<提言ペーパー>

2020年12月14日

1.5℃目標に向け、2030年までに温室効果ガス50%削減以上の実現を
エネルギー基本計画改定にあたっての提言

特定非営利活動法人気候ネットワーク

現在、科学者の予測をはるかに上回る勢いで氷河や海氷の融解が進行し、また熱波や山林火災が世界各地で発生するなど、気候危機が人類にとって一刻の猶予もない課題になっている。このまま世界的に温室効果ガスの排出が続けば、地球の平均気温は3℃~4℃上昇し、人類の生存が脅かされる危機的な状況となる。その危機を回避するために気温上昇を産業革命前から2℃を十分下回り、1.5℃に抑制することに努力するとしたのがパリ協定である。
地球の平均気温の上昇は累積排出量に比例する。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によれば、世界全体の二酸化炭素(CO2)排出量を2010年比で2030年に45%削減、2050年にゼロにすれば66%の確率で1.5℃の上昇にとどめられる。すなわち、1.5℃の上昇に抑えるためには、2050年時点に排出を実質ゼロにするだけでなく、2050年までの排出経路をほぼ直線的にゼロに向かわせることが求められる。
パリ協定の実施初年となった2020年は世界がコロナ禍に見舞われたが、主要国を含む多くの国では、コロナ禍からの教訓を踏まえ、社会と経済の回復の中核に気候変動への挑戦を位置づけ、2030年目標を引き上げ、2050年までに排出実質ゼロへの道を確かなものとしようとしている1
このような中、2020年10月26日、菅義偉首相は、「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すこと」を宣言した。また、グリーン産業を育成し、産業構造の転換を図っていくこと、そして、石炭火力に対する政策を抜本的に転換する方針も併せて示した2 。しかし、国内の政策議論は、抜本的な改革を行うものとはなっていない。それどころか、足元では次々に新しい石炭火力発電所の建設が進み、2050年排出実質ゼロへの覚悟が窺われない。
菅首相も強調しているとおり、1.5℃目標と2050年排出実質ゼロは気候危機への不可欠の対応であるとともに、脱炭素経済への転換の機会でもある。日本は、経済政策の視点からも、石炭火力に対する政策だけでなく、これまでのエネルギー政策全体を抜本的に見直さなければならない。気候政策の根幹であるエネルギー政策は、気候政策の基本方針と一貫性を持ち、パリ協定のもと、1.5℃目標と整合するものでなければならない。この視点から、改めて、以下に提言する。

1.1.5℃目標と2050年排出ゼロの実現のための基本アプローチ

(1) 意欲的な削減目標の法定化によるビジョンと責任の明確化
温室効果ガス排出削減目標は、現在の仕組みでは、地球温暖化対策推進法に基づく地球温暖化対策計画とエネルギー政策基本法に基づくエネルギー基本計画それぞれに、2030年及び2050年の目標が記載されている。このうち2030年26%削減目標(2013年比)は、2015年に決定されたエネルギーミックスとそれを前提にした2018年のエネルギー基本計画に依拠して設定されたもので、非常に低い水準にとどまる。
世界5番目の排出国である日本が気候危機を回避する1.5℃目標のための応分の貢献をしていくことは、国際社会における責務であり、持続可能な経済の発展の基盤である。政府が定めた2050年排出実質ゼロ目標は、気候変動対策の基本となる法律で法定化して明確に位置付け、さらに、2050年排出実質ゼロまでの温室効果ガスの排出量を科学的知見に基づくカーボンバジェット(炭素予算)内に収めるために、5年毎の削減目標を定めるプロセスについても法に位置づけ、2030年目標は「少なくとも50%以上削減(1990年比)」とし、行動を先送りすることなく着実に実行することを担保する必要がある。
エネルギー基本計画の改定にあたっては、2050年排出実質ゼロと2030年50%以上削減目標と整合する計画として改定する必要がある。

