今なぜ、気候変動「訴訟」?(第2回)

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京都事務所でお世話になっておりますボランティアの一原です。前回から、日本そして世界全体で今増加している気候変動訴訟について、ご報告させていただいています。(第1回はコチラ

第2回は、実際にどのような訴訟が世界で起きているのかについてご紹介したいと思います。

1300件を超える気候変動訴訟が起きている

訴訟の場で初めて気候変動問題が争われたのは1990年初頭の米国においてだったと言われています[i]。それから件数・地域も次第に拡大し、2019年7月末の時点において、これまでに世界全体でされた気候変動訴訟は1300件を超えるとされています[ii]

United Nations Environment Programme, The Status of Climate Change Litigation: A Global Review (2017) より

上の図をご覧いただくと、気候変動訴訟が様々な国で提起されていることがわかります。2017年時点のものなのでやや資料が古く、ここでは日本における4件の気候変動訴訟は反映されていません。

次に、訴訟の内容面について見ていきましょう。上のグラフは、気候変動訴訟の当事者、つまり原告と被告がどのような主体なのか(個人、企業、政府、NGO)について集計したものです。約8割もの訴訟において、政府を被告として提起されていることが分かります。

そして、争われる内容について調べた結果が上のグラフです。約4分の3が具体的なプロジェクト(炭鉱開発、天然ガス輸送のためのパイプライン建設等)に対する国の許認可の適否を争っていることがわかります。日本で起きている4件の気候変動訴訟については、神戸と横須賀の2件が石炭火力発電所の建設や稼働に対する国の許可処分の取り消しを求めるもので、ここに分類されます

実際にどのようなケースがあるのか

ここまで、世界全体の気候変動訴訟について概観してきました。次に、実際にどのようなケースがあるのかについて、特徴的なケースを数件ご紹介します。

Lliuya v. RWE AG事件(2015年、ドイツにて提訴)

この事件はペルーの農夫Lliuya氏がドイツの電力会社RWE(ライン・ヴェストファーレン)を被告としてドイツで提起した事件です。同氏の自宅付近には氷河湖があったのですが、温暖化により氷河が解け、近年水量が急増し、決壊の危険が高まっていました。もし氷河湖の決壊が起きればLliuya氏の自宅や農地が被害を受けるため、同氏は自費を投じてその防止のための措置を講じました。そして、氷河湖決壊の危険を高めた温暖化をもたらした温室効果ガスについて、被告であるRWEが世界全体の0.47%にあたる量を排出していることを理由に、Lliuya氏が費やした費用について同じ割合にあたる損害賠償を請求したのです。

https://germanwatch.org/en/15706より

ほぼ地球の裏側にある国の電力会社に対して、0.47%という僅かな割合に相当する損害賠償責任を追及したLliuyaの事件は、第一審では同氏の請求は門前払いされてしまいました。ところが、同氏の控訴を受けた高等裁判所では審理を始めるに十分な理由が認められると判断し、現在も裁判が続いています。

Urgenda Foundation v. State of the Netherlands事件(2015年、オランダにて提訴)

https://countysustainabilitygroup.com/tag/urgenda-foundation-v-the-state-of-the-netherlands-2015/より

オランダの環境保護団体であるUrgenda Foudationが、同国の政府が当時定めていた温室効果ガス排出削減目標が気候変動対策として不十分であるとして、オランダ国民約866人に代わるかたちで原告となり、政府を被告として削減目標の引き上げ(2020年までに90年比40%削減)を求めた事件です。第一審裁判所は同団体の主張を認め、政府に対し、同団体らの主張に沿った削減目標の引き上げを命じました。

オランダ政府は、国内の石炭火力発電所を2030年に全部閉鎖する決定などを打ち出しました。しかし、一審判決後も2012年以降13%削減にとどまっており、「25%削減は満たせない」として、政府は控訴しましたが、裁判所は第二審も同様の判断を行いました。現在、政府は上告し、最高裁判所で審理が続いています。この事件は以降の気候変動事件において、原告がたびたび先例として引用しています。

Leghari v. Federation of Pakistan事件(2015年、パキスタンにて提訴)

パキスタンではこの事件の提訴当時、政府が策定した気候変動対策の実施が遅れていました。同国の農夫Leghari氏は、この遅れのために自分の憲法上の様々な権利(生存権、個人の尊厳、財産権)が侵害されると主張して、政府を被告として裁判を起こしました。裁判所は同氏の主張を認め、この対策の実施について、実施期限や実施責任者の選定といった具体的な内容に踏み込んだ上で政府に命じました。

Juliana v. United States 事件(2015年、アメリカ合衆国にて提訴)

8歳から19歳の未成年21名が、環境保護団体と共に自ら原告となり、アメリカ連邦政府を訴えた事件です。彼らは、自分たちには「持続可能な生活を維持できるような気候システムへの権利」が憲法上認められていると主張し、政府は温室効果ガスの排出を適切に規制しないことで、この権利を侵害していると主張しました。この訴訟を門前払いするか審理に入るかの判断にあたり、裁判所は一度、原告らの主張を大幅に認める判断を示したのですが、その後の連邦政府の様々な反論を受け、提訴から4年近くたった現在も、まだ実質的な審理が始まっていない状況です。

今回は世界で実際にどのような気候変動訴訟が起きているのかについてご紹介しました。次回では、こういった気候変動訴訟が増加しつつある原因について、国際的な合意(パリ協定など)との関連も視野に入れて、より踏み込んで考えてみたいと思います。

[i] City of Los Angels v. National Highway Transportation Safety Administration, 912 F. 2d 478, 481 (D.C. Cir. 1990)

[ii]Sabin Center Climate Change Litigation Database (www. climatecasechart. com)2019年7月31日閲覧