こんにちは。東京事務所の鈴木です。

先日、世界遺産グレートバリアリーフで進むサンゴ礁の白化現象について取り上げましたが、沖縄でもサンゴの白化が深刻な問題になっているので、ご紹介します。

白化サンゴ(環境省)

写真:環境省 那覇自然環境事務所 報道発表資料より

石西礁湖の大規模な白化現象について環境省が調査

沖縄の石垣島と西表島の間に位置する国内最大のサンゴ礁「石西礁湖」で大規模な白化現象について環境省が調査を行ったところ、調査対象とした35カ所の9割近くのサンゴが白化しており、約3割は完全白化か死滅していることが判明しました。比較的高い水温にストレス耐性のある種類のサンゴにも白化が見られたことから、事態の深刻さが伺えます。 

海水温の変化

気温の上昇は体感できますが、海水温の上昇はあまりわかりませんよね。気象庁の観測によると、日本近海の平均海面温度(年平均)は2015年までの100年間で+1.07℃です。たった1.07℃と思われかもしれませんが、この上昇率は世界全体の平均海面水温上昇率(+0.52℃)よりも高く、サンゴを含む海の生物にとっては1℃の温度差でも大きな影響を与える可能性があるのです。

出典:気象庁 月平均海面水温(2016年8月)

出典:気象庁 月平均海面水温(2016年8月)

上図は今年の8月の平均海水温ですが、沖縄周辺の海では8月の台風の進路が例年とは異なっていたため深層と表層の海水の攪拌が起こらず、海水温の高い状態が6月後半以降ずっと続いていました。そのため、サンゴの白化が進んでしまったのです。実際に調査を実施した環境省も「このままの状態が続けば、過去最大規模の被害が出る恐れがある」と懸念を示しているように、今後のサンゴ礁の状況には目が離せません。

*サンゴの白化原因については、「海での温暖化現象:グレートバリアリーフの危機的状況」をご覧下さい。

サンゴの白化だけじゃない! 

怖いのは、海水温の上昇はサンゴ礁の白化・死滅だけに留まらず、海の生態系に深刻な影響を及ぼすことです。

サンゴ礁で稚魚時代を過ごす魚に限らず、様々な海の生物の生態や魚の分布に影響を与えることから、日本各地の漁業関係者に不安が広がっています。サンゴの白化現象とは異なり、魚の減少や他の海の生物の変化はすぐには目に見えません。漁獲量の減少という形で気付いたときにはかなり深刻な状況に陥っていることが多いのです。

 さらに、海の異変は日本近海だけではありません。9月1日から10日に米ハワイ州で開かれていた国際自然保護連合(IUCN)主催の世界自然保護会議(World Conservation Congress)にて、地球温暖化により海洋がかつてないほど不健全な状態に陥っているとの報告書「Explaining Ocean Warming(仮題:海洋温暖化を説明する)」が発表されました。この報告書によれば、海水温の上昇はサンゴ礁の破壊に留まらず、海の生態系に多大な影響を与えると懸念されています。

海で起こっている変化

サンゴの白化以外にも気候変動や日本近海の海水温上昇が一因ではないかと思われるニュースが見受けられます。因果関係は明らかではないものの、可能性は捨てきれないのではないでしょうか。

  • 暖かい海域に住んでいるサメの分布が日本近海にまで拡大
    昨年(2015年)からサメの目撃情報が増えました。
  • 刺されると死に至るほどの猛毒を持つ「ヒョウモンダコ」の生息域が関東まで北上
    もともと西太平洋熱帯域・亜熱帯域に分布していましたが、2009年頃から九州や日本海側での目撃が増加、2016年には関東でも目撃されました。
  • 近海の海水温の上昇が魚の分布に影響し、九州や瀬戸内海で取れていた魚(サワラなど)が北に移動
    魚はその種類に適した海域に生息しているものが多いので、海水温の変化は魚の分布域を変えてしまいます。温暖な海に生息していた魚が、より北の海域に移動したりするのです。
  • 北九州市の曽根干潟で絶滅危惧種に指定されているカブトガニが大量死約500匹と例年の年間死亡数の8倍超)
    原因は確定できませんが、表面水温が上がったことがなんらかの原因につながっているのではと懸念されています。
  • 近海の海水温の上昇が魚の分布に影響し、九州や瀬戸内海で取れていた魚が北に移動
    北海道でサンマ漁が不振 過去1年間の水揚げ量は5年前に比べて半減したなど、日本各地の漁場で変化が出ています。

サンゴの白化は遠い沖縄の話だから…という人も、不運にも海水浴でヒョウモンダコを踏みつける可能性や、秋の味覚サンマ(秋刀魚)の価格が上がってしまい食べられない可能性があるのです。海に囲まれた島国に住み、海で遊び、海からの恵を食している我々はもっと海の変化に注意すべきなのではないでしょうか。

そして、海水温の変化からありがたくない記録を更新し続ける最近の異常気象との関連性にも目を広げ、さらには地球温暖化にともなう変化とその変化によってもたらされるリスクにどのよう対応していくのかまで考えていかなければならない時代に入ってしまったのです。

*最近の異常気象についてはスタッフブログ「観測史上●●記録」を量産する時代~を参考になさって下さい。

 秋になって水温が少しずつ下がれば、沖縄のサンゴが回復する可能性は残されていますが、このまま海水温が下がらなければ被害の拡大は間逃れません。温暖化は着々と忍び寄っているのです。

 【参考】

環境省 那覇自然環境事務所「石西礁湖のサンゴ白化現象の調査結果について(お知ら
せ)

石西礁湖サンゴ礁基金
石西礁湖ポータルウェブサイト 島人の宝 豊かな海を守る