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海での温暖化現象:サンゴに忍び寄るマイクロプラスチック汚染

気候ネットワーク東京事務所の鈴木です。

海のマイクロプラスチックが問題視されています。プランクトンを食べる魚が間違ってプラスチックを食べて体内に蓄積してしまうだけでなく、プランクトン自体がマイクロプラスチックを取り込んでしまっているとの報告もあり、そうなると、魚は直接的にも間接的にもマイクロプラスチックを食べていることになります。そして、マイクロプラスチックの汚染は、なんとサンゴにも及んでいました。

爆発的に増加したプラスチックと温暖化

1950年から2015年までの間に製造されたプラスチックの総量[1]は、添加物として加えられたものも含めると83億トンに達しています。このうち63億トンがすでに廃棄物となっており、現在の勢いのままプラスチックの生産と廃棄が続いた場合、2050年までに120億トンのプラスチックごみが埋め立て処分されるか、自然環境に投棄されると考えられています。2050年には海洋中のプラスチック量(重量ベース)が魚の量以上に増加すると予測されていること自体が大きな問題ですが、プラスチックの主原料は石油であり、2050年には石油消費量におけるプラスチック生産量が占める割合が20%に、炭素収支に占める割合は15%にまで達する[2]と考えられています。これは、プラスチックの生産量が増えることで石油消費が増大、巡り巡ってCO2排出量が増加し、気候変動に大きな影響を及ぼすことを意味しています。

温暖化が原因で海のプラスチック汚染が起きているわけではありませんが、気候変動対策として脱炭素を目指すためには、プラスチックへの対策も必要です。その上、海水中のマイクロプラスチックがサンゴの生息に影響があるとなればなおさら見逃せません。

 

マイクロプラスチックは「美味しい」のか?

気になったのは、マイクロプラスチックを「好んで」食べているサンゴがいるとの報告。学術誌Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciencesに発表された研究論文[3]によると、サンゴの一種(Astrangia poculata)がマイクロプラスチックを「間違って偶然」口にするのではなく、「好んで」食べていることが判明したのです。

このサンゴは、温帯海域に生息するサンゴですが、採取されたコロニーの体内からマイクロプラスチック(微小なプラスチック繊維)が見つかりました。さらに、この研究を行った米国ボストン大学のRandi Rotjanらが研究室で同じサンゴを飼育し、餌(小型甲殻類の卵)とマイクロビーズを与えてみたところ、サンゴはマイクロビーズを好んで食べることが確認されました。

確かに、以前からサンゴがマイクロプラスチックを食べていること[4]は把握されていましたが、魚同様、プランクトンと「間違って」食べていると考えられていました。今回の研究は、サンゴが「選択的に」マイクロプラスチックを食べているとのショッキングな内容だったのです。我々が体に悪いジャンクフードの味を美味しいと思うように、サンゴにとって化学物質にまみれたプラスチックに何らかの魅力があるのかもしれませんが、この実験ではなぜサンゴが「好んで」マイクロビーズを摂取しているのかはわかりませんでした。

プラスチックで栄養失調

生物であるサンゴがプラスチックを摂取しても消化されずに腸内に溜まったままになり、消化管閉塞をもたらします。しかも、プラスチックで満腹になっても栄養は摂取できないので、栄養失調に陥ってしまいます。
ここで、サンゴは体内の褐虫藻と共生することで生きていることを思い出してください。サンゴにとって褐虫藻は生きるために必要不可欠な存在です。しかし、サンゴが栄養失調になれば、共生している褐虫藻にも影響します。

サンゴと褐虫藻の共生における栄養の相互依存

サンゴと褐虫藻の共生を栄養という面から見直してみます。

サンゴは、褐虫藻を自分の体内に棲まわせて、褐虫藻から栄養をもらうことによって熱帯の美しい、けれど貧栄養な海で生き抜いています。海水温の上昇がある限度を超えると褐虫藻がサンゴから抜け出てしまってサンゴが死んでしまう(白化)することは過去ブログでも紹介してきました。だったら、褐虫藻が抜け出していかなければ栄養はもらえるから、他の餌を食べなくてもいいのでは?と思いますが、そういうわけにもいきません。

褐虫藻とは植物プランクトンの一種で、光合成をして炭水化物を合成し、サンゴに供給します。褐虫藻はサンゴが必要な栄養の約90%を提供するとされています。しかも褐虫藻は生物がタンパク質を作るために必要な必須アミノ酸も提供してくれます。一方の褐虫藻はサンゴの中にいることで外敵から守られるだけでなく、海水から摂取するのが難しい栄養分をサンゴからもらっています。

植物プランクトンは広い意味で「植物」なので、肥料(窒素・リン・カリウム)が必要ですが、海水中に十分に含まれているのはカリウムのみ。残りはサンゴの排泄物に含まれているのを直接貰い受けています。リンは遺伝子(DNA)を作るために必須で、窒素はタンパク質を作るのに必須な要素なので、どちらも不可欠です。動物はこれらの要素を食物(植物もしくは動物)から摂取しており、サンゴも動物プランクトンなどを捕まえて食べることでこれらの要素を取り込んでいます。つまり、褐虫藻が光合成で作ってくれる栄養だけでは、サンゴも褐虫藻も生きていかれないのです。

