本日1月12日、気候ネットワークが参加するeシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)では、プレスリリース「容量市場メインオークション約定結果の公表にあたって 石炭火力・原発の温存に巨費が流れるしくみの撤廃を」を発表いたしました。

【プレスリリース】

容量市場メインオークション約定結果の公表にあたって
石炭火力・原発の温存に巨費が流れるしくみの撤廃を

2022年1月12日
eシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)

 

 2021年12月22日、電力広域的運営推進機関が容量市場メインオークション約定結果を公表した。約定総容量は1億6,534万kW、 約定価格は、北海道と九州エリアで5,242 円/kW、北海道・九州エリア以外で3,495 円/kWとなり、経過措置を踏まえた約定総額は5,140億円と前回の3分の1程度となった(前回の約定総容量は1億6,769万kW、約定価格は14,137 円/kW、経過措置を踏まえた約定総額は1兆5,987億円)。

 容量市場は4年後の電源確保を目的に既存の設備に対してあらかじめ対価を支払うしくみとして創設され、昨年から入札がはじまった。しかし、2020年の約定価格は、上限額に張り付く異常な高値となったことが問題視されたほか、既存の石炭火力や原発もその対象となり、これら設備維持のための実質的な補助金の役割を果たす制度であり、再生可能エネルギーの普及拡大の観点やCO2排出を大幅に減らすべき気候変動・エネルギー政策の方向性とも整合しないとして、廃止や見直しを求める声が高まっていた。また政府内においても、内閣官房に設置された「再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース」において容量市場の見直しの必要性が指摘されたが、経済産業省の「総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会」では、審議は行ったものの制度そのものや構造を見直すことなく微修正にとどまり、今回の二回目のオークションが実施された。

 

1.石炭火力発電や原子力発電を消費者が支えるしくみの問題

 応札電源は、 石炭等は 4,098万kW (23.9%)、原子力は 856万kW(5.0%)と全体の3割弱を占めた。仮に5,140億円を1億6,534万kWで割った単価3,108円/kWで計算しても、石炭火力には約1273億円、原子力には約266億円が供与される。減額措置があったとしても非常に大きな金額であり、問題である。容量市場のしくみ上、この費用は小売電気事業者が支払うことになり、再生可能エネルギー電源を選んでいる消費者も、この費用の負担者にならなければならないことは大きな問題である。

2.非効率石炭火力も968万kWが対象となった問題

 今回の公表では、応札した石炭火力 4,098万kW のうち968万kWと、約4分の1にあたる設備容量が非効率石炭火力であることが明らかにされた。そもそも石炭火力が対象となっていることはパリ協定の「1.5°C目標」と整合しないが、非効率石炭火力もそこに含まれていることは、政府の「非効率石炭火力のフェードアウト」の方針とも完全に矛盾する。たとえ減額措置がされたとしても、非効率石炭火力を維持するインセンティブとなっており問題である。

3.開示情報が極めて限定的で不透明である問題

 具体的な情報は極めて不透明である。今回、事業者名と電源規模については開示されたものの、対象事業所・電源種別の応札・落札状況は明らかにされていない。電力のように公共性が高く、消費者や将来世代の利益も侵害されかねない問題だからこそ、全ての情報がオープンにされるべきだ。

4.再エネ新電力と大手電力との負担格差の問題

 今回、約定価格自体は下がったものの、依然大規模な金額を小売電気事業者が負担することには変わりない。またその負担は、大規模電源を自社で持つ大手電力よりも、大規模電源を自社では持たない再エネ新電力のほうが大きい。事実上、主に再エネ新電力とその顧客が、大手電力の石炭火力や原発を支えるという構造である。電力自由化の趣旨にも反し、消費者の選択やエネルギーシフトを妨げる不公平で不条理な状況である。実際に2024年度に発生する支払負担も、新電力の経営を大きく圧迫する。

5.当初の制度意図の新規電源への投資促進にもならない

 容量市場では、発電設備側も毎年入札し、落札されなければ、その年の拠出金収入を失う。ある年は落札され、ある年は落札されないという制度では、発電設備の事業計画は立てられず、結局「古い発電所」を延命することとなっている。制度設計当初に意図されていた新設電源への投資促進にはつながっておらず、それには新たな制度が必要という議論が行われている。古い発電所が老朽化で動かなくなった時には、決定的に発電所不足という状態を生み出しかねない。当初の目的の大部分が失われた現在、容量市場自体の意義も含め、見直すべきである。

以上のように、今回のオークションの結果をふまえ、容量市場の実際の支払いが2024年度に始まる前に、全面的な見直しも辞さない大改革を行うべきであり、以下を提案する。

(1)炭素基準を導入する(発電時のみならずライフサイクルで評価する)
(2)負担の不公平の根源にある発送電の所有権分離を行う
(3)戦略的予備力など、より費用効率的な制度への変更を含めて幅広く検討する
(4)需要側管理(DR)や蓄電池など、将来技術の投資を促す制度設計とする 

 政府は、原発や石炭火力から脱却し再エネへの本格的なシフトを目指し、電力市場を含むエネルギーシステムについて国民的議論を通じ抜本的に見直すべきである。

 

関連リンク

容量市場メインオークション約定結果(対象実需給年度:2025年度)の公表について

第1回 再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース

総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会 第四次中間とりまとめ(2021年6月)