【プレスリリース】

石炭火力や原発を温存し、気候変動対策に逆行する
容量市場の抜本的見直しを

2020年9月16日
NPO法人気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵

 2020年9月14日、電力広域的運営推進機関が容量市場メインオークション約定結果を公表した。約定総容量は1億6,769万kW、約定価格は14,137 円/kW、経過措置を踏まえた約定総額は1兆5,987億円とされている。

容量市場は将来(4年後)の電源確保を目的に既存の設備に対してあらかじめ対価を支払うしくみとして創設された新たな市場である。今年7月に第一回目のオークションが実施され、約定価格などの動向が注目されたが、想定された指標価格(新規の電源投資を促すために必要なkW価値への支払額(NetCONE))の1.5倍で設定された上限価格とほぼ同額の14,137円/kWという極めて高額な価格で約定されたことを受け、以下に挙げるようなこの制度の問題が改めて浮き彫りになった。

1.設備費用が回収された古い石炭や原発に巨費が流れる
-従来から電源を持つ電力会社の二重取りー

この制度ではゼロ円で入札した電源にも一律の約定価格が支払われる。今回の公表では12,698万kWの“安定電源”がゼロ円で入札したことが報告されているが、旧一般電気事業者が独占時代に総括原価方式のもと電力消費者の負担で建設してきたこうした電源に対しても巨費が流れ、電力会社は二重取りすることになる。例えば100万kWの石炭火力は、設備容量80%を見込んで年間で113億円となり、2010年以前に建設された電源に対する1年目の経過措置(控除率42%)を踏まえても66億円が支払われる。なおこの経過措置の控除率は年々低くなるので、長く電源を維持するほど支払い額は年々増えていくことになる。

2.気候変動対策・脱石炭の流れに逆行する
-「非効率石炭火力のフェードアウト」にも矛盾-

今回の公表では、応札した石炭火力が4,126万kWにのぼることが明らかになった。設備利用率70~80%を前提とすると非効率石炭火力を含む大部分の既存石炭火力が対象になると見込まれる。パリ協定の「1.5 ℃目標」達成には、先進国は2030年までに石炭火力全廃が求められるが、完全に逆行する。また、経済産業省は今年7月、「非効率石炭火力のフェードアウト」の制度を具体化する議論をはじめたが、今回の容量市場の約定結果は非効率石炭火力をも維持する方向に機能することは明らかだ。

3.再エネの普及拡大を阻害する
-再エネ電気の購入者も原発・石炭維持の負担をさせられる不条理-   

約定結果における水力を除く再生可能エネルギーはわずか0.2%だった。すなわち容量市場とは、既存の火力・原発・水力に下駄を履かせ、今後の拡大普及を目指すべき太陽光や風力など再エネの普及を確実に妨げる制度である。それにも関わらず費用は全ての小売電気事業者、送配電事業者が支払うしくみとされている(容量拠出金)。その料金は電力料金に転嫁され、原発や石炭火力の電気を購入したくないと新電力に切り替えた消費者までもが、容量市場のもと原発や石炭火力の維持費を支払わなければならない。

4.再エネ新電力には極めて不利になる
-公正な電力取引・電力自由化からかけ離れた制度-

旧一般電気事業者は小売部門が容量拠出金を負担したとしても、容量市場で応札した電源がありホールディングス内で支出は相殺される。一方、発電事業を持たない新電力にとっては卸電力市場で供給する電気を調達している。約定総額から概算するkWh当り負担額は約1.9円となるが、電力小売り事業者にとってこの上乗せは過剰な負担となり競争上もあまりにも不公正だ。新電力の生き残りは壊滅的な状況になると予想され、特に再エネ新電力への影響は、今後の再エネ普及の妨げになる。

5.開示情報が極めて限定的で不透明
-電源別・電力会社ごとの応札情報は不開示-

このような様々な不条理や不公正がある制度であるにも関わらず、具体的な情報が極めて不透明で、どの電源が応札したのか、電力会社ごとに受け取る費用などはすべて非公開である。電力のように公共性が高く、消費者や将来世代の利益も侵害されかねない問題だからこそ、全ての情報がオープンにされるべきだ。

以上のように、これだけの問題をはらむ容量市場は白紙撤回し、原発や石炭から脱却し再エネへのシフトを目指し、電力市場を含むエネルギーシステムについて国民的議論を通じ抜本的に見直すべきである

参考)OCCTO「容量市場メインオークション約定結果(対象実需給年度:2024年度)の公表について」

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