本日4月20日、気候ネットワークが参加するeシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)では、以下の声明「大規模『脱炭素』電源の新設はエネルギーシフトをますます遅らせる 『電源投資の確保に関する新たな制度』に関する声明」を発表しました。

【声明】

大規模「脱炭素」電源の新設はエネルギーシフトをますます遅らせる
「電源投資の確保に関する新たな制度」に関する声明(eシフト)

2022年4月20日
eシフト(脱原発・新しいエネルギー政策を実現する会)

 2021年度冬、以前から電力需給逼迫の恐れについて経済産業省で議論が行われてきていましたが、3月22日、3月16日に発生した地震ほか複数の要因により、2012年以降初となる電力需給逼迫警報が出されました。計画停電は回避されたものの、大規模な火力・原子力に頼る体制の脆弱性とリスクが、改めて浮き彫りとなりました。

 経済産業省では、「今後も電源の休廃止の加速化が想定される中で、電力の安定供給を確保するための構造的な対策として、新規電源投資について長期間固定収入を確保する仕組み」について議論を行い、2023年度からの実施に向けた詳細制度設計が、「電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会」で2021年12月から始まっています。この、「電源投資の確保に関する新たな制度」は、市場原理では経済的に見合わないため新設が進まない火力発電等の新設を、消費者の負担で支援しようというものです。eシフトは、以下の理由からこの制度の新規導入に強く反対します。

 またこの制度に先立ち、現在国会で議論されている「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律(高度化法)」改正案で、水素・アンモニアが非化石エネルギーと位置づけられようとしていますが、この法改正も問題であり、反対します。

1.目的は原発や火力発電の支援・後押しである

 対象とされている「発電・供給時にCO2を排出しない電源(=脱炭素電源)」の中には、再エネは含まれていません。再エネに対してはFIT/FIP制度があるため、ここで意図されているのは、火力発電に組み合わせる新技術、すなわち水素・アンモニア発電やCCS、原子力です。原子力は、現時点では明示されていないものの、今後のエネルギー基本計画改定で新設について言及されれば、当然対象となります。CCSは、立地面、技術面、コスト面から日本国内での実現のめどは立っていません。環境負荷や安全性の観点から問題が大きくコストも莫大なこれらの「脱炭素電源」は、今後新設するべきではありません。

2.水素・アンモニア混焼の推進は石炭火力の推進である

 「発電・供給時にCO2を排出しない」ということで、水素・アンモニアの生成時のCO2排出については除外され、石炭火力など化石燃料への混焼でも脱炭素電源と位置づけられようとしています。たとえ混焼率を100%まで上げたとしても、現在想定されている水素・アンモニアは海外で化石燃料を改質してつくる「グレー」のものであり、将来的な見通しも化石燃料からの改質時のCO2を回収する「ブルー」のものに留まります。「グレー」は脱炭素電源からは程遠く、「ブルー」もCO2の排出削減効果は非常に限られ、コストは再エネに及びません。国内で再エネから生成する「グリーン」なものも理論的には考えられますが、「ブルー」なものよりさらに高コストとなり、仮に少量実現したとしても、発電用よりも産業用として用いるべきものです。(*1)アンモニアの火力発電としての使用はIPCC第6次評価報告書でも考慮されていません。このような背景から、水素・アンモニア発電を「脱炭素電源」として支援するべきではありません。

 また、既設火力の水素・アンモニア混焼に向けた改修も対象とする案が示されており、これは古い火力発電の延命策にすぎません。廃止していくべき非効率石炭火力発電も延命されれば、脱炭素に逆行します。混焼率の低い場合でも経過措置として本制度の対象にしようとしていることは、石炭火力の推進にほかなりません。

 既設火力のバイオマス専焼への改修も意図されていますが、海外から燃料を輸入する大規模バイオマス発電は、燃料調達時点での環境・社会影響が問題となっており、また実際に大きなCO2排出があり、こちらも「脱炭素電源」と呼ぶべきではありません。(*2)

3.政策の自己矛盾のおそれがある

 新制度案は、「新規電源の投資を促す」としていますが、既設火力の改修も対象とすることで、改修のほうが優先され、政策の自己矛盾に陥る可能性が十分にあります。また、容量市場も、導入当初には新規電源の建設を促進することも意図されていましたが、結局は既設電源の稼働延長にしかつながらず、当初の政策目的については失敗しています。新制度案と容量市場や他の市場との関係も不明確で、消費者負担の増大が懸念されます。

4.本来進めるべき省エネルギーと再生可能エネルギーを阻害する

 今後、既存の火力発電所が老朽化することと、非効率石炭火力発電所の閉鎖によって、電力需給逼迫の恐れや価格上昇がより深刻化することは確実です。しかし、進めるべきは火力発電や原子力発電の新設ではなく、大幅な省エネルギーやエネルギー効率化による需要削減と、分散型の再生可能エネルギーを融通して使うしくみです。

 そのためには、送配電網や需給調整、小売制度など、電力システムのあり方全体の大きな改革が必要です。大規模な火力・原子力電源が新設されれば、これまでのシステムを維持することにつながり、改革をますます遅らせます。それはエネルギーシフトを遅らせ、喫緊の課題である気候変動対策にも逆行します。

脱炭素を進めるどころか阻害し、消費者の負担をさらに増やす新制度案については、ただちに議論を中止し、導入を見送るべきです。

*1 Transition Zero 「石炭新発電技術と日本」2022年2月
https://www.transitionzero.org/reports/advanced-coal-in-japan-japanese

*2 FoE Japan「バイオマス発電は環境にやさしいか? “カーボン・ニュートラルのまやかし”」2021年5月
https://foejapan.org/issue/20210514/3823/

制度案の概要(2022年3月時点)

・2023年度からの導入を予定
・容量市場とは別に、新設電源のみを対象とした市場
・容量(kW)に対して
・対象:「脱炭素電源」水素、アンモニア、CCS、原子力等
原子力は現在は新設しないことになっているため明記されていないが、将来的には当然入る。
・そのうち検討が必要な部分について:
石炭新設+アンモニア混焼は対象としないが、LNG新設+水素混焼は対象とする。
既設火力の水素・アンモニア混焼に向けた改修は対象
グレーアンモニア・グレー水素も対象
バイオマス混焼は対象としないが、既設火力のバイオマス専焼への改修は対象
・入札価格:制度側で設定する他市場収益を控除
・期間:全電源種共通で20年の方向
・入札方式:マルチプライスオークションの方向
・実施主体:OCCTO(広域機関)

声明PDF

大規模「脱炭素」電源の新設はエネルギーシフトをますます遅らせるー「電源投資の確保に関する新たな制度」に関する声明(eシフト)

資料

資源エネルギー庁「電源投資の確保について」 電力・ガス基本政策小委員会 制度検討作業部会
12月22日
1月21日
2月17日

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