では、サンゴが動物プランクトンではなくマイクロプラスチックばかり食べてしまったらどうなるか・・・。そう、「栄養失調」の状態に陥るのです。

サンゴがマイクロプラスチックで栄養失調になると、褐虫藻も必要な肥料が得られなくなります。その結果、褐虫藻が光合成によって生成した栄養物と酸素をサンゴに提供し、サンゴが褐虫藻に必要な二酸化炭素や肥料(サンゴにとっては老廃物)を渡すことで成り立っている共生関係が壊れ、白化現象を招くことに――このようにマイクロプラスチックが原因となってサンゴと褐虫藻の共生関係を阻害させるとの研究結果も発表されています。

マイクロプラスチックはサンゴを病気にする!?

栄養失調だけではありません。マイクロプラスチックには、化学物質や細菌が付着していますが、サンゴがマイクロプラスチックを排出しても、細菌類はサンゴの体内に残ることが確認されています。研究室での実験では、染色した大腸菌のついたマイクロプラスチック(マイクロビーズ)をサンゴが摂取した際、48時間以上たってサンゴがマイクロビーズを吐き出した後でも、大腸菌はサンゴの消化管に残っていたことが観察されました。大腸菌が付着したマイクロビーズを食べたポリプは例外なく、2週間以内に死んでしまっています。

サンゴにもいろいろな種類がいるので、すべてが大腸菌やその他の細菌に同じ反応を示すわけではないと思いますが、化学物質や細菌がマイクロプラスチックに付着してサンゴの体内に入り、サンゴの健康を害する、もしくは殺してしまうほどの影響を及ぼす可能性は捨てきれません。海中に浮遊するうちに、マイクロプラスチックが汚染物質を吸着してしまうため、周辺の海水中の汚染物質濃度より濃縮された状態で魚やサンゴの体内に入ってしまうのです。

サンゴを襲う三重苦〜温暖化、酸性化、プラスチック汚染〜

温暖化による海水温の上昇、CO2排出増加による海洋の酸性化(海水が酸性化することでサンゴの殻の形成に影響を及ぼす)だけでもサンゴに壊滅的な影響を与えます。それだけでも深刻だというのに、マイクロプラスチックによる汚染までがサンゴに襲いかかっているのです。サンゴが「世界(海)は住みにくくなったもんだ」と嘆いてはいないとしても、サンゴを取り巻く環境はますます悪化しているのが現実です。

サンゴの映画「チェイシング・コーラル」上映のご案内

映画「チェイシング・コーラル」の上映会イベントを開催します。サンゴの白化現象の実情を浮き彫りにしたドキュメンタリー映画です。是非ご覧ください!

2019年9月5日(火)フィルムナイト『チェイシング・コーラル』〜気候危機を止めるため、今ここから出来ること〜【日比谷】(詳細

2019年9月10日(火)フィルムデイ&ナイト『チェイシング・コーラル』〜気候危機を止めるため、今ここから出来ること〜【逗子】(詳細

参考文献

[1] Roland Geyer, Jenna R. Jambeck, and Kara Lavender Law, Production, use, and fate of all plastics ever made. Science Advances 19 Jul 2017, Vol. 3, no. 7
https://advances.sciencemag.org/content/3/7/e1700782.full

[2] New Plastics Economy report offers blueprint to design a circular future for plastics, Ellen MacArthur Foundationhttps://www.ellenmacarthurfoundation.org/news/new-plastics-economy-report-offers-blueprint-to-design-a-circular-future-for-plastics

[3] Randi D. Rotjan , Koty H. Sharp , Anna E. Gauthier , Rowan Yelton , Eliya M. Baron Lopez , Jessica Carilli , Jonathan C. Kagan and Juanita Urban-Rich, Patterns, dynamics and consequences of microplastic ingestion by the temperate coral, Astrangia poculata. Proceedings of The Royal Society B, Biological Science 19 June 2019, Volume 286Issue 1905
https://royalsocietypublishing.org/doi/10.1098/rspb.2019.0726

[4] Austin S.Allen, Alexander C.Seymour, Daniel Rittschof, Chemoreception drives plastic consumption in a hard coral, Marine Pollution Bulletin Volume 124, Issue 1, 15 November 2017 (198-205)
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0025326X17306112#!

海での温暖化現象:グレートバリアリーフの危機を救え

東京事務所の鈴木です。

2016年に、世界遺産グレートバリアリーフのサンゴ礁の白化現象が大きな話題となりました。その後も、毎年夏になると海水温の上昇などによるサンゴ礁の被害が報道されています。引き続き危機的状況にあることが調査研究によって明らかとなっています。

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