あなたも政府に意見を出そう!
問題だらけの「エネルギーミックス」と「温室効果ガス削減目標」

2015年5月1日
気候ネットワーク

1.2030年エネルギーミックスの問題

4月28日、総合資源エネルギー調査会の長期エネルギー需給見通し小委員会で、2030年の電源構成(エネルギーミックス)の案が示されました。その割合をみると、原子力20~22%、再生可能エネルギー電力22~24%、石炭火力26%、天然ガス火力27%、石油火力3%とされています。

(1)省エネ、再エネの見込みが小さすぎる

2030年の電力需要の見通しでは、2013年の9670億kWhから2030年9810億kWhに増加することを前提としています。経済成長を過大に見積もり、技術的に可能である大幅な省エネを見込んでいないことに問題があります。また、再生可能エネルギーは約9%の大規模水力を含めても22~24%と非常に低く見積もっており、風力、太陽光、地熱、バイオマス、小水力などの本来の自然エネルギーは13~15%程度にしかなりません。少なくとも、本来の自然エネルギーを30%以上に増やす目標を掲げて、それを前提に電力システムを改革していくべきです。

政府のエネルギーミックス

(2)原子力発電20~22%は非現実的

原子力発電はこの1年半以上、国内で1基も稼働していません。また、政府は、今後「原発依存度を減らす」ことを大命題としていたはずです。しかし、原則40年の運転期間を前提とすれば全ての原発を動かしたとしても20%に満たないにも関わらず、今回は20~22%も見積もっており、非現実的な数字としか言えません。本案は、稼働期間を60年に延長し、新増設も予定した無理のある案です。未だ収束していない福島原発事故の惨事を直視せず、核廃棄物処理の問題も放置しており、原発依存からの脱却を求める国民の声に背を向けた案といわざるを得ません。何よりも、原発依存度を高めて温暖化対策をしようとした結果、福島のような事故が起き、結果的には火力発電をバックアップにしてCO2が増えたことを考えれば、再び原発を過大に見積もることが逆にCO2増加を招くというリスクを高めることになります。

(3)石炭火力26%と驚異的な多さ

火力発電については、石油と天然ガスを現状から大幅に減らす一方で、CO2排出量の最も多い石炭火力発電を温存させるものです。石炭火力発電所の割合を大きく減らそうという世界の潮流からは大きく逸脱するものです。

(4)国民的議論のプロセスを

現在、エネルギーミックスの議論は、原発依存からの脱却を求めて声をあげてきた国民の意思が全く反映されていません。そもそも、原発依存度を減らして再エネを拡大するという、これまで政権が説明してきた方針からもかけ離れた内容です。
2030年の日本社会・経済と国民生活の将来像にかかる問題であり、国民的議論のプロセスを十分に踏まえて、決定していくべきです。

 

2.2030年温室効果ガス削減目標の問題
「2013年比26%削減」=「1990年比で18%削減」

4月30日には、中央環境審議会地球環境部会2020年以降の地球温暖化対策検討小委員会・産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会約束草案検討ワーキンググループ合同会合において、「日本の約束草案要綱(案)」が示されました。こちらも大きな問題があります。

(1)基準年ずらしのトリック

今回「基準年」とされた2013年の温室効果ガス排出量は、近年のうちで最大の14億800万トン-CO2(確報値)であり、国連気候変動枠組条約や京都議定書の基準とされていた1990年の排出量12億7,000万トン-CO2から約10.8%増えています。2013年比26%削減は、1990年比では18%程度の削減にしかなりません。エネルギーミックスの議論の中では、日本の温室効果ガスの削減目標は「欧米に遜色のない目標をたてる」ことが1つの命題となっていました。しかし、政府は、以下の表を持ち出して、2013年比で数字を比べたとき日本の削減率が最も大きいと説明します。これは、1990年以来削減を続けてきたEUや、近年削減傾向になっている米国の過去の努力を全て無視した上で初めて成り立つ、あまりに酷い議論です。

1990年比

2005年比

2013年比

日本
(審議会案)

▲18.0%
(2030年)

▲25.4%
(2030年)

