況で、2030年以降のCCS/CCUの実用化を目玉にすること自体、先延ばしの猶予がないという現実問題への対応として不適切である。

技術選択においても、石炭火力等を今後も建設・運転をし続け、そこに更なる費用をかけて不確実で利用も限定的なCCS・CCU技術を導入するより、コストが大幅に低下する再生可能エネルギーの主力電源可を加速的に進めることが、はるかに確実で安価かつ持続可能な選択肢であるが、再エネへの大胆な転換が時間軸・方向性共に見えないことも決定的な問題である。

 

日本の脱炭素社会の姿を描き、行動引き上げを盛り込むべき

提言に欠けている重大なことは、日本としての脱炭素社会をめざす政治的意思とその姿が描けていないことだ。長期戦略として描くべきことは、まず、日本の2050年80%削減という目標をパリ協定に整合するよう、2050年目標を「実質ゼロ/カーボンニュートラル」に引き上げ、日本の脱炭素社会のゴールを明示する必要がある。そして、速やかに行動を加速・拡大させるために、2030年目標を引き上げることが必要である。

さらに、石炭火力発電の推進方針を転換し、2030年には国内で全廃に向かう方向性や海外の石炭関連事業への投融資を中止する方針が不可欠であったが、脱石炭の明確な位置づけは見送られた。また、再生可能エネルギー100%に向けたエネルギー転換を推し進めていくために求められる具体的な目標と方策を組み込めていないという重大な欠陥がある。

長期戦略には、少なくとも以下の要素を盛り込む必要がある。

 

  • 2050年温室効果ガス排出実質ゼロ(カーボンニュートラル)を目標とする
  • 2030年の削減目標引き上げ(90年比40~50%削減)
  • 脱原発
  • 国内石炭火力発電2030年全廃
  • 石炭火力発電の海外融資の中止
  • カーボンプライシングの導入

 

長期戦略案の見直しと強化

政府案では、6年をめどに長期戦略の見直しをするとしている。しかし、パリ協定の下で世界各国と協調して日本の脱炭素社会の構築を推し進めていくためには、次の見直しを、IPCC第6次評価報告書の発表(2021~22年)、グローバル・ストックテイクの実施(2023年)の時期を踏まえ、2022~2023年に実施することを明記するべきである。少なくとも、パリ協定のNDC(国別約束)提出のサイクルと同じ5年ごとであるべきである。

 

以上

 

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【プレスリリース】政府の「長期低排出発展戦略」案 イノベーション頼みの現状維持・先延ばしでしかない(2019/4/23)

 

参考リンク

中央環境審議会地球環境部会(産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会との合同会合)の開催について