【意見書】パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(仮称)(案)への気候ネットワーク意見

2019年5月16日(木)
特定非営利活動法人気候ネットワーク

2019年5月16日、気候ネットワークは、「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略」のパブリックコメントに際して、次の意見を日本政府に提出しました。

〇 8ページ30~33行

最終到達点として「脱炭素社会」を掲げたことを歓迎する。しかしその時期は、2050年とするべきであり、日本の目標は2050年温室効果ガス排出実質ゼロ(ネットゼロ)とするべきである。

〇 9ページ1行

これまでの延長線上にない非連続なイノベーションだけに期待することは、現状の経済活動の延長を容認することにもなりかねない。今ある技術で連続的かつ加速度的な変革も促進するべきである。

〇 9ページ30~33行

技術のうち、CCS・CCU・原子力は除くべきである。これらの技術は気候変動対策への効果が不確実な上、再生可能エネルギーより安価になる可能性はほとんど見込まれず、経済的にも妥当性が見出せないためである。

〇 10ページ18~20行

本戦略が、「イノベーションの推進」、「グリーン・ファイナンスの推進」、「ビジネス主導の国際展開、国際協力」の3つを施策の大きな柱とするとあるが、何よりまず、脱炭素社会実現への社会システム・制度・政策の変革を柱に位置付けるべき。

◯14ページ32行

目指すべき2050年のビジョンとして、再生可能エネルギーは「主力電源化を目指す」と示したのは良いが、具体的目標が示されていない。2050年までには再生可能エネルギー100%を目指すことを明記するべきである。

◯14ページ33~34行

目指すべき2050年のビジョンとして、持続可能ではない原子力を位置づけるべきではなく、脱原発社会であることを前提とすべきである。

〇 14ページ34~35行、16ページ21-22行、18ページ2~5行

「パリ協定の長期目標と整合的に、火力発電からの34 CO2排出削減に取り組む。」ことと、「非効率な石炭火力発電のフェードア ウト等を進めることにより、火力発電への依存度を可能な限り引き下げる」こととは整合しない。前者と整合させるためには、石炭火力は2030年に全廃する方向性を示すべき。

◯16ページ38行~17ページ5行

CCSは2020年実用化を目指してほぼそれが実現できなかった経緯がある。さらに再生可能エネルギーのコストが急速に低下する中、燃料費のかかる石炭火力にCCSを付ける方向性は、経済的に全く非合理的なアプローチである。石炭火力を全廃し再エネへ舵を切る方向性示すべき。

◯19ページ37~17ページ15行

省エネは技術対策のみならず、システム改革・需要側の効率的・最適運用によりさらに加速させることが出来る。そのための仕組みとしてのカーボンプライシングの導入を方向性として示すべき。

◯18ページ2~6行

「火力発電のCO2排出削減に取り組む」ではなく、「石炭火力を2030年に全廃する」と具体的な目標年と全廃を明記すべきである。脱石炭は「パリ協定」の1.5℃目標と整合する唯一の道である。

◯18ページ4~5行

「非効率な石炭火力発電のフェードアウト等を進める」のではなく、パリ協定と整合的という文章と整合させるため、「すべての石炭火力発電を2030年にフェーズアウトする」とすべきである。

◯18ページ10行

水素は「多種多様なエネルギー源から製造」ではなく、再生可能エネルギーによる水分解に限定すべきである。石炭や天然ガスを原材料とする水素製造はCO2排出を引き起こし、脱炭素社会と整合しないためである。

◯19ページ1~19行

原子力は事故があった場合の甚大なリスク、放射性廃棄物処分ができないこと、電源として高コストであることなど、いずれの観点からも電源として選択すべきではなく、温暖化対策としての選択肢にもなりえない。気候変動の長期戦略として原子力を位置づけるべきではない。

