「国際交渉」タグアーカイブ

G7合意で水素・アンモニアは排出削減対策として認められたのか?

 2022年のG7では、ロシアのウクライナ侵攻や燃料価格の高騰などを背景にエネルギー安全保障への懸念が高まるなか、気候変動対策の具体的な行動を加速させるため、G7でどのような合意形成がなされるかが、気候変動分野での注目ポイントの一つでした。

 そのなかで、5月のG7気候・エネルギー・環境大臣会合のコミュニケ(共同声明のこと、以下「環境大臣コミュニケ」とします)では、はじめて「水素・アンモニア」が盛り込まれました。このことは「脱炭素手法として水素・アンモニアが認められた」と日本でも報道され、日本が推進するゼロエミッション火力=アンモニア・水素混焼が、石炭火力発電の排出削減対策として認められたのでは?と思われた方もいるかもしれません。本当にアンモニア・水素混焼が石炭火力発電の排出削減対策として認められたと言えるのか、今回は環境大臣コミュニケを読み進めたいと思います。

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なぜ石炭は「叩かれる」のか?〜小泉環境大臣も指摘する世界と日本のギャップ〜

COP25で炎上した日本の石炭政策

COP25開幕時には、グテーレス国連事務総長は「多数の石炭火力発電を計画・新設している地域がある。『石炭中毒』をやめなければ、気候変動対策の努力は全て水泡に帰す」とスピーチしました。また、11日には石炭について「唯一にして最大の障害」とも述べています。

このような国際常識を背景に、今会合では、これまで以上に、日本を名指しした、石炭火力発電推進方針への批判が行われました。

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サウジアラビアと日本の「不名誉な共通点」~温暖化対策の劣等生~

京都事務所の伊与田です。テレビでは、サウジアラビア国王の来日が話題になっていますね。

そんな中ですが、私は、「日本」と「サウジアラビア」という2つの国名を見ると、これらの国の間の「不名誉な共通点」を思い起こさずにはいられません。

結論から言いましょう。

サウジアラビアと日本の、意外で不名誉な共通点。

それは、地球温暖化問題の解決の足を最も引っ張っている劣等生ということです。

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書籍『地球温暖化は解決できるのか パリ協定から未来へ!』を読む

京都事務所の伊与田です。

「地球温暖化やパリ協定について、わかりやすい本は?」

最近、大学や自治体、企業や市民団体などから「地球温暖化問題やパリ協定について講演してください」と依頼をいただくことがよくあります。先日も、とあるセミナーでお話したとき、参加していた方から声をかけられました。

「自分でも少し勉強してみたいのですが、地球温暖化やパリ協定について、初心者向けのわかりやすい本はありませんか?」

そう聞かれたとき、頭に思い浮かんだのが、こちらの本です。

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身近な気候問題への危機感~気候ネットワークでのインターンを振り返って~

 はじめまして。2016年度8月から気候ネットワークの京都事務所でインターン活動をさせて頂いた侯暁と申します。短い間でしたが学ぶことが多く、とても有意義な参加となりました。

 以下では、未熟ながらもインターンの活動中に学んだこと、感じたことを書いていきたいと思います。

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G7伊勢志摩サミットはパリ協定の実施を加速させられるか?

こんにちは。京都事務所の伊与田です。

私は今、G7伊勢志摩サミットのため、三重県の国際メディアセンターに来ています(今朝は下の写真の通り記者会見を行いました)。気候変動・エネルギーから見た今回のサミットの背景やポイントをまとめてみました。

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インターンが見たCOP21~会議場で感じたこと~

こんにちは!気候ネットワークでインターンをしています、津田です。

僕は、フランス・パリで行われたCOP21(気候変動枠組条約第21回締約国会議)にオブザーバーとして参加しました。法的拘束力ある「パリ協定(Paris Agreement)」が採択されるという歴史的瞬間に立ち会えてよかったです。

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日本でもCOP21はニュースになっていますが、今回の記事ではCOP会場内で見たこと、感じたことについてご紹介します。

世界中から関係者が集結。会場は過去最大級の規模に!

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会場の立ち並ぶメインストリート。その広さはテーマパーク顔負け!

COP21パリ会議では、京都議定書に続く気候変動の国際的な新枠組みの合意の実現をめざした交渉が行われました。世界の温暖化対策次第で、今後の世界平均気温上昇の度合いが1~2℃も変わってしまうと言われています。そのため、世界中から気候変動に関係する多くの人がパリに集結しました!

