「日本のNDC(国が決定する貢献)(案)」に対する意見

気候ネットワークでは、現在日本政府がパブリックコメント中の「日本のNDC(国が決定する貢献)(案)」について、次の通り意見を提出しました。

温室効果ガス排出削減目標の強化

意見の該当箇所:

1.(b)参照指標並びに参照年、基準年、参照期間又はその他の開始点 及び該当する場合は目標年における参照指標の該当数値に関する定量化可能な情報

1.(d)参照指標に関する目標で、例えば、削減割合や削減量のような、数量化されたもの

3.(a)目標の概要

意見の概要

2030年に向けた温室効果ガス排出削減目標は、2013年比の場合、少なくとも50%以上へと引き上げるべきである。

意見及び理由

2030年に向けた温室効果ガス排出削減目標は、2013年比の場合、少なくとも50%以上へと引き上げるべきである(気候ネットワークは60%以上削減を提言している)。また、UNFCCCが今年9月に発表した統合報告書では、既存の各国のNDCをもとにした推計では、2010年比で2030年の排出量は約16%増加するとされており、すべての国のNDCの引き上げ強化が求められている。日本もそこに貢献すべきである。

NDCの計画・実施プロセスにおける市民参加等の強化

意見の該当箇所

4.(a)締約国が国が決定する貢献を作成するために行った計画プロセスに関する情報、及び、利用可能な場合には締約国の実施計画に関する情報。該当する場合は以下を含む。

a (ii) b 国が決定する貢献の作成に関するベストプラクティス及び経験

意見の概要

今後のNDCの計画・実施プロセスにおいて市民参画等を強化するとの情報を追加で盛り込むべきである。

意見及び理由

これまでの計画プロセスについて、審議会での議論が国民に公開されたことや将来世代のヒアリングを行ったことは評価できる。しかし、審議会(特にエネルギー基本計画を議論した基本政策分科会)においては、化石燃料多消費産業の強い利害関係を持つ者が委員として参加を許されている一方、逆に気候危機に懸念を持ち活動を行ってきた市民社会(気候変動NGO等)の代表は排除されている。また、審議会でまとめられた案については、討論型世論調査やオンラインでの意見交換イベント(公聴会)などといった手法を用いて国民的議論が行われるべきだったが、そのようなプロセスは持たれなかった。十分に民主的プロセスに基づいてまとめられたNDC案とはいえない。

日本のNDC案には今後のNDCの計画プロセスについて一切言及がない。今後の計画プロセスの方向性についても追記すべきである。例えば、英国が提出したNDCなどでは、COP26以降も英国政府として専門家やNGOや一般市民といった各界の参加を得て2050年ネットゼロをめざしていくと書かれている。日本のNDCにも、今後の検討プロセスにおいては市民参加を確保する旨を記載すべきである。パリ協定やCOP決定などでも触れられているように、市民参加は極めて重要だからである。

審議会とは別途、気候科学や気候正義の専門家による独立した委員会を設置し、日本のNDCの計画検討や実施状況について科学的・倫理的見地から評価と勧告を行う仕組みを導入すべきである。

JCM等のクレジット相当分の目標への上乗せ

意見の該当箇所

1ページ 表 温室効果ガス別その他の区分ごとの目標・目安

5.(g) 該当する場合、パリ協定第6条に基づく自発的な協力の使用の意向

意見の概要

二国間クレジット制度等を通じた途上国支援によるクレジットは、46%の目標達成に充当せず、目標に上乗せするものとするべきである。

意見及び理由

政府案では、二国間クレジット制度を通じて、2030年度までの累積で1億トンの削減・吸収を 図り、獲得したクレジットを国別約束(NDC)の目標達成に充てる方針である。削減分を途上国との間で按分するにせよ、国際的な排出削減・吸収量を国内目標の達成に加味すれば、その分だけ国内の排出削減が弱められることになる。現状では国内削減は、吸収源を含んで46%削減までしか積み上げられておらず、政策措置を欠いており、その目標もクレジットで補填されることになりかねない。二国間クレジット制度等を通じた途上国支援によるクレジットは、46%の目標達成に充当せず、目標に上乗せするものとするべきである。

