持続可能な開発目標(SDGs)実施指針(改定版)の骨子に関する意見;

気候変動の解決なしにSDGsの全面達成はありえない

 

?2019年11月25日(月)

特定非営利活動法人気候ネットワーク

 

持続可能な開発のための2030アジェンダには、「我々の時代において、気候変動は最大の課題の一つであり、すべての国の持続可能な開発を達成するための能力に悪影響を及ぼす」とあります。気候変動はSDGsの17の目標のうちの1つであるというだけでなく、環境・社会・経済の様々な「危険を倍増させるもの(a threat multiplier)」と認識されています。健康や貧困、飢餓といった、SDGsの他の分野にも深刻な影響を及ぼすため、気候変動の解決なしにSDGsの全面達成はありえません。2019年の持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(HLPF)においても、気候変動の影響とSDGsとの関係が強調されています。

人類の生存を脅かす気候危機を防ぎ、持続可能な地球社会を実現するため、改定「SDGs実施指針」に関して、以下の事項を提言します。

 

A.SDG13気候変動について

1. 日本政府として気候変動が「気候危機」と言うべき深刻な状況にあることを認識し、SDG13気候変動対策を早急かつ大幅に、追加的に強化する意思を明記すること。気候変動については優先課題のひとつに位置づけられてきたにもかかわらず、ベルテルスマン財団とSDSNの報告によって不十分と評価されていることから、従来の取り組みの延長では間に合わないことを明記すべきです。また、気候変動対策がSDG1貧困、SDG2飢餓などすべての目標達成に貢献するとの認識を掲げるべきです。

2. 現行のSDGs実施方針策定後に発表されたIPCC1.5℃特別報告など最新の科学的知見を踏まえ、日本政府としてパリ協定1.5℃目標へ貢献する意思を明らかにすること。また、1.5℃目標という観点から、政府のすべての省庁・政策分野において見直しを行い、目標に逆行する施策(石炭火力発電推進など)は改める方針を掲げるべきです。

3. パリ協定1.5℃目標の達成を可能にする観点から、最新の科学的知見に沿って2050年実質排出ゼロ目標を設定し、これから逆算(バックキャスティング)し、2030年までの日本の温室効果ガス排出削減目標を、パリ協定の1.5℃目標に整合的な水準(少なくとも45?50%削減)まで引き上げる意思を示すこと。その目標引き上げの検討プロセスにおいては、利益相反となる化石燃料関連産業やエネルギー多消費産業の関係者を除き、市民社会の参画を確保するべきです。

4. SDG13気候変動の目標達成に逆行する、化石燃料関連事業への公的資金・民間資金の流れを可視化する仕組みを設けること。日本における化石燃料への資金の流れの透明性を高めるため、かかる資金のデータを包括的にとりまとめた報告書を政府として発行する方針を明記すること。加えて、G7伊勢志摩サミットでも謳われた、「化石燃料補助金を2025年までに撤廃する」という目標への進捗状況も発表するべきです。

5. SDG13気候変動の目標達成に逆行する、最大のCO2排出源である石炭火力発電を、遅くとも2030年までに国内で全廃するロードマップを策定する方針を掲げること。IGCCという最新型・次世代型の石炭火力技術を用いたものでも、平均的な天然ガス火力発電の2倍以上のCO2を排出するものであって、グテーレス国連事務総長や国連環境計画(UNEP)を始めとする様々な機関や研究者が脱石炭を訴えています。脱石炭を進めることは、大気汚染対策にもなり、SDG3健康、SDG7エネルギー及びSDG11都市にも貢献します。

6. SDG13気候変動の目標達成に逆行する、途上国における石炭火力発電事業への公的資金支援をすべて取りやめる方針・施策を明記すること。日本は海外の石炭事業への公的資金支援額がG7で第1位であり、突出しています。国際協力銀行(JBIC)や国際協力機構(JICA)、日本貿易保険(NEXI)など、政府系機関が関与している途上国での石炭火力発電所事業を巡って、現地住民から人権侵害を訴えられていること、SDG13のみならずSDG16平和を毀損していることも認識し、見直すべきです。国連の児童の権利に関する条約に基づく児童の権利委員会が、2019年2月に日本政府に対して、「他国における石炭火力発電所への政府の公的融資を再検討し、それらが徐々に持続可能なエネルギーを利用した発電所へと更新されることを確保すること」を勧告したことも考慮すべきです。

 

 

B.その他(SDGs実施指針の全体の枠組み・位置づけ等について)

7. 2030年までにSDGsが実現したと仮定し、そこから逆算(バックキャスティング)し、それぞれの目標・指標毎に評価を行うべき。かかる評価のプロセスには、利益相反の懸念のある事業者の代表ではなく、市民社会から当事者性のある主体の参画を確保すべきです。さらに、評価結果を各省庁においてなされている政策決定プロセスにインプットし、それらをSDGsに照らして見直す仕組みが必要です。

8. すでに実施指針に記載されている「誰一人取り残さない」に加えて、2030アジェンダの宣言に謳われている、「我々は、最も遅れているところに第一に手を伸ばす」との決意についても明記すべき。なぜなら、これまでの国内の議論においては、先進的なSDGsの取り組み事例の紹介は行われていますが、最も遅れているところの対策や支援をいかに行うべきかという議論が不足しているからです。

9. 「SDGsを達成するための具体的施策(付表)」においては、これまで政府・各省庁が取り組んできた施策を列挙するだけでは不十分です。SDGs達成に向けてまだ十分成果がでていない、残された課題を特定し、リストアップすることも必要です。また、日本政府の政策の中に、SDGsにむしろ逆行するもの(石炭火力発電の推進等)が依然残されていることを認識し、これをリストアップし、見直す決意を明記すべきです。

以上