(2) 脱炭素経済構築の基本政策としてのカーボンプライシングの導入
炭素に価格付けするカーボンプライシングの手法は、各主体のCO2排出に対して負担を求める汚染者負担の原則に立ったものであり、当該主体が、費用効果的な対策を講じることができる経済的な手法である。カーボンプライシングにより、各主体の省エネの促進や再生可能エネルギーへの転換による脱化石燃料が推し進められ、技術革新や各方面のシステム転換が図られることから、国連やOECDなどの国際機関が不可欠な手段であると提言している。経済の脱炭素化のためにカーボンプライシングの導入は不可欠である。
欧州、米国の一部、中国・韓国を始め多数の国や自治体では、炭素税や排出量取引制度などのCO2への価格付けにより排出を抑制する政策によってCO2削減を進めてきた。日本では、2012 年の税制改正で導入された地球温暖化対策税は、全化石燃料に対してわずか289 円/CO2トンの上乗せにすぎず、税率が非常に低く削減効果が期待できる水準ではない。世界銀行の支援によって作成された「炭素価格に関するハイレベル委員会報告書」3 によれば、パリ協定の目標に整合する炭素価格は、2030年に50-100USドル/CO2トンとされる。
これを踏まえ、日本でも2030年に10000円/ CO2トン相当の水準となるよう、現在から段階的に税率を上げていく炭素税の仕組みを導入する必要がある。なお制度構築においては、低所得者層には社会保障で還元するなど税制中立の考え方も取り入れた抜本的な税制改正が必要である。

(3) 新しい経済社会への大胆な移行 ―持続可能な産業への構造転換と労働の公正な移行
2050年排出実質ゼロの実現は、産業革命以来の化石燃料依存の経済社会から、脱炭素の新しいよりよき経済社会への転換を推し進める大胆な改革の実践である。その実践は、今日限界に達してきている資源浪費型の経済システムや、都市のあり方、人々の暮らし方などに変革をもたらし、結果として、必要なサービスを満たす産業の構造は大きく変革し、再生可能エネルギー100%の電力システムや、公共交通機関が発達した脱炭素の交通システムが構築され、より豊かな持続可能社会を実現することができる。国はこの大胆な経済社会の移行のための包括的なプログラムを遂行することを国家政策の軸にし、十分な予算措置を講じる必要がある。
排出実質ゼロの実現には、最も排出量が多い電力部門はもとより、エネルギー多消費産業を含む産業部門、運輸部門や民生部門などすべての排出源での削減を進め、エネルギー消費の少ない、地域分散型で、社会に新たな価値をもたらすサービス・製品への転換が必要である。また、あらゆる分野の矛盾する政策をチェックし、整合性を図る必要がある。
また、移行においては、エネルギー多消費の産業を中心に、公正に脱炭素型の仕事への移行が行われるために、新しい雇用機会を創出していく必要がある。また、労働者や社会的弱者、地域社会が置き去りにされることのないよう、脱炭素型の産業育成や技術支援、教育訓練、移行に伴う補償など、国が計画的に支援策を講じる必要がある。

2.エネルギー基本計画における発電部門の脱炭素化

(1)  2030年エネルギーミックスで脱石炭・脱原発の実現
発電部門はエネルギー起源CO2の排出の約40%を占める最大の排出源であり、発電部門の脱炭素化は最も重要な温暖化対策の一つである。
現行の第5次エネルギー基本計画(現行計画という)は、経済性、環境性、安定性、安全性を同時に達成する「3E+S」の名の下に、原子力や石炭をベースロード電源と位置付け、2030 年に原子力 22~20%、石炭 26%、天然ガス27%、再生可能エネルギー22~24%とする電源構成(エネルギーミックス)を目指すとするものである。見直しに際しては、2050年実質排出ゼロの道筋を着実にするために、2030年エネルギーミックスを抜本的に見直すことが不可欠である。再生可能エネルギー100%を最終目標に、2030年時点のエネルギーミックスは、脱原発・脱石炭を達成した上で、再生可能エネルギー50%以上、天然ガス50%以下とすべきである。
また、現行計画では、2030年の電力需要を9808億kWh程度と見積もっているが、東日本大震災以降減少傾向が続いており、2013年度の実績(9666億kWh)は既にそれを下回っている。既存の工場・事業所・住宅・建築物のストックの省エネ対策は不十分なままであり、すでにある高効率技術の幅広い普及・導入による省エネのポテンシャルは十分にあることから、2010年水準から2割程度の電力需要の低減は見込むことができる。

