【プレスリリース】

IPCC第6次評価報告書(AR6)第3作業部会報告書

~1.5℃目標に向けて、
石炭火力のフェーズアウト・再生可能エネルギーの拡大へ大転換が不可欠~

2022年4月5日
特定非営利活動法人気候ネットワーク
代表 浅岡美恵

 2022年4月5日(日本時間)、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)第6次評価報告書第3作業部会(WG3)による気候変動の緩和に関する報告書が発表された。2014年の第5次評価報告書から8年ぶりとなる。COP26で世界の平均気温の上昇を産業革命前から1.5℃の上昇に止めることが国際合意されたなか、2030年までに排出量を半減させることができることを示し、今直ぐ行動するよう呼びかけたものである。

 本報告書は、人為的な温室効果ガスの排出は2010年から2019年の10年間にも増加し続けており、最大の排出源である電力セクターはもとよりあらゆるセクターにおいて、遅くとも2025年までに、地球温暖化を所定のレベルに抑制することを目的とした気候政策の即時採用といった大幅な排出削減が実行されなければ、気温上昇を1.5℃に抑えることは難しい。しかし、各国で気候変動対策が取られてきていること、及び再生可能エネルギーのコストが急速に低下し、化石燃料のコストを下回るようにもなっていることなどを指摘して、未来は政策決定者及び私たちの手にかかっていることを示した。
 
 本報告書は地球温暖化抑制のレベルに応じた排出シナリオと取り得る緩和策を明らかにし、エネルギー、工業、都市、建物、交通、農林業などに加え、ライフスタイルの転換といった需要側においても具体的な緩和策を分析・評価している。2030年までの化石燃料の大幅な削減、電化の普及、エネルギー効率の向上などによるエネルギー部門の大きな転換を必要とし、CCSを備えない化石燃料の使用は今世紀半ばには座礁資産となるリスクを抱えていることを指摘している。
 また、持続可能な開発と脆弱性、気候リスクには強いつながりがあることや、短期的な行動を強化することで地球温暖化を1.5℃に抑えるシナリオが長期的に実現可能になり得ること、個別政策よりも政策パッケージが公平で低排出な未来への移行に資すること、野心的な緩和目標を達成するための国際協力の重要性なども指摘されている。
 
 日本では、2050年ネットゼロを表明したものの、石炭火力での水素・アンモニア混焼をCO2 排出削減策とし、その技術開発に多大の公的資金を投入して推進している。さらに、2022年3月1日に閣議決定された省エネ法等改正法案は化石燃料由来の水素・アンモニアを「非化石エネルギー」と位置付け、省エネ法の発電効率基準を緩和し、エネルギー供給構造高度化法の改正などもあわせてその推進を財政的にも支援しようとしている。CCSについても日本には適地が乏しく、その支援策は火力発電を延命させるだけである。
 このような発電部門における水素・アンモニア混焼技術やCCUSはCO2排出削減にならず、かつ経済合理性も欠くこと、また再生可能エネルギーなど既存の技術の活用を阻むことになり、CO2排出削減対策の遅れをもたらすことは、かねてより指摘してきた。本報告書でも水素・アンモニアは、今直ぐに大幅な排出削減が求められている発電部門の選択肢ともされていない。CCSも、現状では技術的、経済的、制度的、生態環境的、社会文化的な障壁があることが指摘されている。

 現在・将来世代が気候変動で受ける悪影響を最小限に抑え、持続可能な脱炭素社会へと移行していくために、日本は、1.5℃目標を国の目標として明確に位置付け、2030年の削減目標と再生可能エネルギーの目標を大幅に引き上げ、その実現のための対策の強化を急ぐべきである。石炭火力発電の2030年までの段階的廃止はいうまでもなく、他のセクターでも具体的な実効性ある排出削減のロードマップとその実施が強く求められている。アンモニア混焼によって石炭火力発電所の延命を図ることに時間を費やしている時間の余裕はない。

 

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【プレスリリース】IPCC第6次評価報告書(AR6)第3作業部会報告書 ~1.5℃目標に向けて、石炭火力のフェーズアウト・再生可能エネルギーの拡大へ大転換が不可欠~(2022年4月5日)

 

参考

IPCC第6次評価報告書第3作業部会報告書
Climate Change 2022: Mitigation of Climate Change
https://www.ipcc.ch/report/ar6/wg3/

 

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