<プレスリリース>

日本政府、国連気候行動サミットで対策強化の約束示せず
石炭依存の政策方針が足かせ。国連気候外交への関与の機会失う

2019年9月24日
特定非営利活動法人気候ネットワーク
代表 浅岡美恵

 

米国ニューヨークで日本の石炭火力推進方針を批判する国際NGOメンバーら
(写真:Heather Craig, Survival Media Agency)

 

23日、アントニオ・グテーレス国連事務総長の呼びかけで、米国・ニューヨークにて、国連気候行動サミット(UN Climate Action Summit)が開催された。国連事務総長からの度重なる要請にもかかわらず、日本はこの貴重な機会を逸し、目標・行動を引き上げる意思を示すことに失敗した。これは、国内外で気候災害に苦しむ現在世代のみならず、将来世代への裏切りというほかない。

最新の科学的知見と深刻化する気候災害を背景に、2015年のパリ協定では「世界平均気温上昇1.5?2℃未満」との長期目標が合意された。ところが、各国政府の現行の排出削減目標は、すべて達成されたとしても約3℃上昇につながると推計されている通り、極めて不十分なものである。国連事務総長は、各国政府の首脳が今回のサミットに集結し、パリ協定の長期目標に沿うよう、自国の目標を引き上げる意思を示すことを求めていた。また、「CO2排出量が最も大きい石炭火力発電所について、2020年以降の新設はやめるべき」と述べ、石炭からの脱却を強く求めていた。

このサミットにあわせ、世界150カ国で気候危機の解決を訴える抗議デモ「グローバル気候マーチ」が行われ、約400万人もの子どもたちや若者、市民が街に出て、気候危機の解決を求め行進している。これら市民の要請に応えて、気候変動影響に脆弱な小規模国を中心に、合計66か国が2020年までに国別約束(NDC)の目標や行動を強化する意思を表明済みである。石炭火力発電ゼロをめざす「脱石炭グローバル連合(PPCA)」にドイツなどが新たに加わり、メンバー数が91となった。世界は動いている。

しかし、そこに日本の姿は皆無だった。日本政府からは安倍総理ではなく、小泉新環境大臣がニューヨークを訪問したが、日本政府として1.5℃目標をめざす立場を明らかにすることも、それに沿って気候目標や対策を強化する約束をすることもなかった。また、英仏独など主要国がすでに貢献を表明している途上国支援のための「緑の気候基金(GCF)」の増資においても日本からの新たな貢献の表明はなかった。そればかりか、グテーレス事務総長が繰り返し求めていた脱石炭への決断も回避し、サミットの表舞台でスピーチの機会を与えられなかった。何の準備もなく、いわば「手ぶら」で国連サミットに参加し、実質的な中身のないまま「リーダーシップ」との言葉を繰り返しただけであったから、日本に対する失望が国際社会に広がったのは無理もない。

今や、気候変動は、国際社会の喫緊の最優先課題となった。今回のサミットで明らかになったことは、石炭偏重のエネルギー政策方針に固執している限り、外交の舞台に日本の姿を見ることはないということである。

この状況を打破するためには、現在の不十分な排出削減目標を強化して2020年までに国連に再提出する意思を示し、その準備に着手することが何よりも重要である。これと並行し、地球温暖化対策計画及びエネルギー基本計画の改定を進め、省エネと持続可能な再エネ100%への転換方針を共有し、カーボン・プライシング策を抜本的に強化することが必要である。

今回のサミットでも厳しい批判を受けた石炭重視の政策方針を撤回し、工事中のものも含め、石炭火力発電所の新増設計画はすべて中止し、2030年までに既設のものも全廃しなければならない。相次ぐ石炭火力発電所の新設計画には、建設地の周辺住民からも稼働・建設差し止め訴訟が提起されている。5月には建設を認めた国(経産省)に対する行政訴訟が提起された。小泉環境大臣の足元、横須賀では、株式会社JERAの大規模石炭火力発電所だけが、国の融資をうけて8月より工事を開始している。訴訟による市民の声や、国際社会からの要請を受け、環境大臣は新設計画を行う事業者へ、直ちに中止の要請を行うべきである。

今、求められているのは、具体的な行動である。日本は、23日、「カーボン・ニュートラル・コーリション(炭素中立連盟)」に参加したという。まず、国の目標として「2050年カーボン・ニュートラル(炭素中立)」を掲げ、横須賀や神戸などの石炭火力発電所の建設を止めること。それが、子どもたちの未来を守り、日本が国際社会からの信頼を取り戻す唯一の道である。