(2) 原子力依存からの脱却
稼動時にCO2を排出しないことをもって原発を気候変動対策として位置付けるべきではない。2021年は東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故からちょうど10年目となるが、原発の安全性は確認されているとはいえず、全国的に原発立地地域で事故発生時の避難計画などが十分に用意され周知されている原発は 1 基もない。原子力発電から排出される放射性廃棄物の最終処分方法はもとより、中間貯蔵場所すら未だに定まっていない。福島第一原発事故のような過酷事故が再度国内で起きれば、日本は再生不能なダメージを受けることになる。
また、2011年の福島第一原発事故の費用は、当初政府が示したものよりも大きく膨らみ、40年間で35兆円~80兆円にのぼると試算される4など青天井の状況である。これらの過酷事故対策、地震・火山噴火のリスク、テロ対策などのコストが増加する一方で、再生可能エネルギーのコストは急速に低減し、今後も低減が見込まれている。原発は火力や再生可能エネルギーに比して低廉な電源とは言えない。
現在の原発運転状況は、九州電力玄海3・4号機と川内1号機の3基にとどまるが、九州では、これらの原発稼働が優先され、再生可能エネルギー発電事業者に出力制御が要請され、再生可能エネルギーの優先接続を妨げる事態が起きている。原子力に依存した政策は再生可能エネルギー拡大への政策転換を妨げ、化石燃料の延命にもつながる。第6次エネルギー基本計画では、脱原発方針を明確に定めるべきである。

(3) 火力発電からの脱却
① 石炭火力は2030年までに全廃5
石炭火力は、火力発電の中でも最もCO2排出が大きく、高効率であっても LNG火力の約 2 倍を排出する。そのため、パリ協定1.5℃目標の達成には、先進国は2030年までに石炭火力の全廃が求められており、欧米諸国では2030 年までの石炭全廃に向けた動きが広がっている。世界では石炭関連産業への投融資を引き上げるダイベストメントの動きも加速しており、座礁資産のリスクが非常に大きい発電設備となっている。
現行エネルギーミックスでは、2030年に石炭火力は26%を占め、CO2排出量を3億2000万トンとするにとどまっているが、第6次エネルギー基本計画では、パリ協定下の脱石炭の要請に伴い、建設中も含め新規計画を全て中止するとともに、「非効率石炭火力」にとどまらず、運転中の高効率石炭火力も含め、2030年までに「フェーズアウト(段階的廃止)」することが不可欠である。
省エネ法では、火力発電に対し発電効率指標が定められ、副生ガスやバイオマス等を混焼することで高効率とみなして推奨しているが、これらの措置は廃止すべきである。

② LNGガス火力発電所の新設中止
天然ガスは、火力発電の中ではCO2排出が比較的少なく、原発や石炭に比べて発電時の柔軟性があり、再生可能エネルギーとの親和性の高い電源でもある。再生可能エネルギー100%の社会をめざし、脱石炭を進めるなかで当面の間は利用を継続する必要がある。
一方、天然ガスも化石燃料であり、脱炭素社会に向けてやはりゼロにしなければならない。今日、8000万kWのLNGガス火力が運転しており、設備利用率は年々低下している一方、さらに多数の新規建設計画が進行中である。長期間CO2を排出する観点から、これらの新規計画は中止を決定するべきである。

③ 非現実的な技術のイノベーションに依存した「火力の脱炭素化」の見直し
政府は、脱炭素社会の実現に「イノベーション」に過大な期待を寄せ、経団連も2050年ゼロへの柱に、二酸化炭素回収固定利用技術(CCUS)、水素/アンモニアなどの革新的技術のイノベーションによる「火力の脱炭素化」を掲げている。しかし、まだ何も実用化していない技術に頼り、化石燃料の火力発電所の延命の理由にすべきではない。脱炭素の技術研究支援基金が予定されているが、これらの技術は経済合理性を著しく欠く。漫然と過大な資金を投じるのではなく、緊急に必要な再生可能エネルギー拡大への必要な投資を拡大させるべきである。
・CCUS6
CO2を回収、固定化、利用するCCUS技術は、その有効性、経済性、環境影響への懸念や技術的リスクなど、複数の問題を抱える不確実な技術である、実用化のめどは全くたっておらず、排出半減以上が求められる2030年までの削減には全く寄与しない。また実用化できたとしても、そのコストは膨大なものとなる。気候変動に対する政策の重点をCCUSに置き、依存することは不適切であり、このまま投資を継続することは化石燃料関連事業者への補助金を注ぎ込むばかりで、化石燃料依存の延命策に他ならないだけでなく、本来必要な脱石炭等の対策をいたずらに遅らせ、パリ協定の達成を一層困難にする。

・水素/アンモニア
産業や運輸部門などで水素を活用する社会は将来的には必要だが、石炭や天然ガスなどの化石燃料を電気分解してつくる水素は、CO2排出を伴うものであり、脱炭素技術とは言えない。天然ガスから作るアンモニアも同様である。CCUSの利用を前提にしたとしても、前述の通り技術的にも課題が多く、経済性を欠く。水素社会の構築は、再生可能エネルギーからの余剰電力で水を分解して製造する水素に限定して開発を進めるべきである。