COP21の会場はパリの郊外にある「ル・ブルジェ空港」の敷地内にテントのような仮設会場(とはいっても、何千人を収容できる大規模なテントですが…)を建ててつくられています。今回のCOP21会場には、のべ約4万人が来場しました。あまりの広さに、どこに何があるのかを把握するだけで初日が終わってしまうほどでした…笑

会議初日の11/30には、150か国以上の首相が集結し、COP21と気候変動に対して演説を行いました。これほど多くの国の首相が集まるのは、ニューヨークの国連本部を除いては異例のことです。気候変動問題解決に向けて世界各国がいかに本気か伝わってきます!

COP21会議場内のいたるところでアクションが!

COP会場内では、交渉以外にもさまざまなイベントが行われました。今回のCOPには3000人とも言われるほど多くのメディア関係者が訪れています。そのため、世界に伝えたいことのある人は、メディアを通して世界に発信してもらえるよう、会議場内のメインストリート部分などでアクションを行います。

僕も途上国における石炭火力発電所の計画中止を求めるアクションに参加しました。現地のNGOは石炭火力によって自分たちの生活がいかに蝕まれているかを必死に訴えていました。僕も、海外NGOメンバーと声を合わせて、「キャンセル・コール(石炭やめよう)!」と叫びました。

脱石炭を訴えるアクション!僕も参加させていただきました。
脱石炭を訴えるアクション!僕も参加させていただきました。

 

COP会場で聴いた、世界中の人々の心からの訴え

COP21では、気候変動問題を解決しようと世界中の人々が一つの会場に集まっています。そのため、日本国内では触れることのない様々な「生の声」を聴くことができます。脆弱な途上国の人々が今まさに気候変動の影響に苦しんでおり、今すぐの行動が必要だと訴える声を何度も耳にしました。また、気候変動の原因となる化石燃料、特に石炭に関連する事業をやめ、再生可能エネルギー100%の未来へ転換するべきだというメッセージも多く目にしました。

たとえば、先述の石炭火力発電所反対のアクションもその1つです。今回参加した石炭火力発電所反対アクションのメインターゲットはインドネシア・バタンの石炭火力発電所建設計画でした。この計画の資金源は、日本の企業からの出資がそのほとんどを占めるといいます。

日本の政府や企業は、「日本の石炭火力発電所技術は高効率でクリーンだから積極的に海外に広げるのだ」と説明します。しかしアクションをしていた現地の人に話を聞くと、バタンで計画中の発電所は日本で作られたものと比べて大気汚染物質(窒素酸化物:NOxや硫黄酸化物:SOx)の排出量が数倍も多いそうです。これは、インドネシアの環境基準が緩く、これに合わせて環境対策を緩くするからだとか…。「日本の技術はクリーンだ」と宣伝しておきながら、海外は規制が緩いから環境対策が疎かでも大丈夫という理屈は、海外の人々の生活や健康を軽視しているように感じました。

気になったので調べてみると、この計画は住民の十分な同意を得ないままに押し切られつつあり、インドネシア政府は軍を導引して住民の反対運動の制圧にあたっているようです。日本の企業が関わるプロジェクトが、日本では行われないような低い環境基準のものであること、かつ軍の介入で地元の住民を抑え込むという人権侵害につながっているという現状には衝撃を受けました。ちなみに、COP21で合意されたパリ協定の前文には人権保護の必要性について言及されています。

日本の政府や企業が進めている事業が、現地の人々から反対されている…。これは国内にいるだけでは実感できないことでした。正しい行動をするためには多くの声を聴き現実を知ることが必要です。途上国の実情を知った上で行動しようという姿勢が必要だと感じています。

 


 

参考資料

11月11日開催「セミナー『国際問題化する石炭支援~国際交渉の最新動向とJBIC投融資事業の実態〜」(JACSES、気候ネットワーク、FoE Japan主催)

 

気候をまもり、平和をまもる。パリへの行進「アースパレード2015」に参加しよう!

京都事務所の伊与田です。京都では風が冷たくなり、冬を感じる季節になりました。

COP21パリ会議、間もなく開幕。
温暖化防止の新しい国際ルール合意へ

2015年11~12月、フランスのパリで開催される国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)パリ会議。全ての国が温暖化対策を強化するための、2020年以降の温暖化対策の新しい国際ルールに合意することがめざされています(以下、パリ合意)。

COP21でパリ合意を成功させ、気候をまもることができるか(産業革命前からの地球平均気温上昇を1.5℃未満に抑える道に進めるか)。それとも、合意に失敗し、4℃上昇の「気候危機」に向かってしまうのか。人類だけでなく地球のすべての生き物の未来にとって、いま最も重要なテーマのひとつです。

 

COP21パリ会議の成功なるか?-国連会議の様子COP21パリ会議の成功なるか?-国連会議の様子
©Masayoshi IYODA, Kiko Network 2015