◯21ページ18~38行

産業部門の特徴は、現時点での特徴を述べたに過ぎず、2050年の産業構造の転換を構想できていない。高炉生産が電路生産へシフトする可能性、リサイクル生産への転換、省エネの推進による生産工程への影響等が構想されていない。脱炭素社会を前提とした産業構造を意欲的に展望するべきである。

◯23ページ1~18行

産業部門での目指すべきビジョンとして、CO2フリー水素とCCS・CCU技術の採用の二点が掲げられているが、再生可能エネルギーや省エネルギーに立脚した脱炭素社会に向けた産業構造の転換が不可欠である。

◯26ページ27~28行

「中長期的にフロン類を廃絶する」の中長期を具体的に年数を記載する。パリ協定「遅くとも2050年にはフロン類を廃絶することを目指す」と修正するべきである。

◯26ページ30~32行

PFC、SF6、NF3については、「高い水準を維持する」というレベルではなく、「2050年の廃絶をめざす」とする。非常に高い温室効果係数であり、微量であっても大気放出すると甚大な影響を及ぼす。利用する限り100%回収はできず、大気中への漏洩は避けられないからである。

◯26ページ18行

「グリーン冷媒」との名称は削除し、「自然冷媒への転換」とする。「グリーン冷媒」という言葉で「低GWPのFガス(フロン類)」と「自然冷媒」を同等に扱うべきではない。Fガスの温暖化以外の環境影響を考慮し、自然界に存在する物質に転換すべき。

◯55ページ12行~54ページ3行

CCS・CCUについての期待とこれからのコスト削減の必要性は、全く誤った方向性である。脱炭素へ向かうアプローチとして示すべきは、化石燃料依存からの速やかな脱却であり、継続利用の上にCCS/CCUを利用することは、回り道となり、コストも排出も増加させるだけである。

〇56ページ20行~31行、55ページ32行~56ページの8行

これらのCCS・CCU・水素の技術の詳細は、それらの技術開発を所与とし、再エネによる普及を阻害し、誤った技術開発への投資をもたらす恐れがあるため、削除するべき。

〇59ページ10行~

再生可能エネルギーについては具体的な導入目標を、一次エネルギーまたは最終エネルギー、電力、熱においてそれぞれ定めるべきであり、2050年には100%を目指すべきことをうたうべきである。

◯61ページ15行~

原子力については、福島原発事故を経験を受け、民意を反映し、今後の技術開発などは行わず脱原発を目指す方向を示すべき。

〇77ページ40行~69ページ3行

資金については、ODAやその他政府資金(OOF)等に限らず、気候変動分野への資金の拡大に取り組むとともに、パリ協定の長期目標を踏まえ…とあるが、明確に、石炭火力への公的支援・投融資を速やかに中止することを方針として示すべきである。

〇74ページ19行

公正な移行については、化石燃料産業としての電力部門、製鉄等の素材系産業部門における雇用の移転について戦略を移行施策を導入するためのプログラムを策定することを掲げるべきである。

〇78ページ1行~

カーボンプライシングは、脱炭素への経済的社会を構築する基盤として不可欠でありこれを強化することを明確に示すべき。そして、P59の経済社会システムのイノベーションを進める施策として位置付けるべき。

〇79ページ1行~

6年程度を目安として見直しをするとの規定は遅すぎる。2023年のグローバルストックテイクに備えてその前の2022年に見直しをすると規定するべきである。

◯全体に関わる点

パブコメの期間が1ヶ月もなく短すぎる。地域での説明会も京都と仙台の二箇所しかなく、しかも1時間半と非常に短い。広報もほとんどされていない。国民の生活全体に関わる重要な問題なので、長期的に広報をし国民的議論をふまえた長期戦略とするべきだ。

◯全体に関わる点

パリ協定長期成長戦略懇談会で12月までに議論されていた内容と今回の政府案は大きく異なり、今回の「政府案」がどのようにまとめられたのか非常に不透明である。どのようなプロセスでこの政府案がまとまったのか公開すべきである。

 

参考:パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(仮称)(案)のパブリックコメント

http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=195190002&Mode=0