東京事務所の桃井です。

まだ8月だというのに台風11号が上陸し西日本中心に猛威をふるいました。 高知では総雨量1000mmを超え、全国では最も多い時に160万人に避難勧告や指示が出たと報じられ、その規模の大きさに驚愕しています。私が住む横浜でも、台風の通り道からはずれているものの、強烈な暴風雨が夜中過ぎまで続いており、台風が直撃した地域ではその恐怖・被害がいかばかりかと案じられました。

それにしても、夏の高温化や、ゲリラ豪雨、巨大台風など、命に危険なレベルの気象が増えてきましたね。

 

地球温暖化のために原発再稼働!?

さて、7月末、eシフトセミナー「地球温暖化のために原発再稼働!? ~原子力ムラのウソをあばく」が開催されました。温暖化対策は大事だけど、そのために原発再稼働は違うでしょ、と思う人は多いはず。ただ、このイベントのテーマは少し視点をずらし、地球温暖化懐疑的な目を持つ人と情報を共有し、脱原発と脱温暖化の運動を共に盛り上げていこうという点にありました。ポイントは次の3つです。

(1)温暖化対策を理由にした原発推進体制の認識共有

  • 地球温暖化対策を理由にいかに原発が推進されてきたか。
  • 今も地球温暖化を口実に原発再稼働がすすめられていること。
  • 結果的に原発は温暖化対策には貢献していないという現状の共有。

(2)温暖化懐疑論に対する誤解の解消

  • 原発を推進するために温暖化問題がねつ造されてるわけではない。
  • 地球の気温の上昇など自然科学や将来の予測など気候変動の科学の確認。
  • 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)に対しての理解の共有。

(3)今後目指す持続可能な社会のあり方

  • 脱温暖化と地球温暖化対策でやるべきことは共通
  • 再生可能エネルギーの大幅普及と省エネルギー
  • 大規模集中型システムから地域分散型の電力システムへ
セミナー会場は100人の座席が満席に。

セミナー会場は100人の座席が満席に。

エネルギー基本計画における原子力の位置づけ

2014年4月に閣議決定した「第四次エネルギー基本計画」では、原子力について次のように位置づけられました。

 燃料投入量に対するエネルギー出力が圧倒的に大きく、数年にわたって国内保有燃料だけで生産が維持できる準国産エネルギー源として、優れた安定供給性と効率性を有しており、運転コストが低廉で変動も少なく、運転時には温室効果ガスの排出もないことから、安全性の確保を大前提に、エネルギー需給構造の安定性に寄与する重要なベースロード電源である。

これ、福島の原発事故前の文章ではなくて、事故後、つい最近つくられた計画ですからね。つっこみたいところはたくさんありますが、論点がそれるのでここでは温暖化対策との関係に絞りたいと思います。エネルギー基本計画には、このように、「運転時に温室効果ガスの排出がない」ことが強調され、温暖化対策に貢献することがちりばめられています。

講師の山崎さんは、原子力発電が運転時にはCO2を排出しなくても、ライフサイクルで見た場合にCO2を多く排出していることや、温排水で周辺海域の海水温を7℃も上昇させていることから周辺の環境に悪影響を与えていることなどを指摘。

また、「重要なベースロード電源」という位置づけについても、本当にベースロード電源になるのか、という疑問を投げかけました。2011年以降の東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故とその後の全原発停止だけではなく、その前にも不祥事で原発を止め、そのたびに設備利用率を下げているためです。

原発推進に利用される温暖化 出典:山崎さん資料より

原発推進に利用される温暖化 出典:山崎さん資料より

  • 2002年 「東電不祥事」発覚に端を発した原発の定期検査等のごまかしで全電力総点検
  • 2007年 中越沖地震で柏崎刈羽停止および臨界事故隠し発覚により原発の総点検

原発推進のために政府や産業界が「温暖化対策」を理由にしてきたという点では、4人のスピーカーに共通する点でした。

原発推進派は本当の温暖化対策をしていない

しかし一方、“温暖化対策”を隠れ蓑に原発が推進されてきたからといって、温暖化そのものを懐疑的に見るのは短絡的です。反原発活動に長年取り組んでいる人の中には、そもそも温暖化をウソだと言ったり、IPCCに批判的な立場だったりする人がいます。しかし、こうして温暖化問題に懐疑的な目を向け、脱原発と脱温暖化の運動が分裂することは、「敵に塩を送る」だけである、と明日香さんは言います。

いわゆる「原子力ムラ」と言われる原発利権にからむ政府、産業界、学者、メディアなどが、「温暖化対策のための原発必要論」を論じてきましたが、温暖化対策が必要だといいながら、実は本来温暖化対策として必要だとされるキャップ&トレードや炭素税の導入を阻み、石炭火力発電を推進し、再生可能エネルギーの位置づけを低く見ていました。温暖化に懐疑的な人たちを増やして化石燃料依存に向かわせるのは、「原発依存・石炭依存」グループの高等戦略だというのです。

朝日新聞の石井さんも、いわゆる利権構造の中で、原発推進派と温暖化対策が必要だといいながら、対策に後ろ向きである産業界が同じグループであるのではないかと指摘しています。

「脱原発で温暖化に懐疑的な人々は原発依存・化石燃料依存の巨大化・強力化に結果的に加担している」 出典:明日香氏プレゼンテーション資料より

「脱原発で温暖化に懐疑的な人々は原発依存・化石燃料依存の巨大化・強力化に結果的に加担している」 出典:明日香氏プレゼンテーション資料より

原発推進のせいで、進まない温暖化対策

気候ネットワークの平田さんは、IPCCの新レポートについて解説した上で、手遅れにならないうちに温暖化対策を進めることが必要であることを強調しました。これまでの日本の温暖化対策の問題は、原発に依存し、他の必要な対策を進めてこなかった点にあります。例えば、次のような課題は残されたままです。

  • 事業者対策は、自主的取り組みに依存している。(経団連自主行動計画では、排出量の抑制に対し、インセンティブが与えられていない)
  • 削減余地が大きいことを把握せず、省エネ対策は限定的。(機器の効率は向上するものの、製造業の効率は悪化)
  • 限定的な再生可能エネルギーの促進(ようやく離陸)
  • 京都議定書6%達成は、経済低迷と吸収源・海外クレジット購入で間に合わせ(実際の排出量は基準年1.4%増)

このことは、今の「エネルギー基本計画」を見ても明らかです。原発も石炭も、ベースロード電源として位置づけ、「クリーンコール(きれいな石炭)」といって、温室効果ガス排出量の多い石炭火力をこれから増やしていく計画なのですから。

「これまでの大規模集中型で原発・化石燃料依存社会から、省エネ・再エネ重視の社会に切り替えていくことが必要」と平田さん

「これまでの大規模集中型で原発・化石燃料依存社会から、省エネ・再エネ重視の社会に切り替えていくことが必要」と平田さん

日本の気候変動政策がいかに世界の動きから遅れをとっているか、いえ、むしろ逆行しているかということを共通認識として、これからの脱原発・脱温暖化対策を一体にすすめていく市民の力が試されているのではないでしょうか。

プログラム

(タイトルをクリックすると配布資料を閲覧できます)

1.再稼働に利用される「地球温暖化」
山崎久隆さん(たんぽぽ舎副代表)

2.原発は温暖化対策の答えではない
明日香壽川さん(東北大学教授)

3.温暖化を防ぐためにこそ、原発はやめるべき
平田仁子さん(気候ネットワーク理事)

4.メディアの立場から  <資料はありません>
石井徹さん(朝日新聞編集委員)