 

気候をまもる、パリへの行進。アースパレード2015

COP21開幕にあたって、安倍総理、米国のオバマ大統領、中国の習近平国家主席を含む世界の147ヶ国の首脳が参加し、パリ合意の成功を期して演説を行う予定になっています。市民から「気候をまもる国際合意を成功させてください」という強いメッセージを送ることで、難航する交渉を打開する世界のリーダーの決断を促す必要があります。

パリ会議の成功と、気候変動のない平和な未来をめざして、COP21開幕直前に、世界の数千万人の市民が一斉に「世界気候マーチ(Global Climate March)」というアクションをする予定です。日本でも、2015年11月28日、29日にアースパレード2015を各地で開催します。

このところ、ひっきりなしにメディアからアースパレードについての問合せの電話がかかってきています(注目されています!)。ぜひみなさんもお誘い合わせの上、お近くのアースパレードにご参加ください。

earth-parade-webアースパレード2015公式サイト

 

あるいは、みなさん自身が、みなさんの地元、団体でプチ・アースパレードを企画してください。少人数でも構いません。その様子を写真に撮影して、特設サイト「100万人のクライメート・アクション!」に投稿してください。

climate-action-album 特設サイト「100万人のクライメート・アクション」

 

パリでは、テロをうけて予定されていた気候マーチが中止に

当然、COP21開催地であるパリでも、大規模な気候マーチが予定されていました。しかし、11月13日にパリで発生した銃撃・爆破事件後、「安全を確保できない」としてフランス政府から気候マーチの開催許可がおりませんでした。本当に残念ですが、安全確保のためにはやむをえない側面もあるでしょう。パリで開催できない分、日本を含む世界中で、気候をまもろうという市民社会の力強い声をパリに届けたいと思います。

 

気候をまもることは、平和をまもること

さて、もしも私が「気候変動は平和を脅かす」と言ったら、こう思う人がいるかもしれません。

「また始まった!何でもかんでも温暖化のせいにするなんて笑」

しかし、(残念なことに)それは本当のことです。ずっと前から研究者は気候変動が食料生産、水資源へのアクセス、人口分布等に影響を与え、紛争や難民発生の要因となり、安全保障を揺るがすことになると指摘しています。世界の平和と安全保障について討議し決定を行う国連安全保障理事会が初めて気候変動を取り上げたのは2007年でした。今から8年も前のことです。

気候変動を防ぐということは、将来起きうる破滅的な自然の変化を防ぎ、平和をまもるということです。さらに、温暖化対策である省エネルギー・再生可能エネルギー普及を進めることは、世界各地に偏在する化石燃料をめぐる緊張を緩和し、紛争を避けることにつながる可能性があります。

シリアの紛争・難民問題と気候変動

シリアの紛争・難民危機についてニュースでご覧になっている方も多いでしょう。複数の調査研究は、シリアの不安定化要因に気候変動があると指摘しています。気候変動によってシリア国内を襲った異常な干ばつ等によって食料生産に甚大な被害がもたらされ、貧困が拡がり、政情が不安定になったことで紛争、難民が発生したというのです。

また、パリやレバノンでのテロ事件後、米国大統領選挙の立候補者のひとりは、気候変動で平和が脅かされ、テロの増加をもたらしうると主張し、気候変動対策の重要性を訴えています。ちなみに、シリアには、パリやレバノン等でテロ事件を起こしたとされるISの本拠地のひとつがあることが知られています。

私は、シリア危機が実際どれくらい人為的な気候変動によるのかという論争に参加するつもりはありません(私は中東地域研究の専門家でも、軍事安全保障の専門家でもありません)。私が言いたいのは、パリ合意を実現し、世界的に温暖化対策を強化しなければ、気候変動との関連の「疑われる」紛争がますます増えるだろうということです。

気候をまもり、平和をまもるパリ合意実現のため、アースパレードに参加してください

気候変動を止めることなしに、世界平和は実現できません。紛争・テロによって、そして気候災害によって傷つき苦しむ人々に哀悼の気持ちを寄せ、平和への祈りを広げるため、世界中の市民のグローバル・アクションに、あなたもぜひ参加してください。

アースパレード2015東京

日時:2015年11月28日(土) 13:00~
場所:日比谷公園野外音楽堂(東京都千代田区)

アースパレード2015京都

日時:2015年11月29日(日) 12:00~
場所:円山公園音楽堂(京都市東山区)

アースパレードの詳細は公式サイトにてご確認ください。

 

*私は、COP21パリ会議参加のためパリに出張するため、日本のアースパレードには参加できませんが、現地で気候をまもり、平和をまもるための活動をしてきます!