政府は9月3日に、エネルギー基本計画地球温暖化対策計画などの改正にあたって政府案を公表し、パブリックコメント(通称:パブコメ)を開始しました。パブコメでは、一般市民が政府の政策案に対してインターネット上から意見を政府に提出することができ、政府も集まった意見を尊重して政策を決めることとされています。

 気候変動の影響は高温化や熱波・集中豪雨・旱魃・海面上昇といった形で猛威を振るいはじめていますが、将来の甚大なリスクを回避するためには、今、気候変動・エネルギー政策を大転換する必要があります。しかし、政府の政策案は、「大転換」には程遠いものです。したがって、このパブコメ期間はとても重要なタイミングです。

1.問題だらけの政府案 ~1.5℃目標との不整合~

 エネルギー基本計画(エネ基)のパブコメが始まっていることをご存じの方は多いかもしれませんが、同時に地球温暖化対策計画(温対計画)パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(長期戦略)国連に提出する国別約束(NDC)政府地球温暖化対策実行計画も政府案が公表され、現在パブコメを募集しているところです。ここでは、特にエネ基に加え、温対計画、長期戦略の問題に触れておきたいと思います。

①第六次エネルギー基本計画案

 エネルギー基本計画は、エネルギー政策基本法に基づき、エネルギー政策の方針や目標、施策の大元の方向性を定めるものです。エネルギー基本計画によって、石炭・石油・天然ガスといったエネルギー資源(化石燃料)を今後日本としてどうしていくかがほぼ決まるため、気候変動の最大の原因である化石燃料からの脱却を図る上で非常に重要です。本来は気候危機への対応として、パリ協定の1.5℃目標が大前提として掲げられ、その下でエネルギーの在り方が検討されるべきですが、今回の政府案は1.5℃目標について全く触れられていません。

 また政府案は、温室効果ガスの削減について、2030年46%削減、2050年カーボンニュートラルに触れながらも、2030年の電源構成として、LNG20%、石炭19%、石油など2%、再生可能エネルギー36~38%、原発20~22%、水素やアンモニア発電1%などとしています。つまり、原発は現状からの維持で原発依存体制を続け、石炭も従来の26%からは若干減ったものの、2030年までにゼロにしなければらないという国連からの要請に答えるものではありません。

 また、2050年に火力を残そうとしているのも問題です。未だに確立していない技術である、CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)や水素・アンモニア火力などの開発を前提に、石炭火力などを残す方向を示しているのです。これでは、2050年カーボンニュートラルも非常に危うい状況です。

 気候危機に対応するエネルギー計画としては、再生可能エネルギー100%の未来を目指すことが重要です。

②地球温暖化対策計画案

 地球温暖化対策計画は、国レベルの気候変動対策の目標や具体施策、推進体制などをとりまとめたものです。エネルギー基本計画と重なる部分は整合が図られ、さらにそれ以外の非エネルギー起源CO2、CO2以外の温室効果ガスを含む、政府としての気候変動に取り組む全体方針・目標・施策の方向性を定めています。

 こちらの計画案も、1.5℃目標の位置づけが曖昧で、明確な目標とされていません。これまでの日本の温対計画での問題は、日本の非常に大規模な排出源である産業界からの排出が、「産業界の自主的取り組み」にゆだねられ、大幅削減を実行できなかったことです。今回の改定案でも、その方針は全く変わっていません。

 本来、温室効果ガスの排出が大きいものに課税(炭素税など)するなど、実効性のあるカーボンプライシングを導入したり、エネルギー効率向上、排熱回収、電化などの対策強化をはかりながら、1.5℃目標に整合するような排出削減経路をたどる計画にすることが重要です。

③パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略

 長期戦略は、パリ協定の締約国として温室効果ガスの排出と吸収の均衡に向けて取り組むための戦略を策定立案し、報告することを国連から求められているものです。首相が2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を表明して以降、見直しが進められ、11月に開催予定の国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)までに国連に提出することになっています。

 この長期戦略においても、政府案は上記二つの計画案と同様に、大きな方向性として、再生可能エネルギー100%の実現は困難だと決めつけ、水素・アンモニア、CCUS、原子力といった不確かな技術頼みになっていることが問題です。化石燃料からの脱却をはかるには、未だ確立していない未知の技術に頼って多額の予算を投じることではなく、すでに技術的に確立している再エネをいかに普及するかという点で未来を描くことが重要だと思います。

