<プレスリリース>

政府の「非効率石炭火力のフェードアウト」に向けた措置では不十分
石炭火力は2030年までに既存も含めて全廃を

2021年4月14日
特定非営利活動法人気候ネットワーク
代表 浅岡 美恵

 

 4月9日、総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会省エネルギー・新エネルギー分科会省エネルギー小委員会合同石炭火力検討ワーキンググループにおいて中間とりまとめ案が提示された。

 この審議会は、2020年7月、梶山経済産業大臣が「2030年に向けて非効率石炭のフェードアウトを確かなものにする新たな規制的措置」や「安定供給に必要となる供給力を確保しつつ、非効率石炭の早期退出を誘導するための仕組みの創設」等の具体策の検討を指示したことにより進められてきたものである。そして、今回の中間とりまとめでは、①石炭単独のベンチマーク指標を新設、②発電効率目標43%に引き上げ、③アンモニア混焼・水素混焼への配慮措置を新設という主に3つの方針が示された。

 しかし、この方針は、気候危機を回避するために現在求められる科学の要請からはあまりにかけ離れた内容であり、世界の脱石炭の流れに全く沿うものではない。とりまとめにおける特に主要な問題点を以下に指摘する。

1.現行の2030年エネルギーミックスの石炭26%に合わせたにすぎない

 現行の2030年目標が2013年比26%であることが極めて低いことから、野心的な削減目標へと見直すことが喫緊の課題となっている。またそれにあわせて、2030年電源構成も大幅な見直しが求められる。1.5℃目標に照らせば、2030年に60%程度の削減が求められるところであり[i]、国連のグテーレス事務総長も石炭火力を2030年までに廃止することをG7各国に対し要請している。

 それにも関わらず、今回のとりまとめはこうした気候変動対策として求められる要請を全く無視し、2030年に石炭を26%とする現行のエネルギーミックスに合わせたものにすぎず、その内容は現在国際社会で求められている水準から考えれば論外である。

2.発電効率基準43%では、温室効果ガス削減に寄与しない

 今回の措置は、事業者にフェードアウト計画を提出させること、事業者全体の石炭火力発電効率基準を43%と設定することなどが含まれる。しかし、そもそも発電効率による省エネ法ベンチマーク制度の枠組みは温室効果ガス削減を目的にしておらず、発電効率を高めたところで、温室効果ガスの削減は担保されない。

3.バイオマス混焼によって発電効率基準を達成する抜け道がある

 発電効率基準を設けたところで、その抜け道としてバイオマス混焼により見かけ上発電効率を高く見せることができることが、これまでの省エネ法の延長で認められた「発電効率実績が41%の場合、バイオマス用ミルの設置が不要となる5%程度の混焼で43%の水準を達成することが可能」だとしており、結局、石炭を大量に燃やすことにはかわらず、温室効果ガス削減には寄与しない。またバイオマスについては、海外使用のエネルギーのライフサイクルCO2を対象外にし、国内の加工・輸送のエネルギーを考慮しないとし、持続可能性がなく、CO2排出削減に寄与しない輸入バイオマス利用が激増する恐れもある。

4.製造時のCO2排出を問わない水素・アンモニア混焼を推進し、むしろ排出増加の懸念もある

 バイオマス混焼に加えて、今後の技術開発を見越して水素・アンモニア混焼も見かけ上効率を高く見せる算定方法が導入される方針が示されている。しかし、水素やアンモニアの製造時において、原料として石炭・石油・天然ガスなど化石燃料が使われるものもあり、製造プロセスや輸送などで大量のCO2を排出する可能性がある。しかし、「技術普及の観点からアンモニアや水素がカーボンフリー(ブルー又はグリーン)かどうかについては問わない」としており、CO2削減どころか、CO2排出が増加する可能性すらある。このような方針を認めることは気候変動対策として本末転倒である。

以上

参考資料

[i]1.5°C-consistentbenchmarksforenhancingJapan’s2030climatetarget(Climate Action Tracker2021年3月4日)

https://climateactiontracker.org/publications/1o5C-consistent-benchmarks-for-enhancing-Japans-2030-climate-target/

【プレスリリース】提言レポート「2050年ネットゼロへの道すじ」発表(気候ネットワーク2021年3月19日)

https://www.kikonet.org/press-release/2021-03-19/Path-to-NET-Zero-by-2050

第8回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会
省エネルギー・新エネルギー分科会 省エネルギー小委員会 合同 石炭火力検討ワーキンググループ(2021/04/09開催)

https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/sekitan_karyoku_wg/008.html

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政府の非効率石炭火力のフェーズアウトに向けた措置では不十分 石炭火力は2030年までに既存も含めて全廃を(2021/04/14)

 

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