パリ協定6条における環境十全性と二重計上の防止の確保

意見の該当箇所

5.(g) 該当する場合、パリ協定第6条に基づく自発的な協力の使用の意向

意見

環境十全性の確保と二重計上の防止は極めて重要である。これを確保するための方法論は透明性をもって公開され、第三者委員会によって検証されるべきである。例えば、JICAには、環境社会配慮ガイドラインで環境社会配慮助言委員会のプロセスがあり、事業によって生じうる環境社会影響の懸念について助言する制度がある。

日本として1.5℃目標をめざす意思と政策措置

意見の該当箇所

6.(a) 締約国が、自国の国家の状況に照らし、国が決定する貢献がど のように公正かつ野心的であると考えるか。

意見及び理由

2050年カーボンニュートラルを目指すことは掲げられているが、パリ協定の1.5℃未満をめざすことは書かれていない。2050年カーボンニュートラルの目標とあわせ、気温上昇を1.5℃未満に抑制することを目標として明記すべきである。また、目標の達成はほぼ、事業者の自主的取組みに委ねられており、削減を担保する政策措置を欠いており、野心的とはいえない。

1.5℃目標と科学的知見に基づいた公平性の説明

意見の該当箇所

6.(b) 公平性の検討(衡平性の反映を含む。)

意見の概要

1.5℃目標と科学的知見に照らして、日本のNDCの目標水準が、なぜ公平と言えるのかを説明すべきである。

意見及び理由

NDC案では、日本が具体的な情報を提出することでセクターごとの取り組みが促され、世界全体で公平で効率的な排出削減につながると記載されている。しかし、詳細な情報を提出して透明性を確保するのは当然のことであって、この項目で問われているのは、パリ協定1.5℃目標の実現をめざしたときに求められる排出削減の各国間の分担について、日本のNDCの排出削減目標の水準がいかに十分なものなのかを、科学的知見に基づいて説明することである。

その国の責任と能力に応じた排出削減目標が問われているのであって、先進国の一員である日本は、少なくとも、2010年比45%を超える削減が求められていることはいまでもない。Climate Action Trackerなどは、公平な分担(Fair Share)の観点からは、日本の目標政策は不十分(insufficient)と評価されている。かかる評価を踏まえつつ、日本のNDCがどのように公平と言えるのか、科学的知見に基づく説明をすべきである。

気候変動枠組条約の目的の達成への貢献

意見の該当箇所

7.(a)国が決定する貢献が、条約第2条に定められた条約の目的の達 成にどのように寄与するか。

意見の概要

具体的にどのように寄与するか、真摯に回答すべきである。

意見及び理由

強化された NDCと2050年カーボンニュートラル実現に向けた取組は条約の目的に寄与するとだけ説明があるのみで、これらがどのように目的に寄与するかの説明がない。具体的な政策措置をもとに、具体的に説明すべきである。

パリ協定の目的達成への貢献

意見の該当箇所

7.(b)国が決定する貢献が、パリ協定第2条1(a)及び第4条1に対してどのように貢献するか。

意見の概要

科学的知見を伴う根拠を追記すべきである。

意見及び理由

NDCがパリ協定の1.5-2℃目標に整合的とあるが、その根拠は何ら、記載されていない。また、このNDCが2050年カーボンニュートラルとも整合的とするが、その根拠も記載されていない。日本の削減目標は2010年比45%削減にも届かない目標であり、Climate Action Trackerを初め、日本の目標・政策は、1.5℃目標に整合しないとの分析が示されており、1.5℃目標と整合的とする理由を、科学的根拠をもって説明すべきである。

以上