「地球温暖化対策計画(案)」に対する意見

2021年10月4日

気候ネットワークでは、現在日本政府がパブリックコメント中の「地球温暖化対策計画(案)」について、次の通り意見を提出しました。

 

1.5℃目標の位置付け

意見の該当箇所:11ページ

意見の概要:日本が目指す方向性として1.5℃目標を明確に位置付けるべきである。

意見及び理由:計画案では、パリ協定の目標や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の1.5℃レポートに触れ、産業革命前からの地球平均気温上昇を1.5℃未満に抑える努力が世界的に急務であるとしているが、日本が1.5℃を目指すとは明確に書き込まれていない。すでに決定された2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)は、1.5℃未満に抑制することを実現するための目標に他ならず、日本の目標として1.5℃目標を明確に示し、それと整合的な対策・政策を導入・実施する計画とすべきである。

2030年度温室効果ガス排出を50%以上削減

意見の該当箇所:16ページ

意見の概要:2030年度、温室効果ガス排出を少なくとも50%以上削減の実現を可能とする計画とするべきである。

意見及び理由:計画案では、2030年の温室効果ガス排出削減目標として、「2013年度比で46%削減を目指し、50%の高みに向けて挑戦する」と掲げている。この目標自体が1.5℃目標の達成に不十分であるうえ、大量の海外からのクレジットや吸収源利用も見込んだものである。なかでも排出の85%を占めるエネルギー起源CO2は、2013年度比45%削減では全く不十分であり、50%以上(気候ネットワークの提案は60%以上)に引き上げるべきである。

2030年度までに石炭火力・原子力発電全廃、電力の脱炭素化・再エネ転換

意見の該当箇所:53ページ

意見の概要:エネルギー転換部門の対策を重点化し、2030年度までに石炭火力・原子力発電を全廃し、電力の脱炭素化・再エネへの転換を強力に進めるべきである。

意見及び理由:日本の最大の排出源は火力発電であり、発電部門の脱炭素化は2050年よりも前倒しで進めるべきである。計画案では、これまでと変わらず、産業界の自主的な取り組みと発電効率向上などで対応する方針しか定められていない。これでは1.5℃目標に必要な大胆なエネルギー転換を進めることができない。発電部門の対策は、エネルギー起源CO2排出削減対策の筆頭に位置付け、2030年までに脱石炭・脱原発を実現するとの明確な目標を定め、再生可能エネルギーへの大幅な転換を進めるための施策を講じることを基本方針とすべきである。

カーボンプライシングとしての炭素税の導入

意見の該当箇所:76ページ

意見の概要:市場に明確な脱炭素化へのシグナルを送るために、産業界の自主的な取り組み依存を改め、カーボン・プライシングとしての炭素税を強化するべきである。

意見及び理由:脱炭素化に向けては産業構造の大転換が求められるが、計画案では、温室効果ガスの排出削減対策・施策が、これまで通り産業界の自主的な取り組みに委ねられている。このことは大幅削減の実現を困難にする。着実な削減を担保する政策措置として、カーボン・プライシングとしての炭素税の導入を強化すべきである。税率は、2030年度に1万円/t-CO2となるよう段階的に引き上げる。現行の地球温暖化対策税ではCO2排出量の多い製鉄コークス等を免税の対象としているが、そのような抜け穴もなくすべきである。

公正な移行(ジャスト・トランジション)に対する支援

意見の該当箇所:12ページ他

意見の概要:特に排出の多い主体や化石燃料依存の高い地域への公正な移行の支援を進めるべきである。

意見及び理由:計画案では地域の取り組み等についても多く触れているが、経済や産業の脱炭素化に伴う公正な移行(ジャスト・トランジション)に対する支援の方針が欠如している。特に排出の多い主体や化石燃料依存の高い地域における産業転換、就労支援・職業訓練、新規産業育成等への支援を具体的に示し、これらを推進すべきである。

代替フロン等ガス削減のための政策措置の導入

意見の該当箇所:61ページ

意見の概要:代替フロン等ガスの削減のための強力な政策措置の導入をすべきである。

意見及び理由:代替フロン等4ガスのうち、2019年度実績が2013年度比55%増と大きく増えている冷媒用途のHFCsを、2030年度の目標では逆に55%削減することを含め、大幅な削減を見込んでいる。しかし、そのための具体的な政策措置に言及がない。大幅削減には、代替可能用途を即時禁止し、急増する冷媒分野の需要を速やかに自然冷媒に移行させる強力な措置が不可避である。フロン法改正を含む施策の強化を盛り込むべきである。

二国間クレジット制度相当分の目標への上乗せ

意見の該当箇所:71ページ

意見の概要:二国間クレジット制度を通じた削減分は、削減目標に上乗せするべきである。

意見及び理由:計画案では、二国間クレジット制度を通じて、2030年度までの累積で1億トンの削減・吸収を図り、獲得したクレジットを国別約束(NDC)の目標達成に充てる方針である。削減分を途上国との間で按分するにせよ、国際的な排出削減・吸収量を国内目標の達成に加味すれば、その分だけ国内の排出削減が弱められることになる。現状では国内削減は、次の「8.」の吸収源を含んで46%削減までしか積み上げられておらず、50%削減の高みへの挑戦はクレジットで充填されかねない。二国間クレジット制度等を通じた途上国支援は、目標達成に充当せず、目標に上乗せするものとするべきである。

森林管理等の温室効果ガス吸収源の利用

意見の該当箇所:64ページ

意見の概要:森林管理等の温室効果ガス吸収源の利用は、追加的な吸収分のみをカウントするべきである。

意見及び理由:計画案では、森林管理等による吸収源対策で4770万トン(2030年の排出見込みの6%相当)をカウントしている。そのほとんどは追加的な吸収ではなく、削減目標を弱める抜け穴となる。少なくとも人為的な活動を通じて追加的に増加した吸収分の算入に限るべきである。

国民の政策決定への参加機会を拡大

意見の該当箇所:27ページ他

意見の概要:気候変動・エネルギー政策の形成、目標設定や技術選択について参画することは国民の重要な役割である。政策決定への参加機会を拡大すべきである。

意見及び理由:計画案では、国民の役割は、自主的な対策を取ることに矮小化されている。社会経済システムの転換を図る上での政策形成や技術選択に主体的に参加する役割の重要性を明記し、その機会を確保すべきである。

地方公共団体による2050年ネットゼロ目標および短期中期の削減目標

意見の該当箇所:25ページ

意見の概要:地方公共団体には、2050年ネットゼロ目標および短期中期の削減目標を定め、具体的な対策施策を主体的に策定する地方自治を行うよう求めるべきである。

意見及び理由:再生可能エネルギー導入、交通・運輸対策、住宅建築物対策における地方自治体の役割は大きい。1.5℃目標に整合する2050年ネットゼロ目標及び短期・中期の排出削減目標を定めること、その実現のための具体的な施策を導入し、実施すること、地域の産業や資源特性を踏まえた労働の公正な移行を主体的に進めることを自治体の役割として定め、その実施を求めるべきである。

 

参考ページ