G7広島サミットの閉幕にあたって
世界から厳しい目が向けられながらも、化石燃料依存から抜け出せないG7

2023年5月21日
特定非営利活動法人気候ネットワーク
代表 浅岡美恵

5月19日~21日に広島市で開催されたG7首脳会合は、予定を前倒しして20日に本会議の成果をまとめた首脳声明(首脳コミュニケ)を発表した。また、同日に個別声明としてG7クリーン・エネルギー経済行動計画も発表されている。
気候変動・エネルギー分野においては、4月に札幌で開催されたG7気候・エネルギー・環境大臣会合(以下、環境大臣会合)の合意内容がさらに強化されるかと合わせて、日本がパリ協定1.5℃目標に整合する脱化石燃料に向けた道筋を提示できるかが焦点であった。G7の合意がCOP28での新興国・グローバルサウスを含めた議論の行方にも影響するため、野心的な合意が求められていた。

首脳コミュニケは、環境大臣会合コミュニケの内容を踏襲したものとなった。最新のIPCC報告書に基づき、温室効果ガスを2019年比で2030年までに43%、2035年までに60%削減する緊急性が増していることを改めて強調した。また、2030年までの洋上風力発電、太陽光発電の導入目標が明示されるとともに、排出削減対策の講じられていない化石燃料のフェーズアウトの加速にも言及した。
水素とその派生物(アンモニア)の電力部門での利用に関しても、環境大臣会合の合意とほぼ同じ内容となっている。1.5℃の道筋やG7で合意された2035年までの電力部門の脱炭素化に整合する場合など多くの厳格な条件を付した上で、電力部門での利用を検討する国があることに留意すると述べるに留まり、日本政府が推進する火力発電への水素・アンモニア混焼が脱炭素技術としてG7で承認されたことを意味するものではないことを再び強調したい。
一方で、首脳会合においても石炭火力発電の廃止年限の明示には合意できず、電力部門の脱炭素化についても「2035年までに電力部門の全部または大宗を脱炭素化する」から踏み込んだ合意はなされなかった。また、ガスへの投資に関しては、ロシアへのエネルギー依存から脱却するためにクリーンエネルギーへの移行を促進する必要があるとしつつも、LNGの果たす役割を強調し、投資を認めるなど、環境大臣会合コミュニケより後退した文言となった。

被爆地である広島での開催であったこと、ウクライナのゼレンスキー大統領の来日参加が実現したこともあり、核軍縮と安全保障、またロシアや中国への対応が主要な関心となった。戦争はエネルギーや食糧危機をもたらし、短期的に各国の気候行動を減速させ、地球温暖化を進行させる。そして、世界各地に異常気象をもたらし、難民の増加や人道危機を深刻化させる。加えて、戦争自体もCO2排出を増加させる。平和を回復し、石炭・ガスを含む化石燃料からの脱却と再生可能エネルギーへの公正な移行をより加速させなければならない。
12月に予定されているCOP28では、第1回グローバル・ストックテイク(GST)が完了する予定である。その評価を踏まえ各国は2035年までのNDCを策定することとなるが、日本がさらに野心的なNDCを設定することが求められるのは明らかである。

G7広島サミットには、海外のNGOも来日し、日本の化石燃料政策を厳しく批判した。日本が国内外で推進する水素・アンモニア混焼や見せかけのCCUSは、1.5℃目標と整合せず石炭延命策に過ぎない。それにもかかわらず、日本がこれら技術を推進するために国内外で公的資金をも供与し続けようとしていることは、今や世界で問題視されている。日本は、議長国としてより野心的な気候変動対策に向けたリーダーシップを示すのではなく、逆にこれらにお墨付きを得ようと働きかけ、合意の前進を阻んできた。日本の気候政策に世界から厳しい目が向けられていることを認識し、見せかけの脱炭素ではなく、真に1.5℃目標と整合する脱炭素・再生可能エネルギーへの速やかな移行への道筋を示すことが求められる。

*グローバル・ストックテイク:パリ協定の長期目標達成に向け、世界の国々の温暖化対策の実施状況(進み具合)を国際的に評価する仕組み。5年ごとに評価する制度であり、パリ協定締結後、最初のグローバル・ストックテイクが、2021年から2023年にかけて実施されている。

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G7広島サミットの閉幕にあたって 世界から厳しい目が向けられながらも、化石燃料依存から抜け出せないG7(PDF)

参考

G7広島サミット(外務省)
(G7広島首脳コミュニケおよびG7クリーン・エネルギー経済行動計画ともに閲覧可能)

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