 さて、以上のように、それぞれの計画案・戦略案には大きな方向性として、1.5℃目標に整合せず、化石燃料・多消費型の産業構造を抜本的に変革していくという視点が無いところが問題です。他にも問題点がたくさんあり、気候ネットワークでは、パブコメを書くにあたって、それぞれの計画に対して問題点を整理しました。

  • 「第6次エネルギー基本計画(案)」のポイントと意見(PDF
  • 「地球温暖化対策計画(案)」のポイントと意見(PDF
  • 「パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(案)」のポイントと意見(PDF

2.パブコメなんて意味がない?→意味はある!

 では、これで皆さん、パブコメを書いて出しましょう!と言っても、なかなかハードルが高いなと思っている人もいるかもしれません。また、”パブコメなんて、どうせ形式的なものだから、意見出したところで反映されないし、書いても無駄じゃないか” と思っている人も少なくないでしょう。

 確かに、これまで日本の環境・エネルギー政策をつくる際、市民の意見は軽視されてきたと思います。市民の意見を聞く気があるのなら、計画案をつくるもっと早い段階から聞くべきですし、エネルギー政策のように国民の生命や財産にも直結するような重要な問題は、公聴会や討論型世論調査など国民的議論を行うべきだと思います(2012年のエネルギー政策策定にあたっては、意見聴取会や討論型世論調査が内閣府によって実施されましたが、今回は実施されていません)。なので、今回のように、最終段階で募るパブコメが形式的なものにとどまる可能性は否定できません。ほぼ決まった政府案に対して意見を出したところで、最終的に私たちが真向から反対するような意見が反映されることもないかもしれません。

 ただ、だからといって「意味がないか」と言われたら、それは違うと思います。明らかにおかしいものに、NOと言わなければ、私たちが今の政府案に賛成か反対かが伝わらないからです。このままでは、私たちが希望する未来とは全く別次元の方向に向かってしまいかねない今、きちんと声をあげ、公式に声を上げる場(パブコメ)も活用しない手はありません。多くの人が声を上げれば、それは必ず次への力になります。

3.何を書いていいかわからない?→NGOを参考に!

 パブコメは書いて出すことに意味があります。政府案を読んで、「何ページのどこどこのここが問題」と書くことが求められていますが、100頁にも及ぶような書類に全部目を通してすべて理解して意見をするのは大変です。そこで、同じような意見を持っている環境NGOの力を借りましょう!

 上記に書いた気候ネットワークのサイトを活用していただけたらと思いますし、そのほかにも、パブコメを出そうという呼びかけは、環境NGOなどが協同で行っているキャンペーン「あと4年、未来を変えるのは今」を通じて行っています。こちらによりわかりやすくエネ基の問題点が掲げられており、またどう書いていいかわからない人のためにワークショップも連日開かれています。ぜひワークショップに参加するなどして、パブコメに参加していきましょう!

「あと4年、未来を変えるのは今」パブコメを書こう!:http://ato4nen.com/public-comment/

「あと4年、未来を変えるのは今」ワークショップ:

9月19日(日)10:00〜https://us02web.zoom.us/meeting/register/tZcqc-6hqTMsH9DLYvlpT8hrWNlHnsz8VM61

9月21日(火)20:00〜 https://350org.zoom.us/meeting/register/tJcldeugqj0pHdLHEr_76PtYaJpfwWJIdwY8

9月22日(水)14:00〜 https://greenpeace.zoom.us/meeting/register/tJEudOygrTktHNT4z41yGoGNj1gGJZE1_oRh

 

▼パブリックコメントは次のウェブページより提出することができます!!

エネルギー基本計画(案)意見提出ページ

地球温暖化対策計画(案)意見提出ページ

パリ協定に基づく成長戦略としての長期戦略(長期戦略)(案)意見提出ページ

国連に提出する国別約束(NDC)(案)意見提出ページ

地球温暖化対策政府実行計画(案)意見提出ページ

*意見募集要領を確認し、「意見募集要領(提出先を含む)を確認しました。」にチェックを入れて、ページ右下の「意見入力へ」をクリックすると入力画面に切り替わります。