(4) 再生可能エネルギーの加速度的導入とその実現に向けた環境整備① 2050年までに再生可能エネルギー100%の社会を実現
2030年のエネルギーミックスにおける再生可能エネルギーの割合は 22~24%と非常に低い。また、その内訳は、既存の大規模ダムが中心の水力発電が 8.8~9.2%と最も高く、地熱 1~1.1%、バイオマス 2.7~4.6%、風力 1.7%程度、太陽光 7%程度とされる。
日本では、2012 年に再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)が導入され、太陽光発電の導入などが進んだが、その後の系統接続の拒否や出力抑制などの阻害要因や、 FITから市場価格に割増金を上乗せするFIP(フィード・イン・プレミアム)に見直されたことなどを契機に導入が失速している。
日本を含め、世界、国レベルで再生可能エネルギー100%を達成することが可能であることを示す研究成果が次々と発表されており、日本の太陽光及び風力など再生可能エネルギーの賦存量は需要量をはるかに超える。再エネ100% に向けて、再生可能エネルギー電力は2030年までに50%以上とする目標を掲げ、系統連系増強や柔軟な系統利活用や需要側管理などの再生可能エネルギーの加速度的導入のための事業環境の整備が急務である。
バイオマス火力については、海外から燃料を調達する規模の大きなバイオマス火力や石炭混焼などが近年増加しているが、輸入バイオマスの中には、森林伐採等によって化石燃料以上にCO2排出が大きくなる場合も少なくなく、バイオマスはCO2の排出が化石燃料以上に大きいことがあり、これらを再生可能エネルギーと位置付けるべきではない。

② 再エネ最大導入のための電力系統の運用ルールの改訂
現行計画では再生可能エネルギーについて「最大限導入」することが記載されているものの、再エネの系統への優先接続が確保されていない。電力系統への接続ルールを国際標準のメリット・オーダーへ転換することは経済合理性に基づくものであり、再生可能エネルギーの系統接続に資するもので、速やかに導入すべきである。その際には、石炭火力は抑制するべきである。

③ 電力市場の抜本見直し
現行計画や2030年のエネルギーミックスの達成を目的として、容量市場、非化石価値取引市場、ベースロード電源市場など、原子力や石炭を温存する電力の新市場がつくられている。また、原発の損害賠償費用などを送配電料金に上乗せできるようにするなど、自由化と相反する原発優遇策も導入されている。これらはいずれもエネルギー転換の方向性に整合しない。
容量市場については、2024年で1億5,761 万kW もの過大な電力需要を想定したうえで、1億7,948 万kWもの電源を確保するため、2020年にオークションを実施し、経過措置を踏まえた約定総額が1兆5,987億円にものぼった。これらの大半が石炭火力などの事実上の補助金となり、非効率石炭の廃止を阻害するもので、廃止すべきである。
非化石価値取引市場は、小売電力事業者に非化石電源を44%にすることを義務付けたエネルギー供給構造高度化法を背景に、再生可能エネルギーだけではなく、原発の電気にも価値をつけるものである。原発の電気に環境価値をつけることはエネルギーシフトを阻害するものであり、再生可能エネルギーの価値と同等に位置付けるべきものではない。
ベースロード電源市場は、そもそも「ベースロード電源」という考え方が旧来の電力システムを前提としたものであり、廃止すべきものである。ベースロード電源市場などを新たにつくらずとも、かつて国が開発してきた電源開発などが持つ電力(主に水力発電)は卸電力市場に開放すべきである。

3.発電以外の部門の脱炭素化の促進

再エネ100%に向けて再生可能エネルギー電力を拡大していくことよって、その余剰電力を、電気自動車で蓄電した利用や、製鉄工程で利用される水素の製造など、産業部門や運輸部門・民生部門など発電部門以外での用途にも利用することができ、排出削減が可能となる。こうしたプロセスにおいて、あらゆる部門で脱炭素時代の社会的需要に応える製品・サービスの創出が求められている。以下に、主に2030年を念頭に、主要な取組をあげる。