▲26.0%
(2030年)

米国

▲14~16%
(2025年)

▲26~28
(2025年)

▲18~21% (2025年)

EU

▲40
(2030年)

▲35%
(2030年)

▲24%
(2030年)

出典)約束草案検討ワーキンググループ合同会合資料

emissions-trend&target-3-major-economies

 

2013年に開催されたCOP19では、日本はそれまでの国際公約であった「2020年25%削減」を破棄し、基準年を2005年にずらして「2020年3.8%削減」を示したために世界から顰蹙を買いました。今、ここでさらに基準年を2013年に変更し、削減量を10%以上かさ上げするばかりか、「欧米と遜色ない」数字に見せようとするために本質的な排出削減努力ではなく、「基準年ずらし」で排出削減を大きく見せようとするのは、国際交渉で日本の信用をますます失墜させることになるでしょう。すでに海外の識者やNGOから、今回の発表の目標水準及び基準年に対する懸念と批判の声があがっています。

(2)低すぎる削減目標はパリ合意の成立を危うくする

国際交渉では、2015年末のCOP21パリ合意に貢献するため、削減目標を深掘りすることが求められています。そして、提示した削減目標案については、自らの目標値が野心的で、公平な数字であることを示す必要があります。「2度目標」を達成するためには、先進国が2020年までの目標として、90年比25~40%の削減が求められていました。そして、さらに深掘りした2030年の目標をたてることが国際社会の要請でした。それに対して世界第5位の排出大国である日本が「2013年比で2030年26%削減(1990年比18%減)」というレベルでは、パリでの合意を危うくすることにもつながりかねません。

(3)「2050年80%削減」に向けた道筋としても不十分

IPCC第5次評価報告書で指摘されているように、大気中の温室効果ガスの累積排出量を減らすためには、長期目標に加え、そこに至る排出削減の経路が重要です。かつて閣議決定した長期目標「2050年に80%削減」に直線的に向かう経路からは、「2013年比で2030年26%削減(1990年比18%減)」は不十分です。2030年の排出量を大きく見積もることは、2050年80%削減に取り組むことになる将来世代へ負担を残すことになり、決して適切とは言えません。

「2050年80%削減」に向けた経路をたどるためには、気候変動に取り組むNGOのネットワーク・CAN-Japan提言のように、2030年に1990年比で40~50%の削減が必要です。

japan-emission-trend&target-18

3.あなたも、政府に意見を出そう!

政府の審議会は2030年のエネルギーミックス及び温室効果ガス削減目標の案をまとめましたが、数字の根拠も十分に示されず、決定までのプロセスなども不透明です。2007年の麻生政権時や2012年の国民的議論の経験を踏まえ、特定の利害関係者だけでなく、広く国民の意見が反映される必要があります。

エネルギーミックスについては、現在、「長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)に関する意見箱」が設けられています。私たちが意見を政府に伝える公式の場です。まずは、エネルギーミックスに対しての意見を、意見箱に提出しましょう(政府はパブリックコメント実施については現在検討中としています)。

温室効果ガスの排出削減目標については、今後政府が原案をまとめ、パブリックコメントを実施し、地球温暖化対策推進本部で決定した上で、国連(気候変動枠組条約事務局)に提出するとしています。現時点では政府原案とパブリックコメントの詳細は発表されていませんが、こちらも注目してください。

脱原発と温暖化防止を両立し、持続可能な社会を実現するため、周りの団体・知人・友人にも呼びかけて、ぜひ1人でも多く私たちの意見を政府に提出しましょう!

参考ウェブページ

エネルギーミックスの意見箱への提出方法

インターネットの送信フォームへの記入、電子メール、ファックスまたは郵送での提出も可能です。ファックス、郵送の場合には、次のページに意見提出様式を添付しましたので、こちらをご利用下さい(電子メール送信の場合には、件名を「長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)に対する意見」とし、申込み事項をテキスト形式で送付して下さい。意見提出様式にご記入の上、添付して送付していただくことも可能です)。

経済産業省 資源エネルギー庁:長期エネルギー需給見通し(エネルギーミックス)に関する意見箱