【共同声明】 東京海上が化石燃料の保険引受方針改訂を発表するも、SOMPOの方針に及ばず

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9月30日、日本の大手損害保険会社の1つである東京海上ホールディングス株式会社(以下、東京海上)は、「気候変動に対する当社の基本的な考え方」を改訂し、オイルサンド採掘における新たな取引、北極野生生物国家保護区(ANWR、Arctic National Wildlife Refuge)を含む、北緯66度33分以北の地域での石油・ガス採掘における新たな取引の原則禁止を表明しました(※1)。しかし、依然としてSOMPOホールディングス株式会社(以下SOMPO)の方針の水準には達しておらず、私たちは東京海上に対して更なる方針強化を求めます。

東京海上は今回の方針改訂で北極圏における石油・ガス採掘に関しては「パリ協定に沿った脱炭素計画を有する事業/企業は除く」との例外規定を設けていますが、計画の具体的な判断基準は示されていません。東京海上は、石油の流出や現地住民との軋轢で問題となっているブラジルのオフショア石油採掘事業の主要な保険引受者であることが判明しており(※2)、貴重な自然の破壊や現地住民への人権侵害などが懸念される1,400kmにも及ぶ東アフリカ原油パイプライン事業(EACOP)についても、特に制限を設けずに今後保険の引受者になる余地を残しています。スイス再保険やアリアンツを含む保険会社8社は、新規石油・ガス事業の保険引受を包括的に停止する方針を発表しています。2050年までにポートフォリオにおけるネットゼロを達成するためには、あらゆる新規の化石燃料採掘・発電の保険引受停止が必要になります。

東京海上の競合企業であるSOMPOは6月28日に、2025年1月までに温室効果ガス(GHG)削減計画の策定がない「石炭事業を主業にする企業」等の保険引受・投融資を停止する方針を発表しました(※3)。制限対象に含まれる企業のしきい値が実際に石炭事業を拡大している企業の半数程度しかカバーできないとされる30%であることや(※4)、停止対象のGHG削減計画の内容に具体的な要件が設定されていないこと等、依然として内容に課題はあるものの、気候変動の観点から支援対象を企業単位で制限する方針を掲げたのは日本の金融機関として初めてでした。しかし、東京海上の今回の方針改訂では、企業単位で保険引受を制限する方針は取り入れられませんでした。

その他、石炭事業の保険引受方針についても依然として例外規定を設けていること、既存の石炭事業の契約に関するフェーズアウト目標がないこと等の課題も残されています。詳細は5月27日付のNGO共同声明(※5)の通りです。複数の機関投資家も東京海上に対してパリ協定に整合した保険引受を行うようエンゲージメントを実施しています(※6)

以上から、東京海上に対し、化石燃料の保険引受および投融資に関して、早急な方針強化を求めます。また、MS&ADインシュアランスホールディングスに対しても、同様の方針強化を強く求めます。

注釈
  1. https://www.tokiomarinehd.com/release_topics/release/l6guv3000000fyvm-att/20220930_Climate_Strategy_j.pdf
  2. http://jacses.org/wp_jp/wp-content/uploads/2022/01/2778bedf0776ccb21474257b1f0de751.pdf
  3. https://www.sompo-hd.com/-/media/hd/files/news/2022/20220628_1.pdf?la=ja-JP
  4. ドイツの環境NGOウルゲバルトは、30%のしきい値では実際に石炭事業を拡大している企業の半数程度しかカバーしないため、石炭事業に関与する企業のデータベース『Global Coal Exit List(GCEL)』の対象企業になるしきい値を30%から20%に厳格化しています。詳細は以下のURLを参照。https://www.coalexit.org/methodology
  5. http://jacses.org/1738/
  6. http://jacses.org/1939/

本件に関する問い合わせ先

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、田辺有輝、tanabe@jacses.org