(1) 産業部門での対策
これまでは従来型業態を前提に、自主行動計画のもと業界団体の自主目標の設定と、省エネ法に基づくベンチマーク達成が目指されてきたが、温室効果ガスの排出ゼロに向けた総量削減の目標設定とその達成に向けた省エネ法の枠を超えた取組みを促すため、炭素税や排出量取引制度などのカーボンプライシングを伴う制度改正を行う必要がある。
石炭をはじめとする化石燃料を大量に使用してきた鉄鋼、化学、製紙、セメントなどのエネルギー多消費型産業においては、脱炭素化を強力に推し進めるのと同時に7 、産業構造と事業の転換を促す必要がある。

(2) 運輸部門での脱ガソリン、都市構造の低炭素化
世界の電気自動車(EV)市場は急速に拡大しており、自動車など運輸産業の国際競争が始まっている。すでに欧州を始め多くの国で2030年代にはハイブリッド車を含むガソリン車を禁止する方針が打ち出されている。日本では、乗用車については、軽量化・小型化とあわせ、2030年までにハイブリット車を含むガソリン車の生産・新車販売は禁止し、電気自動車への転換とインフラ整備を促進すべきである。
また、運輸部門全体からのCO2排出を2050年にゼロにすることに向け、航空機や長距離輸送機関への水素利用などの技術開発も求められる。さらに、旅客や物流の移動サービスのエネルギー消費低減と脱炭素化の要請に応え、公共交通機関の充実を図り、まちづくりのあり方、人と自転車、車の分担など、都市の脱炭素化とあわせて計画的に取り組む必要がある。

(3) 民生家庭・業務部門での脱炭素化
民生家庭・業務部門に関しては、2030年目標の2013年比26%削減の内訳として、2013年比約60%削減を念頭にしており、政府目標がすでに非常に高く設定されている8 。これらの高い政府目標は維持しながら、新築の住宅や建築物のゼロエミッション化、既築の断熱強化など省エネ・エネルギー効率向上対策を強化し、機器の省エネ対策、エネルギー管理の徹底する政策を、低所得者層への支援も含めて実施する必要がある。

4.市民参加と情報開示

(1) 市民参加
現在のエネルギー基本計画の審議は、委員の殆どが既得権を持つ業界団体やその関係団体とこれまでの政策に親和的な意見を表明している専門家らによって構成される審議会と政府内調整に閉ざされている。そこでの現行政策の抜本的見直しを期待することは困難といわざるを得ない。また、意見箱が設けられていても、そこへの意見やパブリックコメントの意見が反映されることはなく、形骸化したプロセスとなっている。
気候変動問題はすべての人々に関わる問題であり、エネルギー政策の性質上、政策の影響が長期に及ぶことから、エネルギー需給のあり方は、現在及び将来世代に大きな影響を与えることになる。今、その抜本的見直しが求められている。脱炭素社会の実現に向けて、現行計画の改定や政策の制度設計の審議には、既存政策に縛られない専門家や市民社会をはじめとする様々なセクターが広く参加したプロセスが不可欠である。気候変動の影響を受ける地域コミュニティやNGO、そして若者世代の意見が十分に反映されるよう、参加型のプロセスがとられるべきである。

(2) 情報開示
エネルギー政策を検討するにあたって、実態を把握する上で、エネルギーに関する情報の開示は必要不可欠であるが、今日、発電に関わる各種情報 を始め、企業のエネルギーをめぐる情報の大半が開示されていない。また、市民が現行政策及び審議対象政策の内容とその客観的に評価し、代替提案を行い、市民参加を進めるために、必要なデータや対策の内容、実施状況にかかる情報等が適時・適切に開示されることが不可欠である。

1.イギリスは2030年目標を1990年比68%削減に引き上げを決定し、欧州連合(EU)も2030年までに1990年比55%削減に引き上げることを決定した。米国もバイデン次期大統領は、主要国の目標引き上げでリードすることを公約し、グリーン・リカバリーに動き出している。

2.2020年10月26日の臨時国会所信表明演説にて

3.Carbon Pricing Leadership Coalition, “Report of the High-level Commission on Carbon Prices”, 2017

4.日本経済研究センター「事故処理費用、40年間に35兆~80兆円に」https://www.jcer.or.jp/policy-proposals/2019037.html

5.気候ネットワーク「2020年改訂版 石炭火力2030フェーズアウトの道筋」2020

6.気候ネットワーク「CO2回収・利用・貯留(CCUS)への期待は危うい」2019

7.例えば最大の排出源の一つである高炉製鉄において、電炉製鉄を拡大するとともに、水素還元製鉄技術の実用化を前倒しで実現することなど。

8.閣議決定「地球温暖化対策計画」2016.

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1.5℃目標に向け、2030年までに温室効果ガス50%削減以上の実現を

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