【共同プレスリリース】

株主総会にて東電・中電とも否決、ただし東電は約9.55%(速報値)獲得
電力事業者として適切な情報開示と実質的な気候変動対策を

2022年6月28日

マーケット・フォース
特定非営利活動法人 気候ネットワーク

気候ネットワークと豪NGOマーケット・フォースが東京電力ホールディングス株式会社・中部電力株式会社に対して提出した株主提案は、6月28日の株主総会において、可決に必要な3分の2の株主の支持を得ることはできず、否決されました。東京電力ホールディングス(以下、東電)は速報値で約9.55%と発表されましたが、中部電力(以下、中電)はどの程度の票を得られたかのかは現時点で不明なため、評価については中電の速報値が開示された時点で改めて判断致します。

本提案は、東電と中電が50/50で株を保有し、燃料受入・貯蔵・送ガス事業および既存火力発電事業等を一元的に担う最大手電力会社であるJERAを含めた全てのグループ会社、事業セグメントにおけるエネルギー関連資産に対し、2050 年炭素排出実質ゼロへの移行における資産の耐性(レジリエンス)の評価報告の開示を求めたものです。

昨年11月の国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)から半年、脱炭素への動きが加速する中、気候変動への危機感が株主らに広がり、実質的な温室効果ガス排出者である電力事業者にも、ネットゼロ2050に向けてより一層の取り組み強化が求められていることが示されたものと言えます。

今年は、日本の電力会社としては2番目の規模を有する大手電力会社の電源開発株式会社(J-Power)に対して、国外の機関投資家から脱炭素戦略の強化を求める株主提案が共同提出されていることからも、株主が電力会社の保有資産が脱化石燃料の世界的な動きの中で、どの程度の気候関連の財務リスクを抱えているのかを把握したいと考えていることは明らかです。今回、本提案は否決されましたが、電力会社が実質的な気候変動対策を着実に進めていくこと、その内容および進捗の説明を求める株主からの声は、今後も高まっていくことでしょう。

提案者は、東電・中電およびJERAが2050年までに排出量を実質ゼロにすることを約束してはいるものの、東電・中電はJERAの事業を介して、以下にあげる財務および気候リスクを負っていると考えています。

  • JERAは、パリ協定の気候目標に反する事業活動を継続しており、2050年ネットゼロという自らの約束の達成を危うくしている。
  • 東電・中電は主に化石燃料により発電された電力を送配電しており、JERAは化石燃料火力発電の明確な段階的廃止(フェーズアウト)計画を示していない。そのうえ、LNG関連の事業の拡大を図っている。このことにより、会社は重大な資産リスクにさらされている。
  • 東京電力と中部電力による情報開示は、株主がリスク判断を行うのに必要な情報を十分には提供していない。
  • 現時点では2050年ネットゼロまでに残された時間内での実現性およびその環境負荷において疑問視されている水素・アンモニアの混焼技術を活用することで、石炭火力発電所からの排出量を削減しようとしている。

気候ネットワークの理事・東京事務所長の桃井貴子は、「東電・中電が50%ずつ株式を保有しているJERAは、日本最大の火力発電事業者であり、世界の脱石炭の潮流に逆行して、今なお対策のとられていない巨大な石炭火力発電所を神奈川県横須賀市や愛知県武豊町に建設している。また、ゼロエミッションを目指すとしながらも、その内容は実用化の目途もたたない水素・アンモニア混焼やCCUS技術に投資を振り向け、 保有する火力発電設備を将来温存する意向である 。このことは、将来の火力発電所の座礁資産化を招く可能性が高く、株主に甚大な不利益をもたらすリスクそのものだ。とりわけ東京電力は、持株比率54%を原子力損害賠償・廃炉等支援機構が持ち、事実上国有化された企業である。今回、我々の提案に対して9.55%の賛成を得たが、国の持つ54%を差し引けば、2割以上の株主が賛同したことを意味し、気候リスクの財務情報開示の重要性が認識されていると考えられる。東電・中電および国は、JERAへの投資に対する気候関連の財務リスクを開示することが日本最大のエネルギー企業としての責務であることを認識すべきだ。」と述べています。

こうした問題点につき、マーケット・フォース 気候とエネルギー調査担当である鈴木幸子は、「本日開催された中部電力株主総会の中で、気候リスクは株主が高い関心を寄せたトピックのひとつでした。中部電力がJERAの株式保有を通してさらされる、気候関連の移行リスクをどのように管理するかについて、同社の取締役に対し直接質問をする機会を得ましたが、同社のJERAに対するコーポレートガバナンスが機能していると株主が納得できる説明は得られませんでした。」と述べました 。

本株主提案を提出することで、日本のエネルギー戦略の大役を担う電力会社と気候変動対策、および2050年ネットゼロに向けた目標への経路(パスウェイ)につき協議し、企業価値を高めるために必要な行動を示すことができましたが、まだまだ十分ではありません。世界各国で電力会社に気候変動対策に関する情報開示を求める投資家からの要望が高まっていることを鑑み、日本の電力会社も、TCFD、CA100+に示されている投資家の期待に沿った情報開示を行い、脱炭素経済への移行におけるリスクと事業機会の適切な管理を行うよう、引き続き求めていきます。

本件の連絡先

マーケット・フォース
鈴木幸子 E-mail: sachiko.suzuki[@]marketforces.org.au
福澤恵 E-mail: megu.fukuzawa[@]marketforces.org.au

気候ネットワーク 鈴木康子 suzuki[@]kikonet.org